544話 月魔術
テイム成功直後、ムーンポニーの姿が消えた。パーティ上限を超えたため、ホームに送られたのだ。
目的も果たしたし、一度ホームに戻ろう。
俺はうちの子たちを連れて、見習い騎士の森の入り口に向かった。おっさんが笑顔で話しかけてくる。
「テイムできたようだな。おめでとう」
「ありがとうございます」
「それにしても、ムーンポニーとはな。珍しいのをテイムしたじゃないか」
ゲーム的なアレで、俺がムーンポニーをテイムしたことを分かっているらしい。
「やっぱ、特殊なモンスターなんですか?」
「そりゃそうだ。月夜の晩にしか現れず、見つけるのも一苦労なモンスターだ。よく見つけたな」
「偶然ですよ。うちの子が違和感に気づいて」
「気づけても気難しいし、仲間にできるかどうかは分からんからなぁ」
本当に運が良かったようだ。違和感に気づいたリックと、あそこで攻撃しなかった自分を褒めてやりたいぜ。
俺はおっさんに別れを告げて、見習い騎士の森を後にした。
ホームに戻ると、すぐにうちの子たちが寄ってくる。その中に、ムーンポニーもいた。既に仲良くやっているようだ。
背中にルフレ、頭にファウを乗せている。
「馴染んでるな」
「ヒン!」
「フム!」
「ヤー!」
とりあえずムーンポニーのステータスを確認しておこう。
名前:キャロ 種族:ムーンポニー 基礎Lv15
契約者:ユート
HP:50/50 MP:51/51
腕力10 体力14 敏捷13
器用7 知力13 精神10
スキル:隠蔽、騎乗、消音歩行、月魔術、突撃、魔力加算、夜目
装備:なし
ユニーク個体か! 最初から名前があるぞ。キャロというのは、キャロットからか? それともギャロップ?
能力的には、なんと魔術師タイプだ。ただ、体力と敏捷もあるので、騎乗モンスとしてもきっちり仕事をしてくれるだろう。
スキルをまとめると、こんな感じである。
隠蔽:じっとしている間、敵から身を隠す。
騎乗:騎乗時、自身と騎乗者を強化。
月魔術:月の力を操る魔術。
消音歩行:歩行時、全身の音が抑えられる。
突撃:駆け足での体当たり。
魔力加算:自身の魔力の一部を、騎乗者に付与する。
夜目:暗い場所でもしっかりと見える。
完全な初見のスキルを2つ所持していた。
魔力加算は、要は騎乗中に俺の魔力が上昇するってことなんだろう。まだキャロのレベルがさほどでもないので効果は低いだろうが、魔術主体の俺には十分有難い。
それに、育てば凄い威力を発揮するようになるかもしれないのだ。
で、問題はもう1つのスキル、月魔術だろう。正直、何ができるのか全然分からん。ただ、透明化していたのは、月魔術のおかげだと思われた。
隠蔽は気配を殺せても、さすがに透明にはなれなかったはずだからな。
「月魔術って、何ができるんだ? ここで使えるか?」
「ヒヒン!」
俺の言葉に、キャロが軽くうなずいた。そして、すぐに変化が訪れる。
軽く光ったかと思うと、その姿がすぐに見えなくなったのだ。やはり、透明になるのは月魔術の効果だったか。
しかも、この透明化はただ姿が消えるだけではなく、匂いや気配、音なども消すことができた。
あの時リックが隠れたキャロに反応できたのは、この透明化が完璧ではなかったからだろう。
あの広場は、リリスの闇呪術、夜明の呪の効果範囲に入っていた。これは、夜の効果を一定時間消し去るという効果の呪術である。
多分、月魔術は日中では効果が下がるのだ。そのせいで気配が漏れていて、それにリックが気づいたのだろう。
それ以外にも、驚いたことがある。なんと、キャロの上に乗っていたファウたちの姿まで見えなくなってしまったのだ。
自分だけではなく、騎乗者にも効果が及ぶらしい。もしかしたら、魔力加算の効果?
さらに検証をすると、透明なキャロにあとから乗っても、透明にはならなかった。また、ファウたちがキャロから離れると、透明化は解除されてしまう。
つまり、月魔術発動時にキャロに乗り、その後はずっと接触状態にならねばならなかった。また、激しく動いてもアウトだ。
ゆっくりと歩いていないと、簡単に解除されてしまった。効果時間は3分ほどだろう。
それでも、俺のようなタイプには非常に有用な能力である。奇襲にも逃走にも使えるし、これは重宝するだろう。
もう1つ使える月魔術が、魔力を回復させる光だ。自分の消費MPよりも相手の回復量が少ないので効果は微妙だが、緊急時の奥の手にはなりそうだった。
月魔術はかなりクセが強そうだけど、レベルが上がれば使える魔術が増えるだろうし、今からどう成長するか楽しみだ。
「装備品は、鞍か。あと、首とか足にアクセサリー系を装備可能か」
鞍なんて、どこかで入手可能かね?
ここは、すでに騎乗モンスターに乗っている知人を頼ってみようかな。
フレンドリストを確認すると、目当ての人物はまだログイン中だ。メールを送ってみると、すぐにコールが返ってきた。
『やあ、ユート君。久しぶりだね!』
「ああ、久しぶり。今、大丈夫か?」
『ホームでのんびりしていたから、大丈夫だよ』
なんと、西洋風のホームを手に入れたそうだ。ただ、厩舎を設置したために家が狭く、人を迎えられるほどの家具もまだ設置していないらしい。
ちょっと見てみたかったけど、残念だな。
「実は馬を手に入れてさ。それで、鞍とかの入手方法を聞きたかったんだよ。買える場所が知りたくて」
『おお! ついにユート君も馬仲間に! 嬉しいよ! まだ数が少ないからねぇ』
実は、騎乗モンスに乗っているプレイヤーは、全くいないわけではない。ジークフリードのように初期ボーナスでダチョウやロバを入手してたり、騎士の職業イベントで騎乗モンスを入手したりもできるのだ。
まあ、イベントの方はランダムなうえに、成長しない特殊なタイプであるらしいが。どこかで、自力で手に入れなさいってことなんだろう。
それに、ジークフリードは本人も馬も目立つし、初期からいる白馬は1頭しかいないので圧倒的に有名なのである。
『僕の場合、最初は騎士ギルドで買ったよ。最近だと、皮革系の職人に頼んでる』
「なるほど。騎士ギルドか」
正直、何も知らない状態では職人に頼みづらいし、まずは初心者向けの鞍でいいだろう。そう思っていたら、ジークフリードが意外な提案をしてくる。
『買うよりも、僕のお古を譲ろうか?』