532話 流派クエスト開始
「それじゃあ、最初の試練だ」
「はい」
「騎乗スキルを10まで上げてくれるかな?」
「え?」
騎乗スキルを上げるって、俺には無理じゃね? だって、ドリモは短期間しか変身できない。その一瞬だけ騎乗したところで、経験値は微々たるものだろう。
流派クエスト
内容:騎乗スキルをLv10にする
報酬:1000G
期限:なし
期限なしは有難いけど、報酬がもらえるのってなんか違和感。こっちが教えてもらうのに。まあ、そこらへんはゲームだし、考えても仕方ないけど。
騎乗スキルはボーナスポイントですぐに覚えられる。ただ、騎乗スキルのレベリングをするには、騎乗可能なモンスが必要だった。
「どっかで乗れるモンスを貸出ししてくれるような場所、ないですかね?」
「レンタルは知らないねぇ。騎乗モンスターが欲しいのであれば、捕まえるか、ギルドで買うかだろう」
「やっぱそれしかないか」
そう言えば、モンスをギルドで買えるんだよね。ただ、騎乗モンスなんて貴重な存在、売ってるかね?
もしくは、第10エリアまでくれば騎乗モンスがどこかにいるかもしれない。聞いたことはないけど、調べてみる価値はあるだろう。
そもそも、このエリアでこのイベントが起きるってことは、この時点で騎乗が可能であるってことなのだ。
「それと、これをあげよう」
「これは?」
サジータが差し出したのは、1枚のプレートであった。光を反射して銀色に輝く金属製の板で、表面には不思議な文字のようなものが書かれていた。
ただ、一部は日本語で書かれている。サジータの名前や、見習い騎士の森という部分だ。多分、覚えたばかりの解読スキルが発動しているんだろうな。
解読スキルのレベルが上昇すると、こちらの世界の言語が読めるようになり、書物なども解読可能になるらしい。
今のところ読んだだけで恩恵があるような書物は見つかっていないので、魔本スキルの習得以外で目立った役割はないスキルだ。
ただ、完全に無意味なスキルなどないと思うし、その内何らかの役に立つと思うんだよね。多分。というか、そうであってほしい。
まあ、地道に育てていこう。
「それは、特殊な場所への立ち入り許可証さ。『見習い騎士の森』といってね、騎乗可能なモンスターを捕まえることもできるから、行ってみるといいよ。それを所持していれば、転移先に選べるから」
おお! まじか! それってメチャクチャ貴重なアイテムじゃないか? 多分、俺みたいな騎乗は可能だけど微妙ってプレイヤーに対する、救済なんだろうな。
「ただ、君の場合はまだ見習い入門生だから、制限がある」
「制限ですか?」
「うん。君が見習い騎士の森で捕まえていい騎乗可能モンスターは1体だけだ」
サジータが説明してくれる。この森は立ち入りが制限されていることからも分かるように、様々な組織によって保護されているそうだ。
俺も、流派に入門して騎乗可能モンスを探すために森への立ち入りを許されたが、乱獲は不許可ってことなんだろう。
新しく見習い騎士の森で騎乗可能モンスターを捕まえたいなら、前に森で捕まえたモンスを手放さなくてはならないらしい。
「サジータさんお勧めの騎乗モンスターとか、います?」
「モンスターに貴賎なしさ。ただ、騎乗するためにステータス制限があるモンスターもいるから、そこは気を付けた方がいいよ?」
「わかりました」
サジータさんが「がんばってね」と言って去ったあと、俺は獣魔ギルドの受付へと向かっていた。
メインの受付ではなく、売買用のカウンターだ。こちらは金髪の美少女エルフが受付を担当している。
「すみません」
「はい。いらっしゃいませ!」
こっちは普通の女の子だ。物足りなく感じるのは気のせいか?
「えーっと、ここで買える従魔のリストを見せてもらえますか?」
「こちらをどうぞ!」
売買可能従魔のリストを見ると、かなりの数の従魔が載っていた。中には聞いたことのないレアな従魔までいる。
卵から孵った従魔が枠を圧迫するので、必要ないモンスを売る人はかなりいるらしい。
親のどちらかと同じモンスだったうえ、スキルなどが被っているから売るというケースはあり得るのだ。
特に前線で戦うテイマーにとって、手持ちのモンスが被るのは困るだろうしね。
色々なモンスがいて、リストを見ているだけでも楽しい。ただ、どれが騎乗可能なのか、いまいち分からなかった。
「このリストに、騎乗できるモンスって掲載されてますか?」
「あー、騎乗可能なモンスターはいませんねぇ」
やはり、貴重なモンスターはそうそう売りに出されんか。となると、自力で捕まえなければならないってことだろう。
俺はさっそく見習い騎士の森へと向かうことにした。
「庭で遊んでいるモンスターを引き取りたいんですが」
「今手続きするから、ちょいと待ってな」
「はい」
黒髪さんの威勢のいい声を聴きながら「これこれ」と頷いていると、直ぐにモンスたちが戻ってきた。
「ムッムー!」
無駄にテンションが高いな。
「楽しかったのか?」
「フム!」
この喜びようは、中々見ないぞ。その内、また連れてきてやろう。
「ムッム! ムム!」
どんな遊びをしたのか、教えてくれているんだろう。
獣魔ギルドを後にして、転移陣のある広場へと歩いている最中も、オルトたちは元気いっぱいだ。
オルトが、俺の周囲を走り回る。多分、鬼ごっこをしたってことかな?
「キキュー!」
「フムムー!」
俺の前にいるリックが周囲をキョロキョロと見回し、ルフレがササッと俺の背中に隠れて顔だけを出す。
こっちは隠れん坊だろう。
「今度はお土産でも持ってきてみるか? NPCのモンスが食べるか分からんけど、みんなでおやつを食べたりするのも楽しそうだ」
「ムッムー!」
「フママー!」
まあ、俺がまた庭に入れるかは分からんけどね。その場合は、2階からモンスたちの可愛い姿を眺めるとしよう。