533話 見習い騎士の森
見習い騎士の森への転移は、本当に簡単だった。他の町へ跳ぶのと変わらないのだ。しかも、許可証のおかげか、無料である。
一瞬で視界が切り替わり、広場から爽やかな森の中へと移動していた。
森の中に作られた小さい広場なのだろう。中央には、転移の石碑とログハウスが設置されている。あと、ログハウスの前には、樵のような格好のNPCが1人立っていた。
ただ、長身でゴリマッチョで厳つい顔のおっさんが、デカい斧を担いでいる姿は結構迫力がある。ゆ、友好的な相手だよね?
こちらから声をかける前に、向こうから近づいてくる。
「見習い騎士の森にようこそ。修行か?」
「えーっと、騎乗できるモンスターを仲間にしにきたんですけど……」
「おお、テイマーさんかい! 森の説明は必要か?」
どうやら、この樵のおっさんは説明役であったらしい。迫力と役割が合ってないんだけど。他のイベントだと、超強いお助けキャラ扱いってこともあり得そうだ。
「まずはこの森だが、全部で三層になっている」
「三層? エリアが3つに分かれてるってことでしょうか?」
「ああ。この辺みたいな明るい森が浅層。素材もモンスターも、そこそこのものばかりで、初心者用と言われている」
そこから、森の木々の密集度によって、中層、深層と分かれているそうだ。深層までいくと、深い森のせいで光が遮られ、昼間でも薄暗いらしい。
しかも、深層にはかなり強力なモンスターが生息しており、騎士たちの訓練場となっているんだとか。
おっさんから、俺は絶対に浅層までにしておくようにと釘を刺された。中層ですら、俺じゃ力不足なんだろう。
言われなくっても、そんな怖そうな場所には絶対いかんけどね。
「浅層でテイム可能な騎乗可能モンスターは、どんな種類がいますか?」
「特殊なのを除けば、基本的には3種類だな」
おじさんがモンスターの特徴を教えてくれる。
最も多く出現するのが、ブランチディアーというモンスター。その名の通り、鹿タイプのモンスターらしい。
「ただ、こいつらは背に乗るのに少しクセがあってな。乗りこなすには、バランス感覚が必要だ」
「えっと、バランス感覚ですか?」
「腕力と敏捷が20以上必要なんだよ」
「ああ、そういう」
リアル運動神経が必要とされなくてよかったが、腕力と敏捷20は普通に無理だ。敏捷は装備品の効果を併せてギリ20だが、腕力は14しかないのだ。
「他の2種類はどうですかね?」
「ブランチディアーの次に多いのが、ダッシュバードっていう、2足歩行の鳥だ」
こいつはいわゆるダチョウタイプの鳥だった。蹴りによる攻撃方法も持っており、育てば結構強いそうだ。
だが、ダッシュバードにも当然のごとく騎乗のために必要なステータスがあり、体力と器用さが20必要だった。
器用はともかく、体力は無理である。
「となると、最後の奴だな。こいつはかなり珍しくて、中々人前には出てこんのだ」
「なんてモンスターなんです」
「キュートホースっていう馬タイプのモンスターになる」
「可愛い馬ってことですか?」
「ああ。小柄な馬でな、非常に可愛い。ただ、そのせいで騎士にはあまり人気がない」
「乗れれば可愛くっても構いません。むしろ、可愛い方がいい的な? ただ、ステータス制限があるんですよね?」
「うむ。知力と精神が20ずつ必要だ。どうだ?」
セーフ! それなら問題ない!
よかった、乗れる従魔いてくれて。
「どの辺に出現するとかは……?」
「はっはっは、それは自分の目で確かめるんだな!」
そこまでは教えてくれんか。未知の森に自分だけで入るってのは恐ろしいが、積極的にモンスターを探さないといけないっぽい。
「よーし、様子見がてら浅層にいくぞ。みんな、守ってね?」
「ムム!」
「モグモ」
「トリ!」
た、頼もしい! 本日の前衛トリオが頼もし過ぎる! やれる気がしてきたぞ!
今のパーティは、一度畑に戻ってしっかりとバランス重視で組み直してきた。オルト、ドリモ、オレア、リック、ルフレ、リリスだ。
初めて足を踏み入れるフィールドだからね。慎重さ優先である。
そもそも、もう夕方だ。夜は色々と危険だし、あまり長時間の探索はできない。今日は様子見って感じになるだろう。
俺たちはオルトを先頭に、見習い騎士の森へと突入した。
入り口付近は爽やかで、非常に綺麗な森が続いている。ここにビーチチェアでも置いて森林浴したら、最高だろう。
転移したので、場所的には大陸のどの辺なのかは分からない。ただ、植物や昆虫に、珍しい物はないようだった。第3~4エリアくらいの植生に似ているかな?
短い間に、低品質の薬草や毒草が採取できていた。珍しい素材もないし、本当に第3エリア相当なのかもしれない。
そうして森の中を30メートルほど進んだ時であった。気配察知スキルがモンスターの存在を捉える。
警戒スキルを持つリックも、俺と同じようにモンスターの気配を感じたらしい。
「みんな、あっちだ!」
「キキュ!」
俺たちが身構えると、草むらがガサガサと音を立てた。そして、前歯の大きなネズミが顔をのぞかせる。
「牙ネズミじゃねーか」
「ムム」
レベルもさほど高くはない。やはり、浅層は初心者向けで間違いないらしい。これなら、夜の探索も問題ないかな?
「とりあえず、こいつを倒すぞ!」
「ムッムー!」
「牙ネズミだからって、侮るなよ? 新フィールドの敵なんだ。どんな特殊な相手かも分からないからな!」
「モグモ」
まあ、瞬殺だったけどね!