522話 魔本と孵卵器
「じゃあ、これ返しますね」
「無理言って悪かったな」
「いえ。楽しかったですよ」
結局、ソーヤ君も覚醒孵卵器を強化することはできなかった。これはもう、いじることはできないと考えるべきだろう。
覚醒孵卵器を返してもらっていると、ソーヤ君が質問をしてきた。
「ユートさんは、魔本に興味ないですか?」
「うーん。興味はあるんだけど、ポイントがねぇ」
「やっぱそこですか」
筆写や解読、錬金などのスキルを一定レベルまで上げたうえで、魔本スキルを取得せねばならない。
正確には、筆写、解読、錬金、魔術を2種類。あと、知識系スキルを1つ、だったかな?
魔術と知識系スキルは問題ない。しかし、錬金はもっとレベルを上げないといけないし、筆写、解読は新規取得せねばならない。
さらにさらに、魔本を自分で作ろうと思ったら、魔本スキルに加え、皮革、調合が必要になるそうだ。
スキルのレベル上げに時間もかかるし、ボーナスポイントもかかるのである。
自力で魔本スキルを見つけたソーヤ君は、まじで凄いよな。執念のなせる業なのだろう。
ただ、魔本は興味があるし、とりあえず、筆写と解読をゲットしてみようかな。いずれ魔本が必要になった時に慌てても遅いしね。
そう告げると、ソーヤ君が嬉しそうに魔本の良さを語ってくれる。よほどうれしかったんだろう。
これは、しっかりスキルレベルを上げないと、ソーヤ君に怒られそうだ。
「もし魔本のことに興味ある人がいたら、ぜひ紹介してくださいね」
「分かったよ」
ソーヤ君に手取り足取り教えてもらえるボーナス付きってことなら、十分人は集まりそうなんだけどな。
絶対にファンいるし。
まあ、ソーヤ君が求めているのはそういう人たちじゃなくて、本当に魔本に興味がある同志なんだろうけどね。
俺はソーヤ君と分かれると、ホームに戻ることにした。
「明日は従魔ギルドに卵を買いに行って、覚醒孵卵器にセットしたいな」
高額な卵だと何十万もするが、俺なら問題ない。金ならある! うむ、いい言葉だね。
しかも、従魔ギルドで売っている卵は、基本的にはプレイヤーから委託されたものになる。つまり、必ず両親が存在しているのだ。
まあ、報酬やイベントで手に入れた卵なんかも、マスクデータとして親が設定されている可能性は高いし、そっちでも覚醒は狙えるだろうけどね。
「うちに足りてないのはどの枠だろうなぁ」
「ム?」
「盾役はオルトがいるし、ドリモもヒムカも盾役はできる。攻撃役なら、ドリモ、クママだ」
「モグ」
魔術攻撃なら、俺、サクラ、ファウ、リリス。
回復役はファウとルフレ。バフはファウ。デバフはリリスだ。
水中戦力のペルカに、空中戦力のアイネ。生産力も十分だ。
全員が複数の役割を果たせるし、意外と戦力は充実してる。
俺がどんなモンスの卵をお迎えするのがいいか悩みながらホームに戻ってくると、そこには驚きの物が存在していた。
「え? これって、卵?」
「フマ!」
「デビー!」
なんと、縁側の前の地面に、丸く黒っぽい物体が置かれていたのだ。鑑定すると、アイネとリリスの間に生まれた卵であった。
まさか、こんな都合のいいタイミングで卵が産まれるなんて……。驚きすぎて、数秒間固まってしまったのだ。
「おいおい、マジかよ!」
「フマー!」
「デビビ!」
この2人は確かに仲がいい。飛べるもの同士、空中鬼ごっこをしている姿をよく見るのである。だが、まさか、この組み合わせで卵ができるとは思っていなかった。
パーソナル的には、女の子同士だからな。
今までも、オルトとサクラ。リックとファウと、俺のイメージでは男女の組み合わせで卵が発生していた。そのせいで、卵が産まれるなら男女コンビでという固定観念があったのである。
ただ、相性さえよければ性別などは問題ないんだろう。魔力が混ざり合って生まれるわけだしね。
「グッドタイミングだな! 2人とも!」
「フマー!」
「デビー!」
アイネとリリスがペチンとハイタッチして、喜んでいる。
「じゃあ、早速この卵を孵卵器にセットするか」
俺は早速、覚醒孵卵器を取り出すと、縁側に置いた。ここならみんなで見守れるし、孵化するときはすぐに分かるのだ。
「おーい、手伝ってくれ」
「フマ!」
「デビ!」
俺の言葉にアイネとリリスが敬礼を返し、そのまま協力して卵を持ち上げた。そして、ゆっくりと卵を運んでくる。
「じゃ、頼む」
「フマママー!」
「デビビー!」
俺が孵卵器の蓋を開けると、2人が卵を孵卵器へとセットした。2人ともメチャクチャ威勢がいいんだけど、その動きはどこまでも優しい。
「よし、あとは孵化するのを待つだけだ。どんな子が生まれるんだろうな?」
「フマー」
「デビー」
アイネたちが孵卵器にぺたりと張り付き、中の卵を見守っている。孵化するのが楽しみだな。
レビューをいただきました。ありがとうございます。
アイテムや設定のとっつきやすさは、大事ですよね。そこを褒めていただいて嬉しいです。
オリジナル言語や設定も好きなんですけど、この作品の雰囲気には合わないですしね。
今後とも、鈍感主人公と当作品をよろしくお願いいたします。