546話 肥料の成果
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今日は早耳猫への検証協力最終日だ。ボスを周回することになるだろう。正直、どれだけの金額をつぎ込んでいるのか怖いが、爆弾がなけりゃ高速周回なんて無理だろうしな。
それに、ボスの激レア素材の情報なら高く売れるだろうし、元が取れる自信があるのかもしれない。
「ま、その前に畑仕事だけど」
「ムッム!」
俺は出迎えてくれたオルトたちとともに、畑へと向かう。そこで、俺は驚きの光景を目にしていた。
「ちょ、火が! 畑が燃えてるんだけど!」
微炎草が植わっている一角に、ユラユラと揺れる赤い炎が見えたのだ。慌てて近寄るが、オルトたちに焦る様子はない。
なんでだ? 異常事態じゃないってことか?
火が出ているのは、微炎草が植えられている畑であった。微炎草は『炎』という字が入っていても、実際に燃えているわけではない。
火属性を内包した、赤い草というだけだ。しかし、目の前にある草は、しっかりと燃えていた。
形が近いのは、ちょっと大きめのカラーの花だろうか? 赤いカラーのラッパの中に、拳大の炎が灯っているイメージだ。
近寄って鑑定して、ようやくそれが何なのか分かった。火炎草という微炎草の上位種だったのだ。
赤都のある東の大山地に生えているらしいが、俺はまだ奥まで行っていないので未見であった。
「なんでここに? 変異した? ああ、そうだ! ここ、肥料をまいた場所か!」
火化肥料を使用した微炎草だった。どうやらオルトの目論見通り、変異したらしい。火炎草自体は、今の俺なら簡単に手に入る。
だが、肥料によって変化したという事実が重要だった。
「ほ、他のはどうだ?」
「ムム!」
オルトと一緒に畑を見回っていく。すると、いくつか変異した作物を発見することができていた。
その一つは水耕プールの水草だ。空気草が、水湧草という草に変わっていた。あとは、薬草である。なんと、中薬草という1つ上のランクの作物に変異していた。
見た目は、白いスズランのような花の付いた薬草だ。だが、効能は間違いなく通常の薬草よりも一段上だ。
これがあれば、中級ポーションが作れるらしい。現状では、最高レベルの回復薬である。
噂には聞いていたけど、入手方法が不明だったのだ。これを入手したプレイヤーは、先日のオークションのランダムボックスで手に入れたらしい。
これは、すごい情報なんじゃないか? それとも、アリッサさんたちならもう分かってるかね?
まあ、これもあとでアリッサさんに話してみるか。
他には、暴風草、赤テング茸にも肥料と栄養剤を使用したはずだが、変異している様子はなかった。ただ、品質が非常に高いものがあったので、これが肥料のおかげかな?
変異しない場合は、品質が上昇するってことか。これって、変異に失敗しただけなのか、この組み合わせでは品質上昇効果しか得られないのか、微妙なところだ。
オルトが指定して撒いたから、ただ品質が上昇するだけってことはないと思うんだよな……。
色々と肥料を撒いて、研究していくしかないだろうな。
「あとは果樹か」
「ムム!」
緑桃に色々と使用したのだ。すると、こちらでも変化している物があった。
まず、魔化肥料、栄養剤を撒いた緑桃の果樹にいくつか変な実が混ざっていた。普通に桃だ。緑色の桃の中に、薄いピンク色の桃が生っていたのである。
「霊桃か。毒、麻痺、呪いの治癒効果があるっぽいな。え、これって結構すごいんじゃない?」
食べただけで毒や呪いが治るとしたら、絶対に欲しがる人がいる。
あと、属性肥料を撒いた各緑桃の樹にも、ちょっとだけ変わった桃が付いていた。ただ、こっちは基本緑桃だ。だが、少しだけ光を放っていた。
鑑定してみると、緑桃・魔果実となっている。どうやら、緑桃のままで特殊な効果を得たらしい。だが、鑑定の情報では、魔力を含んだ緑桃としか書かれていない。
「うーん、これも要研究か。オルト、魔果実って、これからも生るのか?」
「ム? ムム」
どうやら、もう生らないらしい。つまり、また肥料を撒く必要があるってことだ。実験用の魔果実を得るだけでも結構時間がかかりそうだった。
「とりあえず、味だな」
効果は気になるけど、一番重要なのは味だ! より美味しくなっていたら、料理にぜひ使ってみたい!
「中薬草、火炎草、水湧草は株分けだな。なあ、この辺の果実は、株分けして植えたら、その果樹になるのか? それとも、緑桃にしかならない?」
「ムーム」
「うん?」
俺が手渡した桃を、首を横に振りながら突き返してくるオルト。どうやら、霊桃、魔果実、ともに株分けできないようだ。
「まあ残念だけど、また肥料を撒けば収穫できるんだろ?」
「ム!」
「なら、また作ればいいさ。それよりも、この桃の味見だ!」
「ム!」
さっきから甘い匂いがしていて、辛抱たまらんのである。匂いが強化されてるっぽい。
そうして桃を切ってみたんだが、色々と面白いことが分かった。
まず、霊桃。これは普通に美味しかった。ジューシーで甘い、高級な桃様だ。以前、社長からの差し入れで食べた1玉1000円の桃を超えるだろう。
これはもっともっと欲しい。魔化肥料、栄養剤の量産を視野に入れるか。
で、面白いのが魔果実の桃だ。全部、味わいが違っていたのだ。果汁が溢れてくるもの。香りが非常に強いもの。甘みが強いもの。歯ごたえがシャクシャクとしたもの。
どうも、与えた肥料の属性で変化しているらしい。果汁が水、香りが風、甘みが火、歯ごたえが土っぽかった。
「これもたくさん欲しいぜ。やはり肥料だ。肥料が必要だ」
「ムム!」