541話 闇呪術
リリスが闇呪術を使用したことで、赤黒い光を放つ魔法陣が浮かび上がる。
樹呪術と同じ、二重五芒星の魔法陣だ。色のせいでどこか邪悪にも見えてしまうが、大丈夫だろうか?
少し不安になっていると、ウィンドウが立ち上がる。
「宵闇の呪?」
「デビ」
効果は、周囲のフィールドに夜の性質を与え、強めるというものだった。
フィールドやホームでこの呪術を使うと、朝や昼でありながら、効果範囲は夜でもあるという扱いになるらしい。つまり、夜にしか効果が出ないスキルなどを、昼でも使えるようにするってことなんだと思う。
また、夜に使えば夜の属性をより強くもしてくれるっぽかった。
ネクロマンサーなんかだと、非常に重宝する呪術だろう。アンデッドは、夜になると少し強くなるらしいしね。クリスとか、絶対に欲しがるのだ。
闇属性の素材を10個捧げると使用できるらしいが、ギリギリだな。1回分はあるんだけど、他の呪術も気になる。
リックの場合、最初から4つの呪術が使用可能だった。リリスに聞いてみると、やはり4種類の呪術があるらしい。
2つ目の魔法陣を展開してもらうと、こちらは夜明の呪という名前だ。
宵闇とは逆で、効果範囲内の夜や闇の力を弱める性質があるようだった。夜に強化されたモンスターなどを、弱体化させる効果があるらしい。
そして、3つ目が闇行の呪。パーティメンバーに闇の加護を与え、一定時間、夜や闇の中でも問題なく行動できるようにするという呪術だった。
夜目や暗視に加え、夜間弱体化の無効や、闇耐性付与などが複合されているのだろう。
そして4つ目が解呪。これは前述3つの呪術の効果を自分で解除するための術だった。捧げものは必要なく、残りの効果時間が長いほど、術者の魔力を消費するらしい。
「うーん、どれも使用素材は同じか」
どれかは使ってみたいけど、使えるのは今は1回。だとすると、宵闇の呪よりは、夜明の呪か闇行の呪の方がいいかな?
「闇行はなんとなく想像できるけど、夜明はいまいち分からんのだよな」
今使ったら、この周辺だけ昼になるのか? それとも、夜の属性が弱まるだけで、目に見える変化はないのか?
「ま、検証代わりにこっちを使ってみよう。リリス、夜明の呪を発動だ!」
「デビー!」
俺が闇属性の素材などを捧げて呪術を発動させると、一気に魔法陣が輝いた。ユラユラとした赤黒い光が勢いよく立ち上り、やはり邪悪さを感じずにはいられない絵面だ。
まあ、俺が心配するようなこと、何も起こらなかったけど。羊頭の悪魔が現れることも、名状しがたい邪神が現れることもなく、普通に光が発せられただけだった。
放たれた光がドーム状に広がり、弾けて消える。
多分、この広場全域くらいの効果範囲だろう。
「夜は夜のままだな」
「デビ」
光が降り注いだりすることもなく、フィールドは今まで通りだ。ぶっちゃけ、何か変わった様子はない。
うちのモンスたちはどうだ?
「変化ある人ー?」
俺が訊くと、手を挙げる子が2人いた。オレアとリリスの2人だ。
「オレアはどんな変化があったんだ?」
「トリー」
「ふむ?」
「トリリー」
オレアが俺の前にくると、仁王立ちで天を見上げた。口を半開きで、ポケーッとした顔をしている。ちょっとヨダレ出てない?
「えーっと、どういうことだ?」
「トリー!」
「お、怒るなって。もう1回頼む」
「トリー」
うーむ。何度見ても、阿呆面が可愛いオレアにしか見えん。気持ちよさそうではあるか? 日光浴とかしてるとこんな感じになるかもしれない。
「あ! 日光浴! つまり光合成か!」
「トリリ!」
どうやら、夜でも光合成が可能になったと言いたかったようだ。夜明の呪の効果だろう。日の光は出ていなくとも、完全な夜扱いでもないってことらしい。
「リリスは何が変わったんだ?」
「デービー」
リリスは手を前に突き出すポーズの後、両手を顔の前でシャキーンと交差させて、バッテンを作る。
「もしかして、ここだと闇呪術が使えない?」
「デビ!」
今回は1発で正解できたか。やはり闇呪術は夜にしか使えないようだ。そして、自分の呪術で夜属性を打ち消したことで、闇呪術の使用条件が満たせなくなったということだろう。
範囲外まで出れば、また使うことも可能であるらしいが、自分にも影響が出るんだな。
他に、変化は見つけられなかった。闇属性の素材を集めて、また色々と実験しよう。畑に使えるかどうかも知りたいし。
「中断して悪かったな。またピクニックに戻ろうか」
「デビ!」
「トリー!」
そうしてピクニックを再開したんだが、不意にリックが立ち上がった。
「キキュ?」
「どうしたリック?」
「キュー」
森を見ている。いや、森の手前か?
ただ、そこには何もない。俺たちが座っている原っぱと同じだ。
しかし、リックは何かを感じ取っているらしい。鼻をヒクヒクとさせながら、原っぱを見つめていた。
「うーん、ちょっと調べてみるか」
リックがこれだけ反応するってことは、何かあるのかもしれん。