548話 ボス周回の前に情報売ります
挨拶したのに、アリッサさんがプルプルした状態で固まってしまった。
「アリッサさーん?」
「……」
あれ? 俺の事見えてない? 目の前で手を振っても反応がなかった。
俺かアリッサさんのネットワーク接続に何か問題が? いや、どう考えてもアリッサさんの方だろう。
「え? 大丈夫なのかこれ?」
ちょっと離れた場所に立っているルインたちに視線を向けるが、何故か微妙な顔で肩を竦めるだけである。
「ユート、くん……」
「あ、なんだ動けたんですか」
もしかして、無視して驚かせよう的な奴? 大リーグのサイレントトリートメントだっけ? 普通に引っかかってしまったぜ。
「驚かせないでくださいよ」
「そ、それはこっちのセリフよっ! 毎度毎度毎度毎度! い、胃と心臓がっ! くっ、バイタルがっ!」
な、なんか怒ってらっしゃる?
「ど、どうしたんですか?」
「どうしたって――ふぅぅぅ。こほん。ごめんなさい、ちょっとだけ取り乱しちゃったわ」
「ちょっと?」
「ほんのちょっとだけ! 取り乱してしまったわ!」
アリッサさん、やっぱちょっと怒ってるっぽいんだけど……。
「なんか怒らせるようなこと、しました?」
「ごめんなさい。ユート君に怒ってるんじゃないから。なんていうか、ちょっとくらい資金を集めたくらいで今度こそ問題ないって思ってた自分の甘さに怒ってるだけだから」
「は、はぁ」
俺に怒ってないならいいや。
その後、キャロのことをガン見するアリッサさんに連れられて、俺はなぜか早耳猫の露店へと向かうことになった。
「あの、ルインたちは大丈夫なんですか?」
「大丈夫。待機って伝えたから。分かってくれるわ。それよりも、売ってくれる情報、あるのよね?」
「はい。色々ありますね」
「い、色々……いい顔で即答……!」
「はい?」
「なんでもないの。嬉しいとこんな顔になっちゃうの」
リリスの進化なんかに関しては、ハイウッドたちから聞いているのだろう。ただ、それだけじゃないからね。
俺的には今日の最後に一括でと思っていたんだけど、アリッサさんは先に済ませてしまおうと考えたらしい。俺としてはどっちでも構わないのだ。
「えーっと、まずはこっちで確認できている、悪魔ちゃんの情報から売ってもらってもいい?」
「進化の情報と、闇呪術に関してでいいですか?」
「呪術、もう検証したの?」
「1回使っただけですけどね」
リリスのデータを見せつつ、強化された部分や呪術の使用感を語る。まあ、未だに悪魔はうちのリリスしかいないようだし、あまり高くは売れないだろうな。多くの人が求める情報ではないのだ。
実際、アリッサさんにもそれほど驚いた様子はない。
「なるほど、夜にしか使えない呪術ね。でも、宵闇の特性を考えると、昼に使えないとイマイチよね。レベルを上げれば昼にも使えるようになるのか、洞窟内などでの使用を想定してるのか……。悪魔ちゃんを召喚したときみたいな、魔法陣の変化は起きなかったのね?」
「はい。あれはレアな現象だと思うんで、そうそう起きないですよ」
「あははは、そうね」
なんか、笑い声が乾いてない?
「じゃあ、悪魔ちゃんの情報はこれでいいとして、次に聞きたいのはお庭の情報かしらね」
「お庭?」
「ええ。ユート君、第10エリアにある獣魔ギルドの庭に入ったでしょ?」
「え? 知ってるんですか?」
「はぁぁ。結構騒ぎになってるわよ」
言われてみれば、あの庭は使役系のプレイヤーにとって癒しの場だ。多くのプレイヤーたちが、俺があの庭の中に入ったところを目撃していたんだろう。
俺だって、自分以外のプレイヤーがあの庭で遊んでたら、自分も入りたいと思うはずだ。そりゃあ、騒ぎになるだろう。
「もしかして、俺だけズルいとか、そんな感じでしょうか?」
炎上してる? だとしたら怖いんだけど! だが、そうではないらしい。
「うらやましいって話はあるけど、そこまで嫉妬するような雰囲気ではないわね。むしろ、さすがユート君。きっと自分たちにも情報を開示してくれるはずだから、それを待とう。まあ、そんな感じ?」
「はぁ。妬まれてないならいいです。情報も、隠すつもりないですし」
ということで、俺は全ての情報を語った。庭だけではなく、その先のこともついでに話してしまおう。
チェーンクエストに続きがあったこと。その関係でサジータと庭で出会ったこと。チェーンクエストで得られた、進化関連の情報。また、それとは別に流派に誘われたこと。流派クエストによって、見習い騎士の森へと入れるようになったこと。そこで、ムーンポニーのキャロをテイムしたこと。あとは、今朝得た作物の情報も喋っちまえ。
「まあ、こんな感じですね」
ふー、一気にしゃべり過ぎて、喉が渇いたぜ。こんなところまで再現してるんだから、凄いよな。
「う……」
「アリッサさん?」
アリッサさんがふたたび震え出す。そして――。
「ううぅぅ……うみゃあぁぁぁぁぁ! たった2日でぇぇぇぇっ!」
叫んだ。
「うおっ!」
今回の叫び声は大きかったな! 思わずビクッとしちゃったぜ。
アリッサさんはカウンターにつっぷして、頭を抱えて叫んでいる。
しかし、アリッサさんもこのロールプレイを情報売りにきた人みんなにやってるんなら、メチャクチャ大変だよな。頑張ってください。
「し、新呪術に庭だけでもヤバいのに、チェーンクエに退化に新流派に新フィールドに騎乗モンスで新魔術? おまけに霊桃と新果実? くっ、耐えるのよ私。これ以上の失態は許されないわ!」
しばらく俯いてブツブツと何やら呟いていたアリッサさん。だが、すぐに顔を上げると、ニコリと微笑んだ。いつもこの時の笑顔がなぜか怖いんだよね。
「キャロちゃんの情報料の計算は、今日一日色々と検証してからでいいかしら?」
「は、はい。それでお願いします」
「ただの周回作業だと思ってたけど、すっごく楽しみになってきたわねっ!」
やっぱ、怒ってません?
2回目のワクチン接種があるので、次回更新は10/4予定とさせてください。
コミカライズ最新話が公開されました。まだお読みでない方は、ぜひチェックを!
作者のもう1つの作品、「転生したら剣でした」のアニメ化が決定いたしました。
出遅れテイマーと一緒に、転剣もよろしくお願いいたします。