523話 俺の実験
覚醒孵卵器に入った卵を、アイネとリリスがかぶりついて見守っている。それに興味を覚えたのか、遊具で遊んでいたうちの子たちも集まってきた。
いつの間にか、押すな押すなの大渋滞だ。
モンス、マスコット、妖怪と、勢ぞろいだった。
これだけ見守られていたら出てき辛いんじゃないかってくらいに、見つめられている。
「ま、覚醒孵卵器はこれでオッケーだな」
あとは、ログアウトする前に少し実験をしておきたいことがあった。
「材料は揃えたし、これでまた肥料と栄養剤を作れるぞ」
先日、レシピを手に入れて作製した魔化肥料、栄養剤。
あれはオルトの指示通りに撒いたのだが、俺もちょっと気になっている作物があったのだ。それに対して、肥料と栄養剤を使ってみたかった。
素材は、オークションなども使ってしっかりと集めてある。しっかりと、地水火風の4属性を1つずつ作り上げることができていた。
それだけではない。なんと、聖化肥料も作れてしまっていた。栄養剤は以前作ってあったので、これで聖属性も揃ったことになる。
「まさか、端材が素材に使えるとはな」
シュエラたちの店に遊びに行ったときに、端材をいくつか貰ったのだ。小物の作製に使えるらしいが、錬金などにも使えるからと、タダでくれたのである。
和装で儲けたお礼だって言ってたが、なんで俺に礼を言うのかね? まあ、貰えるものは貰ったんだけど……。
その中の1つの布の端切れが、聖属性の昆虫素材扱いだったのだ。聖なる蜘蛛の糸とか、そういう由来だったのかもしれない。
ともかく、これで実験ができるぞ!
「まあ、オルトに使っていいか確認を取らんといけないけどね」
俺の畑だけど、俺の畑じゃないのである。
何か実験をするときには、お世話をしてくれている皆の許可を取らねばいけなかった。
以前、クママの養蜂箱の1つに、刻印スキルを使用してメチャクチャ怒られたのである。それ以来、あまり勝手なことはしないようにしていた。
「ムム?」
「この肥料とかを使いたいんだが、いいか?」
「ム!」
オルトが右の人差し指と親指で輪を作る。オッケーポーズ頂きました。
ただ、オルトも興味があるらしく、一緒にくるようだ。俺が変なことしないように、監視するわけじゃないよな?
「ム?」
「……まあ、いいけど。まず最初は、ここだ!」
俺がやってきたのは、水耕プールの前だった。ここには空気草という水草が植わっているんだが、これに風化肥料と栄養剤を使ってみたかった。
水属性の作物だが、空気を生み出す効果がある。風属性も関係しているのではないかと思ったのである。
「どう思うオルト?」
「ムー?」
オルトにもどうなるかは分からないらしい。
「状態が悪くなったりはしないよな?」
「ム」
オルトが、力強くうなずく。属性的に効果がなくても、肥料としての効果は発揮されるってことなんだろう。
なら、使ってみるのも悪くはない。
「で、お次はこいつだ」
「ム」
次にオルトを引き連れて向かったのは、風耕柵の前だ。そして、ここで使いたいのは土化肥料と土化栄養剤だった。
「風属性の作物に土属性を使ったらどうなるか、興味があるんだよな」
水と火のように、風と土もいわゆる反属性のように扱われている。だとすると、何か変な効果があるんじゃないかと思ったのだ。
「これも分からないか?」
「ム」
農業の事なら何でも分かるみたいに思ってたけど、オルトにも分からないことがあるんだな。仕方ないけどさ。本当に何でも分かってたら、誰だってノーム使うもんな。
「で、これをここで使おうと思う」
「ムー?」
「そうそう、さっきの風耕畑と同じ理屈だ」
水化肥料を使おうとしているのは、微炎草が植えられた一角である。
ここには先日、火化肥料と栄養剤を撒いたばかりだ。それを邪魔しようというのではなく、まだ肥料を撒いていない微炎草に、反属性の肥料を使ってみようと考えたのである。
その後に俺がやってきたのは、野菜が植えられた一角だ。俺の目当ての作物は、畑の中で一際異彩を放っていた。
俺が実験に使いたいのは、顔のような穴の開いた大きなカボチャである。ハロウィンの時などによく見る、ジャックオーランタンというやつだ。
「このカボチャ、中に火が見えるんだよな」
ランタンカボチャを覗き込むと、中にはチロチロと小さな灯がともっている。夜などは、遠くからでもこのカボチャがはっきり見える程度には、明るかった。
ただ、熱くはない。指を突っ込んでみても、ダメージを受けたりすることもなかった。幻影なのか、タダのエフェクト扱いなのか分からないが、普通の火ではないらしい。
だが、火であることも紛れもない事実。これに火化肥料と栄養剤を使ってみようと思ったのだ。
「これもオッケーか?」
「ムーム? ムム!」
オルトは一瞬考え込む素振りをしたが、すぐに笑顔でサムズアップを返してくれていた。
「よく分からないけど、とりあえずやってみろってことかな?」
「ムー!」
オルトのゴーサインも出たし、これも使ってしまおう。
「ああ、まだ聖属性のが残ってるな」
「ムム!」
「どうした?」
「ムー!」
オルトが俺をめっちゃ引っ張っている。この反応はひょっとして――。
「この肥料と栄養剤。どこに使うのか分かるのか?」
「ムムー!」
自分で実験をしたい気もするが、ここはオルトに任せてみるか。そうしてオルトが俺を連れて来たのは、普通の薬草畑だった。
「え? ここ?」
「ム」
てっきり、神聖樹に使うのかと思っていたから肩透かしである。だが、畑のことに関して、オルトの指示が間違っていたことはないのだ。
「分かった。ここに使おう」
「ム!」
これで、5ヶ所回り終えたな。どれか1つくらいは面白い変化が出てくれるといいんだが。




