53話 プレデターとの遭遇
リックとクママのレベルを10に上げるため、俺たちは北の平原にやってきていた。敵は強いが、経験値が一番稼げる場所だ。
祭壇への地下通路に行こうかとも思ったんだが、あそこはロックアントしか出現しないからな。ダメージディーラーが俺だけでは、MPなんかすぐに尽きるだろう。だったら、皆で戦えるフィールドの方が結果的には経験値が稼げる。
「よし、オルト良いぞ! そのまま受け止めてろ! サクラは拘束だ!」
「ムム!」
「――!」
「クママ、リック、とどめだ!」
「キュ!」
「クーマー!」
「アクアボール!」
クママたちがワイルドドッグを倒し、俺の放ったアクアボールがロックアントを瀕死に追い込む。幾ら硬くても、ここまでHPが減ればクママやサクラの物理攻撃で倒すことが出来る。
「よし、上手く行ったな」
探索は順調だった。簡単ではないが、思ったよりも戦えている。
考えてみたら俺は適正レベルなんだし、オルトとサクラはすでに適正レベルを超えている。この布陣で何もできずに負けるという事はないか。楽勝ではないけどね。
パーティ枠は1つ余っているので、モンスターをテイムすればもっと楽になるだろう。だが、そうすると1人当たりに割り振られる経験値が減ってしまう。なので、リックのレベルが10に上がるまではテイムをしないつもりだった。それに、失敗したら無駄にMPを消費するからな。
俺たちはそのまま北の平原で狩りを続けた。傷薬などの消費は激しいが、おかげでここまではそこまでの苦戦もない。
しかも、モンスターのレベルが高いだけあって、リックとオルトのレベルはすでに1つずつ上がっている。リックのレベルがあと1つ上がればランクアップ条件達成だ。
「よし、このまま一気にレベルアップだ!」
ただ、もう夕方なんだよね。下手に進み過ぎると夜の移動になってしまう。夜は敵のレベルが上昇する上、出現数も増える。
いくら順調とは言え、夜で連戦できると思うほど自惚れてはいなかった。なので、今の内に移動して、もう少し町に近い場所でレベリングをした方が良さそうだ。
そんなことを考えていたら――。
ピッポーン
お? 何やらアナウンスが聞こえたな。
《第4エリアのレイドボス、バーサーカードッグが撃破されました。一部システムが解放されます》
おおー、もうレイドボスが撃破されたのか! 噂には聞いてたけど、自分には全然関係ない話だったから情報もほとんど仕入れたことなかったぜ。
これで第5エリアの町が解放されたか。
LJOでは奇数のエリアに町があり、偶数のエリアは小さな商店や宿があるだけの小さい村があるだけとなっている。
つまり、第5エリアにある大きな町となると、新たなアイテムやシステムが存在している可能性が高かった。これはしばらく掲示板が賑わうだろう。
レイドボスの攻略情報も出回るだろうし、挑戦するレイドパーティーも増えるだろうな。今の俺には関係ないけどね!
「ム?」
「おっと、今は暢気にしている場合じゃなかったな」
日も傾いてきたし、早く始まりの町付近まで戻らないと。
そう考え、町方面へ移動しようとしていたら、急にリックがソワソワし始めた。妙に落ち着きがなく、急に俺の髪の毛を引っ張り始める。
「どうしたリック?」
「キュキュ! キューキュー!」
「何だ? あっちに何かあるのか?」
リックが小さい手を必死に動かし、ある方向を指し示している。
平原とは言っても、何も無い原っぱが延々続いているわけではない。丘や窪地もあれば、茂みや灌木の密集する地帯もある。
こっからでは背の高い草が生い茂り、リックが何を教えてくれているのかわからなかった。何かあるのか? そっちへ向かって歩き出そうとしたら、唇を思い切り掴まれて引っ張られた。
「キュキュキュ!」
どうやら逆の意味だったらしい。逃げろってことか?
「おいおい、いったいどうし――っ! まじか!」
まごまごしてる場合じゃなかった! せっかくリックが警告してくれていたのに!
「ギュオォォォーッ!」
焦る俺を急かすかのように、大きな咆哮があたりに響き渡る。
「逃げるぞ!」
茂みをかき分けて現れたのは、巨大なロック・アントだった。普通のロック・アントの3倍以上あるだろう。巨大ロックアントの周りには、普通のロックアントたちが無数に付き従っていた。
話には聞いていたが、まさかこのタイミングで出会うなんて。
「あれが、プレデターって奴か!」
プレデターモンスターというのは、フィールドを徘徊しているボスモンスターの事だ。各フィールドに1種類ずついるらしいが、広大なフィールドをランダムに歩き回っている為、遭遇率は低い。
ただ非常に強力で、第2エリアのプレデターに平均レベルが18の12人チームが返り討ちにあったりもしているらしい。その強さは各フィールドのボスよりも遥かに上だというんだから、恐ろしすぎる。
北の平原のプレデターはラージ・ロックアント。見た目はただデカイだけのロックアントだが、それが罠なのだ。舐めてかかった初心者は軒並み返り討ちである。
こいつの恐ろしいところは、ロックアントを遥かに上回る防御力を持つことに加え、ロックアントを次々と召喚してプレイヤーを包囲してくるところだ。下手にちょっかいを出すと囲まれてしまい、逃げることさえできなくなるんだとか。
とりあえずラージ・ロックアントから離れるように全力で駆ける。プレデターは徘徊型なので、逃げ切っても安心せず、さらに距離を取れと掲示板には書いてあったはずだ。
なので、俺はプレデターの姿が見えなくなっても、しばらくは走り続けた。
「はぁはぁ……もう、大丈夫か? みんなはいるな?」
よし、皆揃ってるな。怖かった! ようやっと普通の戦闘に慣れてきたところなのに、あんなのと遭遇するとはついてないぜ。
「方向とか全く気にせずに走ってきちまったが、ここはどのへんだ?」
「キュキュ!」
「リック、どうした?」
「キューキュー!」
「おいおい、冗談はよせよ」
リックがさっきと全く同じ反応なんですが。もしかしてラージ・ロックアントを振りきれていなかったか?
そう思ったのだが、違っていた。俺たちの前に、漆黒の体毛に牛程の体躯を持った巨大な犬が急に飛び出してきたのだ。
「グルルルル」
「え? サヴェージドッグ? フ、フィールドボスじゃねーか!」
プレデターから逃げることに夢中で、フィールドボスの出現エリアに踏み込んでしまっていた! 平原は景色が似てるから全然気付かなかったぞ!
「く、くそ! みんな、戦闘準備だ!」
作者のもう1つの作品「転生したら剣でした」の書籍版が重版決定です。
そちらもぜひよろしくお願いいたします。
台風のせいで少々夏風邪を引いてしまいました。
1日休ませていただいて、次回の更新は28日の予定になります。




