525話 浄化草と砂漠草
「次はこれよ! 私としては、流派技よりもこっちの方が本命と言ってもいいくらいよ」
次にアリッサさんが提示したのは、2つの草だった。自信満々の顔からして、かなりのレアアイテムなんだろう。
鑑定してみると、名前は浄化草と砂漠草となっていた。
どちらも、見たことがない植物である。
「これの作り方、知りたくない?」
「作れるんですか? アリッサさんが本命なんていうくらいですから、使える効果があるんですよね?」
見た目は色がちょっと変わっただけの草だが、アリッサさんがお勧めするくらいである。きっと有用な素材なのだろう。
「錬金、調薬、鍛冶、農業。色々と幅広く使えるわよ?」
「農業にも?」
「どっちも、畑の状態を変えられるのよ。浄化草は聖属性の土にできるし、砂漠草は植えた畑を砂に変えるんだ。オルトちゃんなら、色々と使い道を知ってるんじゃない?」
「なるほど、それは面白そうですね」
手に入れられれば、オルトが役立ててくれそうだ。ぜひ作り方を知りたい。
だが、アリッサさんの提示情報は、まだまだ終わらなかった。
「そして、最後がこれよ!」
インベントリから、白い麺のようなものを取り出す。いや、麺のようなものではなく、それは麺であった。
「おお! これはもしかして、素麺ですか?」
「ええ。たしか、流しそうめん用の竹を落札してたでしょ? 探してるかと思って」
「さすがです!」
「でしょでしょ?」
胸を張るアリッサさん。なんかうちの子たちを彷彿とさせて可愛い。お馬鹿可愛い。
凄腕の情報屋なんてやってて、切れ者のはずなんだけどな。何故か、少しだけ残念感があるよね。
絶対に口には出せんけど。
「……なんか、失礼なこと考えてない?」
「い、いえいえ、そんなわけないじゃないですか!」
「ふーん」
な、何故バレたー! ゲームの中でも女の勘は有効ってことなのか! すっごいジト目で見られてる?
「……ま、いいけど」
「ホッ」
お許しいただけたらしい。アリッサさんが話を進める。
「この4つに関する情報と、さっきの覚醒に関する情報を交換って形でいい?」
「なんか、俺の方が貰い過ぎじゃないですか?」
流派技の取得情報だけでも、俺の売った情報よりも価値がありそうなんだが……。
「色々と事情があってね。後で話すわ。それよりも、他に売れる情報はないわよね?」
「うーん、他の情報っすか……」
「ユート君なら、半日でとんでもないことしててもおかしくないし」
そんな褒めてもらって嬉しいけど、昨日は落札品の設置と、地魂覚醒の確認くらいしかやってないんだよな。
「ああ、そういえば卵が産まれましたよ。アイネとリリスが親です」
「へぇ。リリスちゃんが親になったの? 悪魔タイプのモンスはまだリリスちゃんしか確認されてないし、興味あるわね。でも、まだ卵の段階じゃねぇ。あまりお高くはないわね」
「ですよねー」
何が生まれるかも分からないわけだし、どう考えても爆売れする情報ではないだろう。アリッサさんの微妙な反応も当然だった。
「生まれたらぜひ情報を売って頂戴」
「他に何かあったかな……。ああ、畑に肥料と栄養剤を撒きましたねぇ。でも、これもまだ結果出てないしなぁ」
何か特殊な変化が起きれば別だけど、ただ肥料と栄養剤を撒いただけでは売れる情報につながらないだろう。
だが、アリッサさんが急に真顔になった。
何か引っかかる部分があったか?
「……撒いたのって、魔化肥料と魔化栄養剤よね?」
「はい。属性肥料と栄養剤ですね。あとは、聖化属性も作れたんで、撒いてみましたよ? ただ、まだ変化してないから、どうなるか分からないですけど」
「な、なるほど……。もう少し詳しく教えてもらえるかしら? 例えば、何に対して撒いたとか?」
「分かりました」
俺はアリッサさんに請われるままに、肥料を撒いた時の詳細を教えた。すると、アリッサさんの様子がおかしい。急に眼が泳ぎ出したのである。
「どうしました?」
「くっ。ユ、ユート君を舐めてたわ……」
そこで、詳しく話を聞いてみると、浄化草と砂漠草の作り方が、報酬にならないということが分かった。
浄化草の作り方は、聖化肥料、栄養剤を薬草に使うこと。砂漠草の作り方は、土化肥料、栄養剤を暴風草に使うことだったのである。
早耳猫の場合、早く結果を知るために、特殊な薬を使ったらしい。品質が最低になる代わりに、成長が早まる薬だそうだ。
だからこんなに早く肥料と栄養剤の結果が分かっていたのだろう。
うちにはオルトもいるし、高品質の物が獲れるはずだ。今から楽しみである。
問題は、交換条件が成り立たなくなりそうなことだろう。
「えっと、どうします? 俺は、どう変化するのか分かったし、情報を買ったってことで構いませんけど」
さっきも思ったが、流派技の情報だけでも十分な気もするしね。しかし、アリッサさんは納得できないらしい。
「ダメよ! こっちから情報を押し付けておいて、数日で確実に判明するような情報だっただなんて!」
情報屋の矜持が、なあなあを許さないらしい。
「それにね、これは流派技の取得方法を伝えてから教えるつもりだったんだけど、従魔剛乱はユート君に合ってないと思うのよ」
「どういうことです?」
「この流派技は、従魔の物理攻撃力を上昇させて、さらに暴走状態にするっていう技なのね。物理アタッカーの少ないユート君のパーティには、あまり効果が見込めないと思うわけ」
「なるほど」
「だから、ユート君に渡す情報の価値としては、いまいちだと思うのよ」
それでもこの情報を提示してきたのは、テイマーにとって重要な情報であることに変わりはないし、この情報をもとに他の流派技を探すこともできるかもしれないからだという。
「……ユート君。この後、第10エリアに向かうのよね?」
「はい。その準備のために、広場にきたんで」
「だったら、うちにバックアップさせてくれない?」
なんと、第9エリア突破の手助けをしてくれるという。いや、実質、早耳猫が第10エリアの赤都に連れて行ってくれるという感じだ。
「道中に必要なアイテムも、うちが全部出すからさ」
「いやいや、それはさすがに俺が貰いすぎでしょう? どんだけ金と時間がかかると思ってるんすか」
「そんなことないわよ? ユート君に同行するのは、うちにも利があるから。というか、リスクマネジメント的に、最適解っていうか」
「?」
「ま、まあ、ともかくそれでどう?」
これ、断る選択肢ないよな? 俺に得しかないもんな。