510話 書画
競売の狙いを目玉商品に絞った俺は、狙っている孵卵器にとりあえず500万ほど入札し、その後はホームへと戻ってきていた。
あのまま会場にいたら、絶対に無駄な買い物をしてしまいそうだからね。
それに、目玉商品の前にネトオクをチェックしておかないといけないのだ。
炬燵に入ると、早速マモリがやってきた。そのまま俺の膝の上に乗ろうとしたんだが、それを邪魔する存在がいる。
「デビ!」
「トリリ!」
「あいー!」
リリスとオレアだった。彼女らも俺の膝に乗りたいらしく、左右からマモリを引っ張っている。
可愛い子たちに膝の上を取り合われている俺。モテモテじゃね?
「まあまあ、喧嘩するなって。交代で乗ればいいだろ?」
「あい!」
「デビ」
「トリ」
最初はマモリの番らしい。残った2人は左右からウィンドウを覗き込んでいる。
「結構値段上がってるなー」
「あいー」
入札したアイテムを確認してみると、ほとんどが高騰している。
やはり、卵や呪術関係っぽい名前のアイテムは、みんながチェックしているんだろう。
そんな中であまり値段が上昇していないのが、絵画関係だった。風景画もまだ2万だし、水墨画なんか1万Gだ。
あと面白いところだと、書の掛け軸を発見した。凄い達筆な字で、何かが書いてある。達筆過ぎて読めないレベルだ。
「これ、なんて書いてあるんだ? 力強くて、悪くはないんだけど……」
「デビ!」
「リリスは気に入ったか?」
「デビ」
どうやら、リリスの琴線に触れたらしい。目をキラキラさせて、書を眺めていた。
「デビ! デビビ!」
「分かった分かった。入札するよ。だから肩揺するな~」
「デビー!」
ここまでおねだりされては、入札しないわけにはいかないだろう。それにしても、これなんて書いてあるんだろうな?
説明を読むと、何故か日光上等だった。もしかして、これの製作者はドリモファン?
いや、ドリモールなら他にもいるか。確か、最初のオークションで土竜の卵が売られていたはずだ。あれはもう孵化していてもおかしくはないだろう。
まあ、ドリモのファンじゃなかったとしても、ドリモール好きなのは間違いない。うちの床の間に飾るに相応しい書である。
他には同じ作者さんの書で、獣道、精霊万歳、死戻遊戯、という書があった。
「うむ。これはいいものだ」
「トリ!」
「オレアはこれか」
「トリリ!」
精霊万歳ね。分かってて指さしてる? さらに、マモリも欲しい書を主張し始めた。死戻遊戯が気に入ったらしい。
「ポコ」
「お、チャガマか。ありがとうな」
「ポコ!」
我が家のお茶汲み係であるチャガマが、日本茶をさし出してくれた。そのまま、俺の肩越しにウィンドウを覗き込んでいる。
「何か気になるのあるか?」
「ポコ」
「獣道か……」
やっぱ、みんな書の意味わかってるよな? だとすると、マモリの趣味がちょっと心配になるけど。
「じゃ、全部入札してみるか」
「あいー!」
「ポコ!」
マモリやチャガマはホームにいることがほとんどだし、好きなものを飾ってやろう。
さらに画面をスクロールしていると、また面白い物を発見してしまった。
「これって、流しそうめん用の竹か?」
「トリ?」
「これだよ。これに水を流して、そうめんを流すんだよ」
「デビ?」
時折、よくわからない知識を披露してくれるモンスたちだが、流しそうめんは分からないらしい。
これは、みんなでやったら喜んでくれるか? 正直、自分たちでも作れるとは思う。だが、これを思いつき、作り上げた生産者さんに敬意を表したいのだ。
ちゃんと落札して、還元しないとね。真似るのはその後でいいだろう。
「これもポチッておこう」
「トリー!」
「デビ!」
その後、リリスとオレアが交代で俺の膝に座ったり、チャガマが新しいお茶を入れてくれたりしつつ、色々と入札していった。
チャガマが気に入ったタヌキ柄のハンカチとか、リリスが欲しがった髑髏をモチーフにしたアクセサリーとか、オレアが強請ってきた剪定鋏とかである。
そこまで高い物ではないし、別にいいだろう。万を超えたのは剪定鋏だけだった。
「風景画2枚。水墨画2枚。書が4つ。流しそうめん用セット。あとは細々とした小物が10個に、第10エリアの素材がそれなりの量か」
総計。50万G程度である。
「あいー!」
「トリリー!」
「デビデビ!」
「ポコポン!」
うちの子たちが文字通りクルクルと小躍りしているし、これだけ喜んでもらえるなら安いもんだろう。
この時点で通常のオークションは終了し、残すは目玉商品の特別オークションだけだ。
「招待はきてるね」
これで、上位に入れてなかったら情けないけど、問題はなかったらしい。この後、誰かの付けた最高金額から入札が始まる。
いきなり数千万とか付いてたらどうしよう。上位陣がどれくらいお金持ちか、分からないからなぁ。
「じゃ、いってくるよ」
「デビ!」
「トリリ!」
「ポコー」
ウィンドウに表示された移動ボタンを押すと、俺自身が光に包まれる。
「あいー!」
お、また火打ち石をカチカチする音がしてるな。なんか、上手く行きそうな気がするぞ!