553話 骨董品の価値
「またダメかー」
「ムー」
骨董品を探し始めて1時間。もう30個は買っているんだが、骨董知識が解放されることはなかった。
倍以上の価値がある品物をゲットできていないってことなんだろう。
「それに、いくつか骨董品ぽくないアイテムもあるんだよね」
「ム?」
「そうそう。それとかね」
オルトが正に今手に持っている人形などもそうだ。日本人形や西洋人形、テディベアみたいな、価値がありそうなタイプじゃない。
もっとこう、お土産的な? バリとかで売ってそうな木彫りの人形に、首の動かない赤べこ風の置物である。
それ以外にも、トーテムポール風の仮面や、巨大だが半分に割れてしまった貝殻など、骨董品の中に入れていいのか分からない品が結構あった。
何でそんなものを買ったのかって? そりゃあ、うちの子たちが欲しがったからだよ。あとは、少し変わったところから攻めてみようとも思ったしね。
「これだけ買って当たらないってことは、考え方を変えなきゃダメか?」
どうせ見たって分からないと思って、運任せで選んでいた。だが、もっとしっかり見てみたら、価値が高そうかどうか分かるんじゃないか?
そう考えて、俺は骨董品をもっとジックリ眺めて選ぶことにした。
さっき壺を買った店に戻り、他の商品を見せてもらう。これがまた、悩ましい。
じっくり観察してみると、どれも怪しく見えてくるのだ。例えば、絵の描いてある磁器。これは、絵が綺麗だとコピー品みたいに見えるし、下手な奴もそれはそれで価値があるようには見えない。
「うーん」
磁器の皿を手に持って何気なく裏側を見てみたら、そこに青い顔料で不思議なマークが描かれているのに気が付いた。
カイトシールドに十字が描かれたようなマークである。そう言えば、骨董品を鑑定する番組でも、鑑定士が裏側をよく見てたよな。
焼き物だと高台とか言うんだっけ? ともかく、ここを見るということを全くしていなかった。
改めて買った品物を確認すると、どれにもマークや名前が入っている。工房を表しているのだろう。まあ、だからと言って、意味が分かるわけじゃないけど。
それでも何かのヒントにならないかと骨董品を見ていくと、スキルのレベルアップがアナウンスされた。
上がったのは、解読スキルだ。どうやら、骨董品の銘を読むことでスキルの熟練度が上がっていたらしい。解読スキルは町の看板を見るだけでも経験が入るので、意外と簡単にレベルがアップしていた。
これで、もうレベルが10なのだ。
すると、俺は自身に起きたある変化に気づいた。
「ちょっと読めるな」
変なマークだと思っていたら、この世界の文字だったらしい。いつの間にか、見えているマークが微妙に変化している。
解読スキルが低レベルである場合、視界に制限がかかるようだ。これ、解読スキルは今後重要になるんじゃないか?
何かの謎解きとかに必要になるかもしれないし。取得しておいてよかった、ソーヤ君、魔本を勧めてくれてありがとう!
筆写のレベルを上げて、魔本スキルをゲットできるように頑張ろう。それが、ソーヤ君に対する一番の恩返しになるのだ。
「ま、今は解読が先だな。オルト、その辺の骨董品を順番に俺に渡していってくれ」
「ムム!」
まずは壺からか。
そうやって銘を確認していくと、いくつか分かったことがある。
まず、解読スキルがあっても読めない銘は存在している。これが、意匠のみで文字が含まれていないからなのか、スキルレベルが足りないからなのかは分からない。
ただ、安物だったことを考えると、後者の可能性は低いんじゃないかと思う。
磁器は工房の名前。焼き物や人形は作者の名前が書かれているようだ。
この辺の作者や工房の作品は安いってことだから、今後買わなくていいだろう。
そうやって情報を整理した後、俺は再びバザーへと繰り出した。露店を流しながら、見覚えのないマークや銘のものだけを選び出して、購入していく。
そうやって骨董品を買うこと5つ目。ようやく、待ちかねていたアナウンスが聞こえた。
骨董知識が解放されたのだ。俺はさっそくそのスキルを取得してみる。
「ほうほう。なるほど」
鑑定に新情報が追加されるようになった。より細かい価値に、製作者や製作工房の名前。あとは、古さだ。
ただ、まだ骨董知識のレベルが低いせいか、その情報はアバウトである。価値はだいたいだし、製作者が不明の物も多い。古さも、凄く古い、ちょっと古い、近代など、判断に困る表記であった。
まあ、今後レベルが上がれば、思わぬ掘り出し物などをゲットできるかもしれん。バザーなんかで育てていこう。
「うーん。価値的にはプラマイゼロくらいか?」
ここまで購入した骨董品を見ていくと、得をしている物もあれば、損をしている物もあった。中には1000Gで購入したのに、価値は100Gというものさえあったのだ。
ただ、最後に得をしたので、結局はトントンくらいだろう。
「で、一番価値があったのが、この工房の作品か。ドゥーベ工房?」
「ヒムー?」
「やっぱ興味あるか?」
「ヒム!」
磁器に綺麗な絵付けが施された、飾り皿である。農作業の光景かな?
ヒムカが軽く叩いたりして、その皿を観察していた。どうやら、出来がいいというよりは、もう作られていない稀少性から値段が上がっているようだ。
2000Gで買ったこのお皿も、15000Gの価値があるらしい。この工房の食器、凄くきれいだし、集めてみようかな?