540話 夜の森でピクニック
「今日は、マップを埋めちゃうぞ」
「クマー」
「キキュ!」
大地獣を倒し、その後のボス周回に付き合った日の夜。俺はまたまた見習い騎士の森へとやってきていた。
ただ、今日はキュートホースを発見することは難しいだろう。もう夜なのだ。
そこで、今日の目標は浅層のマップを完全なものにすることにした。
「トリーリー!」
「オレアは元気いっぱいだな」
「トリ!」
「もしかして、精霊様に会ったおかげか?」
「トリ?」
実はここにくる前に、精霊様の祭壇へと挨拶に行ってきたのだ。いつもなら用事があるのはサクラだけなんだが、今回はちょっと違っていた。
新しい樹精であるオレアがいたからね。何かイベントが起きるかもしれないと考えて、サクラと一緒にオレアも連れて行ってみたのだ。
勿論、サクラは水臨大樹の精霊様の子供みたいなものだし、特別扱いっていう可能性はある。それでも、植物の精霊繋がりで、何か起こるかもしれない。そう思ったのである。
すると、精霊様がサクラだけではなく、オレアの頭もナデナデしてくれていた。さらには、サクラの横に大人しく並ぶオレアに、優しく微笑みかけてくれる。
「新しい子供ですね。よき子です」
「トリー!」
「主と共に、励みなさい」
「トリ!」
まあ、結局、それだけだったけどね。いや、サクラは好感度が上昇しているっぽいから、オレアも好感度が上がっているかもしれない。
それに、特殊な効果がなかったとしてもいいのだ。オレアたちが嬉しそうだったし。
「トリリ~♪」
隣で鼻歌を口ずさむオレアの機嫌の良さを見ていると、好感度は上がってそうだけどね。
「キュルー!」
「またリスか」
相変わらず騎乗モンスターは出現せず、リスやネズミなどの雑魚ばかりが襲ってくる。最初はオレアたちとの連携確認にちょうどいいとか思ってたけど、いい加減に飽きてきたな。
この弱さだともうレベリングにもならないし、作業でしかなかった。
「マップも完成しちゃったし、どうしよう」
「ム?」
「うーん、空き地でピクニックでもするか」
先日の雪の中での鍋パが非常に楽しかったので、ちょっと似たようなことをしたいと思っていたのである。
ゲーム内の素敵ロケーションでのモグモグタイム。いいよね。
広場には蛍光リンドウが生えていたから、夜でも十分明るいはずだ。それに、今日は満月でさらに明るいし、月見ピクニックなんてオシャレじゃない?
「よし! 今日はもう戦闘も探索もヤメ! ピクニックをやります! 広場に向かうぞ!」
「ムムー!」
「トリー!」
「フマー!」
みんな大賛成であるらしい。万歳をしながら、森の広場へと駆け出す。道中の敵は瞬殺だ。そんなにピクニックしたかったんだな。
モンスたちも、カルロとの雪見鍋パが楽しかったのかもしれない。
駆け足で飛び込んだ森の広場は、想像以上に美しかった。
蛍光リンドウが風にそよいで光の粒子を散らし、大きな月がこちらを見下ろしている。月光に照らされた森はそれだけで神秘的で、まるでジ〇リ映画のようだった。
ト〇ロかシ〇神様、出てくるんじゃない?
「デビビー!」
「キキュー!」
「クマー!」
広場に到着したモンスたちは、ババッと散開し、周囲を警戒する。ピクニックの邪魔をする敵を、警戒しているんだろう。
「やる気満々だなー。じゃ、そのまま警戒しててくれ。俺は準備するから」
「ムム!」
「キキュ!」
「クックマ!」
俺の言葉にビシッと敬礼で返し、すぐに周囲の索敵へと戻るモンスたち。戦闘でもないのにこんな凛々しくなるだなんて! そんなにピクニックしたいんだな。
ここまで期待されては、ただお茶を飲むだけで済ませるわけにはいかないだろう。よかろう、我が全ての力を以ってして、最高のピクニックにしてやるぞ!
「ゴザの上に、この布を広げるか。アイネ、ちょっとそっち持ってくれる?」
「フマー!」
「そうそう、そっち伸ばして」
今広げているのは、アイネが作ってくれた布の中でも、特に大きな一枚だ。白地で、周囲には俺の描いた花柄の模様が入っている。
その内、ベッドカバーにでもしようと思っていたんだが、シート代わりに使ってもいいよね。で、使うのはヒムカのカトラリーセットだ。
オークションに出品した奴と同系統のセットを、いくつか作ってもらったのである。白木のトランクの中から、綺麗な皿やコップを取り出して並べたら、それだけでテンションが上がるのだ。
料理はみんなの好物に加え、サンドイッチなんかを並べてみた。ぶっちゃけ、雰囲気造りである。
綺麗な布のシートに、オシャレカトラリー。そして、ピクニック定番の料理たち。ヤバイ、めっちゃテンション上がる。
思わずセッティングしたピクニックセットをスクショしちゃったぜ。これが、映えるってやつなんだろうな。
「じゃあ、カンパーイ!」
「デビー!」
「フマー!」
みんなでワイワイとピクニックが始まる。モンスたちが踊ったり歌ったり追いかけっこしたりするのを見つつ、お茶を飲む。至福の時間だ。
まあ、リリスだけは、槍を天に突きあげながらクルクルと回る、邪神崇拝踊りって感じだけど。そうして楽しんでいるリリスを見ていると、ふと気になることがあった。闇呪術に関してだ。
どう使うのかは分からないが、今は夜。条件的には、昼よりは使用条件がいいのではなかろうか?
「リリスー。ちょっといいかー?」
「デビー?」
呼ぶと、すぐに踊りを中断して近づいてきてくれた。
「リリスが持ってる闇呪術。使い方分かるか?」
「デビ? デビ!」
「おお! 分かるのか!」
リリスは自分の胸をドンと叩くと、俺から少し離れた場所で両手をバッと前に突き出した。これは、リックが樹呪術を使った時のポーズによく似ている。
「デービビー!」
「きた! 魔法陣だ!」
赤黒い光で構成された、禍々しさの感じられる魔法陣が地面に描き出されていた。どうみても、邪法っぽいんだけど……。
「これ、大丈夫か?」
「デビ?」