524話 第10エリアへ?
「よし、今日は第10エリアに辿り着いてみせるぞ!」
「ムム!」
ログインして畑仕事を終わらせると、俺は第9エリアのレッドタウンへと向かっていた。
目的は、フィールドボスを突破して第10エリアに到達すること。
昨日のオークションで、第10エリアに新しい施設がオープンすると告知された。それに、チェーンクエストなども多く存在しているそうだし、今後のことも考えるとなるべく早く行けるようにしておくべきだろう。
俺が向かっているのは、第9エリアにある大広場だ。ここには露店がたくさんあり、フィールドを突破するために必要なアイテムを揃えることができるらしい。
火属性のモンスターが大量に出現するフィールドの踏破に、ボスの討伐。さらに、第10エリアに踏み込んだ後は、セーフティゾーンまで辿り着かなくてはならない。
第9エリアにきたときは準備不足でヤバかったからな。今回はちゃんと準備をしていかねば。
「凄い賑わってるな」
「ムム」
レッドタウンの大広場には無数の露店がひしめき合い、大量のプレイヤーで賑わっていた。
俺と同じことを考えたプレイヤーたちが、一斉に押し寄せたのだろう。下手したら万を超えているかもしれない。
「まずは、冷却剤と爆弾を探そう」
「なら、うちで買ってかない?」
「え?」
オルトの「ム」という返事を想定してたから、ちょっとビックリしてしまったぜ。振り向くと、そこには悪戯っぽい笑みを浮かべた猫獣人さんがいた。
まあアリッサさんなんだけどさ。
「今日はここの広場っすか?」
「まあね! 今は第9エリアに人が集まってるから。レッドタウンを選んだのは……ま、気まぐれってことで」
「はあ。えっと、ボスを突破するためのアイテムとかも売ってるんですか?」
「売ってるよ! とりあえず、うちのお店こない? サービスするからさ」
「わ、分かりました」
ちょっといかがわしく聞こえてしまうのは、俺が汚れた大人だからだろう。アリッサさんに出会った時のことを思い出すね。
俺はアリッサさんに連れられて、早耳猫の露店へと向かった。
早耳猫に所属する商人たちが並んでお店を出している。雑貨から攻撃アイテム、武具まで色々と取り揃えられているようだ。
ただし、俺が連れていかれたのは何も商品が置かれていない露店だったが。
俺にとってはお馴染みの、情報を売り買いするためのお店である。アリッサさんがウィンドウを操作すると、周囲の音が聞こえなくなった。こっちの声も周囲には聞こえないだろう。
「さて……」
「え? なんすか?」
「……相変わらずのお惚け顔っ!」
心なしか、ジト目で見られている気がする。でも、なんでだ? そんな目をされるような心当たりは――。
「昨日の夜。北の平原」
「あー、あれっすか」
なんと、アリッサさんはファウの覚醒スキルについて、既に情報を入手していたらしい。
考えてみたら、あれだけ派手に戦ったんだ。見ていた人たちもいるはずである。多分、掲示板で多少は話題になっていたのだろう。
そんな僅かな情報源から、しっかりと事態を把握するとは……。早耳猫の名前は伊達じゃないな!
「詳しい話を聞かせてくれると嬉しいんだけど、どう?」
「そのうち売りに行くつもりだったんで、構わないですよ? あれは、ファウの覚醒スキルを試してたんです」
「覚醒? ドリモちゃんの持ってる、竜血覚醒と同じようなスキル? ふむ、ということは、従魔の覚醒はモンスに覚醒スキルを覚えさせる効果だったってことかしらね?」
さ、さすが。ちょっと話しただけで、そこまで分かってしまうとは!
「せ、正解です。で、ファウが覚えた地魂覚醒っていうスキルを試しにいったんですよ」
「新しいモンスがいたっていう情報もあるんだけど……。ファウちゃんが変身した姿の事かしら?」
「多分。覚醒スキルは、使うと変身して、能力が強化されるみたいです」
俺は、従魔の覚醒を使うところから、全てアリッサさんに説明した。
覚醒スキルは親の特徴を受け継ぐことや、覚醒孵卵器を使えば発現する可能性があることなども伝える。
「そっちも楽しみねぇ。それと、オークションで色々と手に入れたと思うけど、使い心地とかはどう?」
「そっちはですね――」
オークション直後に称号の情報は売りに行ったけど、その時はまだアイテムの情報なんかは分かってなかったからな。興味があるんだろう。いやー、アリッサさん聞き上手すぎて、オークション関連の情報は全て話してしまった。隠すつもりもなかったけどさ。
俺の話を聞き終わったアリッサさんは、ふんふんと頷きながら情報を整理している。
「この情報はどれくらいになりそうですか?」
「高いわね。そこで、相談なんだけど、いくつかお勧め情報があるのよ。それで相殺ってことにしてみない? 絶対に損させないわ」
「ほほう? アリッサさんのお勧め情報ですか?」
それは面白そうだ。アリッサさんの自信満々な顔を見れば、かなり凄い情報だってことも分かる。情報を聞いてみてもよさそうだった。
「分かりました。それで」
「ふふ、ありがとう。まずは、これね」
アリッサさんが見せてくれたのは、1枚のスクリーンショットであった。誰かのステータスなんだが、そこには流派技という欄がある。
しかも、そこには『流派技・従魔剛乱』とあった。
「こ、これは! 使役系職業用の流派技ですか?」
「第10エリアにNPCテイマーがいて、その人物に弟子入りしたら教えてもらえるのよ」
「なるほど、職業別に色々な流派技があるってことですか」
「その通り。私が教えたい情報の1つは、この流派技の取得情報よ? どう?」
「勿論、教えてください!」
「まあまあ、まずは他の情報を聞いてからね。次の情報が、これよ!」