519話 従魔の覚醒
「さて、ホームの改良はこんなもんかな」
落札した品物を設置し終えた後、俺は畑に戻ってきていた。流しそうめん用の水路を買ったけど、そうめんがないことに気づいたのだ。
これは、そうめんをゲットするまではお預けだろう。まあ、蕎麦でやってもいいんだけどさ。できれば、そうめんでやりたいのである。
「で、お次はこいつらだ。オルト、これを蒔いてくれるか?」
「ム!」
俺がオルトに渡したのは、オークションで落札した謎の種だ。何が生まれてくるか分からないが、未知の植物だと嬉しいね。
オルトが種をまいている姿を見守りながら、他の落札物を取り出す。
「で、問題はこのアイテムだよな」
覚醒孵卵器と、従魔の覚醒だ。
覚醒孵卵器は、正直勢いで買ってしまった。使うあてもなく、卵を入手するまでは取っておくしかないだろう。
でも、後悔はしていないぞ? これ買ったおかげで称号手に入ったし。まあ、効果は微妙な称号だったけど……。
でも、いつか役に立つ日が来るのだ。きっと。卵なら、買ってきたっていいしね。
「こっちの、従魔の覚醒はどうだ?」
従魔の覚醒は、野球ボールサイズの白っぽい宝石だ。ただ、扱いは宝石だが、その真価は特殊効果にある――はずだった。
鑑定すると、従魔の力を覚醒させるとだけ書かれている。
「使用は――できるな! 従魔に使う感じなのか」
ウィンドウには使用可能従魔の名前が表示された。従魔全員に使えるってわけじゃないらしい。
使用可能な相手は、クママとファウだけである。他の子たちはダメだ。
なんでこの2人?
少し考えて思いつくのは卵から孵ったという点だが、それだとペルカも入っていなきゃおかしいんだよな。
いや、ペルカは特殊な生まれ方だったから、卵から生まれた扱いにはならないとか?
とりあえずクママの名前を選んでみると、効果が表示される。
「えーっと、獣血覚醒と、毒血覚醒?」
従魔に使用すると、特殊なスキルを取得するらしい。クママの場合は獣血覚醒か、毒血覚醒の2つだ。
これってもしかして、ドリモの持っている竜血覚醒と似たスキルなのか? だとすると、メチャクチャ強いかもしれん。
「フ、ファウも見てみよう」
ファウの場合は、地魂覚醒と樹魂覚醒? 血じゃないのか? それにしても、地魂と樹魂ねぇ? もしかして、オルトとサクラのことなのだろうか?
ハニーベアは熊系魔獣とハニービーの間に生まれるはずだよな? だとすると、獣血と毒血はあり得そうだった。
精霊が親の場合に地魂や樹魂となるのは、精霊の体に血が流れていない的な設定なのかもしれない。
「うーむ、スキルを覚えられるのは確かなんだが、スキルの詳しい説明がないんだよな」
獣血は『その身に眠る獣の力を目覚めさせる』だし、地魂は『その身に眠る大地の力を目覚めさせる』だった。
「さて、どれを選ぼうか……」
地魂覚醒がオルトから引き継がれたものだとすると、生産系の能力か? それとも、戦闘に利用できるのか? 戦闘に全く使えないとなると、勿体ない気もする。
逆に、獣血覚醒は相性が良さそうだ。心配は、最初から獣だからあまり意味がないって感じになる場合だろう。
だとしたら、毒血覚醒かね? クママは毒爪も持っているし、状態異常はハマれば強い。デメリットを考えると、格上のボスには毒が無意味になるかもしれんということだ。
じゃあ、樹魂覚醒? でも、うちは樹属性は十分に揃っているからなぁ。オレアが増えたばかりで、これ以上増えても微妙な気がする。
だとすると、獣血覚醒が一番汎用的な気がするね。ドリモの竜血覚醒みたいに、戦闘時に大ダメージを狙えるかも?
ただ、やっぱ地魂覚醒も気になる。もし、作物の成長を促進させるような技だったら非常に有用だし、攻撃系の能力でもパーティの底上げにはなるのだ。
「うーん……。よし、ファウの地魂覚醒にしよう!」
俺はとりあえずファウを呼びに行って、アイテムを使っていいか確認することにした。
ホームに戻ると、モンスたちは遊具で遊び狂っている。凄いな。
普通に遊んでいるのは、雲梯に掴まっているサクラとルフレくらいじゃなかろうか?
オレアとヒムカは、ブランコを一回転させてグルグル回っている。俺、メッチャ怖かったんだけどな。あいつら、笑ってやがるぜ。
リックとペルカ、アイネはジャングルジムで追いかけっこをしている。その速さが尋常ではない。俺だったら瞬殺されるだろう。
すべり台では、リリスやオルトが頭から滑り降りて、スリルを楽しんでいる。うちの子たち、アグレッシブ過ぎじゃありませんか?
ただ、一番やばいのがシーソーだろう。片側にファウが乗り、もう片側にクママとドリモが飛び乗ったのだ。凄まじい勢いでシーソーが跳ね上がり、ファウがバビュンと飛び出していった。
飛び出す役が空を飛べるファウじゃなかったら、すぐに止めさせるところだろう。怪我をしないと分かっていても、心臓に悪い光景だった。
楽しそうなところ悪いんだが、ファウをこちらに呼ぶ。
「ヤ?」
「ちょっと、このアイテムをファウに使いたいんだが、大丈夫か?」
「ヤヤー!」
従魔の覚醒を見せると、ファウがその場でくるりと輪を描くように一回転した。オーケーってことだろう。
ということで、俺は地魂覚醒を選択する。
「いくぞ! 従魔の覚醒、使用!」
「ヤヤー!」
メッチャ光る! まあ、もう慣れているけど! 数秒ほど目を閉じていれば、エフェクトは終了だ。
そして、その場には凄まじい変化を――遂げていない、いつも通りのファウがいた。
「あれー?」
「ヤ?」
ファウに手の平に立ってもらい、色々な角度からチェックする。だが、一切の変わりがない。
それでも、ステータスはばっちり変化していた。スキルの欄に、地魂覚醒の名前がしっかりと追加されていたのだ。
「成功だ!」
「ヤヤー!」
コミカライズ最新話が公開されました。
料理のお手伝いをするオルトが可愛いですよ。
今月末には出遅れテイマー7巻が発売されますので、そちらもよろしくお願いいたします。
7巻の見開きページの誤字に関しては、すでに私も把握しておりますので、ご報告いただく必要はありません。
電子書籍版は修正してもらいましたので、気になる方はそちらでお買い上げください。
もしくは、重版したら修正してもらいますので……。