531話 樹人と緑霊
「まずは、この子たちの進化について、話をしようか」
「は、はい」
「この子たちは、どちらもトレントからの派生種になる」
「トレントって、オリーブトレントとかでも大丈夫ですか?」
「トレントの亜種でも問題ないよ」
そうして、色々なことを教えてもらう。どうも、オリーブトレントから樹精というのは、イレギュラーなルートであったらしい。
本来であれば、ハイトレントからの退化で樹精になれるそうだ。
「退化?」
「進化の逆って言えばいいかな? あえて進化よりも前の弱い種族に戻ることで、目当ての種族に変化することさ。トレントから樹精を目指すなら、それが普通のルートだね」
そう言えば、樹精からもハイトレントに進化できた。進化ツリーを逆にたどって戻すことができるなら、トレント→ハイトレント→樹精というルートで樹精になることができるらしい。
「そ、そんなシステムが……。どうやったら退化を使えるんですか?」
「従魔退化のスキルを得るか、退化薬を使うしかないかな? どちらも、今の君だとまだ厳しいだろうね」
俺が狙えるのは、呪術による退化だけっぽい。いや、あれはオリーブトレントから樹精というルートだし、退化とも違うかな?
ともかく、あれは樹呪術による効果なので、サクラとオレア以外は対象にできないだろう。
他のモンスたちを退化させる場合は、スキルか薬が必要になるようだった。サジータに聞いてもそれ以上は教えてくれなかったので、今後調べていこう。
「話を戻すけど、樹人は普通に育てていけば到達可能な種だ。トレントから、ハイトレント。そして、その次の進化で樹人を選べるようになるね」
「樹人は、本体の木から離れることが可能なんですか?」
「可能だ。樹人になると、完全に元の木から分離するんだよ。元の本体は普通の樹木になる」
分離するルートなのか。だとすると、ほとんど樹精みたいなものだな。能力や外見の差くらいなのだろう。
「そして、こちらの緑霊が、特殊なルート。魔化肥料と魔化栄養剤を使った場合に進化可能な種だ」
「ファファ!」
どっから声が出ているのか分からんが、機嫌は良さそうかな? 葉っぱ球の左右には少し大きめの葉っぱが生えており、その葉を楽し気にパタパタと振っている。それが手の代わりであるらしい。
「トレントに、魔化肥料、栄養剤を使っていると、低確率で進化するんだ」
ごく普通の魔化肥料と栄養剤が必要だったらしい。4属性を作れることを発見して、そっちばかりにかまけていたのだ。
「魔術が得意で、とても頼りになるんだよ?」
「ファーファ!」
元気に飛び回る緑霊のモーア。飛行可能で魔術が得意なら、確かに強いだろう。その分、HPは低いようだが、後衛なら当然だ。弱点とまでは言えない。
「トレント以外の植物系モンスにも、色々と特殊進化ルートはあるから、ぜひ試してよ」
「他に魔化栄養剤を使える種族なんてあります? 樹精ですか?」
「うん。君の配下だと、樹精だね」
「樹精の本体に撒くんですか?」
「光合成の最中に、栄養剤と肥料を足元に撒いてあげれば、吸収するよ?」
「まじか」
外見は人の姿でも、植物の精霊であるってことらしい。
サクラは折角ユニークルートに進化してるし、試すならオレアだ。毎日魔化肥料と栄養剤をあげてみよう。
「僕が教えられるのはここまでだ。後は自分で調べてみて欲しい。どうかな? 参考になったかな?」
「はい。ありがとうございました」
参考になったなんてもんじゃない。メチャクチャ有用な情報がゲットできたのだ。思わず、差し出されたサジータさんの手をギュッと握って、ブンブン上下に振ってしまった。
「僕も楽しかったよ。そういえば、君はまだどの流派にも所属していないよね」
「え? 流派ですか?」
「ああ。僕は人馬流っていう、アーチャーとテイマー、2つの職業を併せた特殊な流派を習っていてね。君も興味があったら、どうかな?」
なんと、サジータは流派に関してもキーになるキャラだったのか! 確かに、テイマーなのに弓を背負っているな。
人馬宮といえばサジタリウス。つまりサジータ。そういう繋がりなのだろう。
テイマーの騎乗技術と、アーチャーの弓技術を融合させたのだと思われた。
「あの、俺は全く弓を使えませんけど?」
「うちの流派は弓に限らず、魔術や投擲のような、遠距離攻撃であれば応用可能さ。後は、騎乗可能なモンスターを配下にしていれば、習うことができる」
「えっと、騎乗可能なモンスですか?」
うちは小型、中型のモンスばかりで、背中に乗れるモンスなんていないけど? クママに背負ってもらったりはできるだろうが……。まさか、本当におぶされってことじゃないよな?
「君のドリモールなら、変身中なら騎乗可能じゃないか」
「あー、そういう特殊な感じもありなんすね」
ドリモのドラゴンモードのことを言っていたらしい。本当に短い時間だが、いいのか? まあ、ゲームシステム的に一瞬でも、配下に騎乗可能モンスがいるという扱いなんだろう。
「その流派の奥義っていうのは、攻撃技ですか?」
「ああ、その通りさ。詳細は教えられないけど、きっと役に立つよ?」
うーむ、俺自身の攻撃力が少し上がったところでなぁ……。
正直、モンスたちを強化するような技が欲しいんだけど。
「流派って、1つしか入門できないんですよね?」
「そんなことないよ? 今は1つしか入門できなくても、そのうち複数の流派を習うことができるようになるはずさ」
「え? そうなの?」
「ああ」
思わず素になってしまった。奥義なんて言うくらいだから、1つしか覚えられないんだとばかり思っていた。今は1つでもいつか複数入門可能なら、気軽に入門してしまっても構わんのかもしれない。
それに、ここで入門するのがチェーンクエストのフラグなんだとしたら、断ったらここでチェーンが終わってしまうかもしれなかった。
「……分かりました。俺を、人馬流に入門させてください!」
「いい気合いだね。歓迎するよ!」