508話 まずはホームオブジェクト
「まず最初は、モンスター用の遊具だ」
これは有名な生産クランが造り上げたものらしく、すべり台、ジャングルジム、雲梯、シーソー、ブランコがセットで販売されていた。
バラ売りや、他クランの出品もあるが、俺が一番欲しいのがここのやつだ。色合いも原色で可愛いし、作りも頑丈そうなのである。
中でも、目玉はブランコだ。遊ぶ者によって自動でサイズ調整されるタイプだから、大きくても小さくても問題ない。これなら、ファウもクママも使えるだろう。
うちの庭に設置してモンスたちを遊ばせてやりたかった。
「最初は50万Gからスタートです!」
よし、早速入札だ! 値が次々と上がっていく中、俺は一気に200万へと値を上げた。
少々マナー違反だが、絶対に引かないという意思表示である。その後、数人と競り合うことになったが、最終的には260万Gで俺が落札したのであった。
いや、いい買い物をした! うちの子たちの喜ぶ姿が目に浮かぶようだ。
「幸先良いぜ!」
この調子で、次も狙いたい。
この会場で落札したい商品はこれで終わりではない。もう1つ、注目しているホームオブジェクトがあるのだ。
「うん?」
なんか、周囲から見られてる? 俺が周囲を見回すと、こちらを見ていたプレイヤーたちがサッと視線を外した。
やっぱ見られてたよな?
まあ、俺だって、完全な無名という訳じゃない。一応、ユニーク称号持ちだし、見られてもおかしくはないだろう。
でも、モンスたちを連れていない俺が、こんな注目されるか? いや、そんなわけがない。
そこではたと、見られている理由に気が付いた。多分、さっきの高額落札が周りにバレているのだろう。自分では意識していなかったが、絶対に大きなリアクションをしてしまっていたのだ。
白銀だとバレたのではなく、落札者だと勘づかれたに違いない。そのせいで、見られていたわけである。
そういえば、顔などを隠すための設定があるんだっけか? 今回も忘れていた。見られたからと言って何かあるわけじゃないし、別にいいんだけどさ。
そんな風に5分ほど待っていると、すぐにその商品の出番となる。
「では、お次はこちら! 大型水路! 最初は20万Gからです!」
ウィンドウに表示されたのは、ホームや畑に設置するタイプの水路であった。これはNPCの出品で、最大200メートルの水路を、望む形でホームに敷設してもらえるらしい。
見た目や形も色々と選べて、ローマ水道風や、レンガ造り風など、オシャレなものがたくさんあった。
俺がこれに目を付けたのは、うちのモンスやマスコットたちのためだ。ラッコやホオジロザメなどの水棲マスコットは、ホームの水場であれば転移可能らしい。繋がっていない池などにも現れる。
ただ、池や水場は敷地の端に置かれていることが多いので、他の子と遊ぶのは難しいのだ。
そこで、ホームや畑の道に沿って水路を伸ばしてやれば、ラッコさん親子なんかも遊び相手が増えるだろう。
因みに、ラッコのお母さんの名前は白いからシロコ。子供は茶色い部分が多いからチャタ。ホオジロザメはジョー太である。
「よし、入札っと」
すでに数人分の入札が入っているが、今回は様子見で10万アップの90万にしておいた。毎回高額入札していたら、周りから嫌われるだろうからな。
だが、その後新たな入札は行われなかった。もう少し競るかと思ったんだが……。どうやら、俺以外はあわよくば欲しい程度だったのだろう。もしくは、俺の気合いが伝わったかな?
まあ、安くゲットできたんだからいいや。
「さて、ここの会場で欲しかった品物は買えたし、次にいくか」
ウィンドウを操作して、次の会場へと転移する。すると、奇跡的に狙っているアイテムの入札が始まったところであった。
少しでも遅れてたら危なかったぜ。
「最初は10万Gからです!」
アイテム名はオリーブトレントの苗。しかも、ユニーク個体のものだ。ただ、今回は樹精に育てるよりも、そのままトレントルートで育てて畑の管理者にしたい。
ユニーク個体なら、きっとオレア以上に管理能力が高いだろう。
そんな皮算用をしていたら、オリーブトレントの苗木の値段が、異常な速度で上がっていってしまった。
300万Gて……。一応、マックスで250万Gまでと考えていたら、瞬時にそれ以上まで膨れ上がったのだ。しかも、まだ数人が入札をしている。
時間はかかるけど、自力入手が不可能なわけじゃないし、さすがにこれ以上は競り合えなかった。
以前のオークションでレアなモンスターの卵が50万程度だったから、100万を少し超えるくらいかと思っていたのに……。
予想以上にプレイヤーの所持金がアップしているようだ。
結局、ファーマー風の男性が390万で落札していた。なぜか、落札者以外にも何人かのプレイヤーが喜びに沸いている。
もしかして仲間かね? ファーマー系のパーティが、力を合わせて落札したのかもしれない。トレントは有用だし、ファーマーなら欲しいのだろう。
「仕方ない次に行くか」
次の会場で狙うアイテムはすごいぞ。名前は火呪術の陣。なんと、使用すると火呪術を使用できるというアイテムだ。
どう考えても、樹呪術の火炎属性バージョンだろう。使い捨てだが、面白そうだ。上手く使えばまた特殊な進化や、アイテムゲットに役立つかもしれない。
だが、今回も俺の狙いは上手くいかなかった。使い捨てアイテムに、300万もの値が付いてしまったのだ。
いくら面白そうとはいえ、使い道が分からない使い捨てアイテムに、300万はな……。今回も諦めるしかなさそうだ。
その後、俺が狙っていた呪術関係のアイテムはことごとくが高騰してしまい、1つも落札することができなかった。
「ぐぬぬ。呪術人気高過ぎだろ!」
なんでこんな……!
「はっ! も、もしかして、俺のせいか?」
樹呪術によってオレアが進化したという情報。あれが早耳猫によって広められ、それによって呪術関係のアイテムが高騰した? オリーブトレントの苗木が高くなったのもそのせいか!
うわー自分のせいだったぁ!
でも、あの情報を売らなけりゃ、結局金欠で喘いでいただろうしな……。それに、呪術系のアイテムがたくさん使われたら、面白い情報が広まるかもしれない。
それを楽しみにしておこう。
だから、悔しくなんかないんだからなっ!




