526話 大炎獣
アリッサさんとの遭遇から1時間後。
俺たちはレッドタウンを出発し、東の第9エリアのボスの前へと辿り着いていた。いやー、道中速かったね。
俺たちも戦ったけど、早耳猫のお助けパーティが超強かったのである。アリッサさんとか、商人からシーフ系統にジョブチェンジした関係で、トップ層に比べるとだいぶ弱いって言ってたけど……。
普通に俺より強いもんな。
早耳猫のメンバーは、アリッサさん、ルイン。それにテイマーのカルロだ。カルロが連れているモンスが、ナイトバット、ブラウンベア、リリパットであった。
ナイトバットは飛行枠。ブラウンベアは前衛。リリパットが後衛である。
前者2種類は、名前のままの外見と言えよう。大型の猛禽類よりも大きい黒蝙蝠に、ヒグマサイズの茶熊って感じである。
問題はリリパットだ。この子は初見のモンスターであった。
見た目は可愛い小人さんだ。体のサイズはアイネと同じくらい。しかし、体のバランスはもっと大人っぽかった。
幼児なのではなく、大人が縮んだ感じと言えばいいだろうか?
服は、茶色地に赤や青の模様が描かれた、民族衣装風のポンチョに、緑色のスカーフ。武器は小さな弓である。
衣装は初期のファウにかなり似ているかな? ただ、それもそのはずだった。リリパットは、ピクシーからの進化で誕生する種族だったのだ。
ピクシーからコロポックルを経て、リリパットになるらしい。これが意外に多才だった。
まずはサポート能力。薬術というスキルがあり、ポーションなどの効果が上昇する。楽器は失ったものの、歌唱スキルは健在でバフも使えるそうだ。
攻撃面も意外に優秀で、属性矢を放つことが可能だった。上手く使えばダメージディーラーにもなるという。
「リリパット、すげーな」
「でしょう?」
直前の戦闘でも、小さい矢で大ダメージを叩き出していた。弱点属性で攻撃したからだろう。
「ヤー」
「声も、うちのファウに似てるな」
「ヤヤー!」
違いは、テンションくらいかね? これは種族の差ではなく、元々の性格の差だろう。カルロのリリパット、マルコちゃんは、非常にテンションが低い子であるらしい。
「さて、いよいよボスだけど、ユート君準備はいい?」
「はい。やることは簡単ですから。でも、本当にいいんですか?」
「勿論よ。こっちから誘ったんだもの」
作戦は非常に簡単だった。ルインとカルロたちが前線でボスを引きつけ、俺たちは後方から冷却爆弾を投げ続けるのである。
ルインは挑発系のスキルを集中して取得しており、後衛が攻撃を続けても、ボスの攻撃を引きつけてくれるのだ。
回復以外は爆弾を投げるだけでいいと言われたけど、本当に大丈夫なのかね? まあ、早耳猫は何度も同じことをやっているそうなので、信じておけばいいか。
「みんなも大丈夫だな?」
「フマ!」
「デビ!」
親になったからってわけじゃないだろうが、アイネもやる気だ。うちのパーティは、アイネ、リリス、ルフレ、ペルカ、ヒムカ、ドリモという面子になっている。
レッドタウンからボスまでは火属性のフィールドなので、そこでも戦える面子で構成しているのだ。
本当はオレアを連れてきてレベリングしたかったけど、火属性は弱点なのだ。火達磨にされるだけだろう。
「爆弾の扱いは慎重にな?」
「ペン!」
「ヒム!」
ペルカとヒムカは、嬉しそうに爆弾を受け取る。やんちゃ坊主どもが楽しそうなのが、逆に不安だな。
「ドリモ、頼りにしてるからな」
「モグ」
「フムム!」
「ルフレも頼りにしてるから怒るなって」
「フム」
分かればいいんだって感じで、頷くルフレ。やはり精神的支柱として頼りになるのはドリモだな。
「じゃ、突撃よ!」
第9エリアのボスは、巨大な門をくぐった先にいる。他のフィールドボスとは、一線を画しているのだ。
赤く塗られた鳥居にも似た門を、ルインを先頭にして抜ける。すると、直径50メートルほどの広場に出た。
天には赤い火の玉が無数に浮かび、地面からは時々火が噴き上がる。幻想的でありながら、恐ろしさも感じさせる、運営の気合が感じられるフィールドであった。
相当広く感じるが、エリア解放のレイド戦時にはこの10倍近いフィールドだったらしい。
第9、10エリアを開放する際、レイドボス戦があったそうだ。今から俺たちが戦うフィールドボスは、そのレイドボスが弱体化したものであるらしい。
「うわ、でっけぇ……。あれで小さくなってんのかよ」
「レイドボスだった時は、あの三倍くらい大きかったってさ」
「ひょぇぇ」
フィールドの中央に鎮座しているのは、巨大な4つ足の獣であった。真っ赤な鼬っぽくも見えるが、手足はやや長めだし、尻尾はネコ科のように細く長い。
名前は大炎獣となっていた。火炎を撒き散らしながら、獣の速度で動き回る強敵である。
大炎獣がこちらに気づいた。同時に、フィールドをボス壁が囲み始める。
「みんな! 耳栓!」
「わ、わかった!」
「モグモ!」
アリッサさんに促され、俺たちは手に持っていた栓を耳に装着した。さすがゲーム内のアイテムなだけあり、小さいリリパットも、耳まで兜で覆うルインも、問題なく装着できている。
直後、大炎獣の咆哮がフィールドを揺さぶった。
「ゴオオォォォォォォォオ!」
「デビ!」
「フムー!」
大迫力だが、それだけだ。俺たちには効果がない。本来なら麻痺効果があるらしいが、耳栓のおかげで無事だった。
それどころか、リリスやルフレは振動を楽しんでいるふしさえあった。
使い捨てだが、ボスの先制攻撃を防いでくれるなら十分だ。さすが、早耳猫の用意してくれたアイテム!
「グウルルルルルゥゥ!」
「く、くるぞ! アリッサさんたちを邪魔するなよ!」
「ヒム!」
「フマ!」