504話 林檎と蜜柑、ゲットだぜ
みんながオークションに出すアイテムを確認した後、俺は早速それらを出品登録することにした。
まあ、難しいことなんかなく、その場でオークションのページを開いて、出品アイテムを選ぶだけだが。
ギルドランクを上げたので、出品枠は5つ。オルトの精霊の実、ヒムカのカトラリーセット、サクラの炬燵、ルフレの天麩羅もり蕎麦膳、アイネの巨大ヌイグルミだ。
説明を書き込める欄があったので、軽く説明を記入しておいた。本当に簡単に「サラマンダーのヒムカが頑張って作った、食器セットです。特殊効果あり」って感じだけどね。
初期の値段設定などは自動にしておいた。正直、どのくらいが適正なのか分からないのだ。
でも、少し高く売れたりしたら、それでまた生産設備をパワーアップできるかもしれない。ぜひ、お金持ちのプレイヤーの目に留まってほしいものである。
その後は、カプリへの納品だ。魔化肥料、魔化栄養剤を持って、彼の畑へと向かった。
「じゃあ、これとこれな」
「ありがとう! 兄ちゃん! これならうまく育てられそうだよ!」
カプリが大喜びで、俺の作ってきたアイテムを受けとる。そして、そのまま畑に行くと早速撒いていた。
うちと同じように、果樹に使用しているようだ。本来は、ここで肥料と栄養剤の使い方を教えてもらうのだろうか?
そう思っていたら案の定だった。戻ってきたカプリが、果樹に使うか、同属性の作物へ使えと教えてくれたのである。
「あとは、これを使うと特殊な進化をする作物があるらしいぜ?」
「例えば?」
「噂だからなぁ。でも、進化っていうくらいだから、テイマーに話を聞くといいんじゃないか? 俺が紹介してやろうか?」
「いいのか?」
「おう! といっても、親族だけどね。植物関係のモンスターばかりテイムしてる人がいるんだ」
チェーンクエストが進んだか! トリガーはテイムスキルかね? NPCのテイマーさんだなんて、興味しかない。
「連絡してみるから、話が付いたら兄ちゃんに連絡するよ」
「おう、頼むな」
「でも、兄ちゃんには必要ないかもしれないけど」
そう言って、カプリが俺の隣に立つオレアを見た。
「トリ?」
「その子が、トレントから進化したんだろ?」
「そうだけど、樹呪術で特殊進化したから、樹精になったんじゃないのか? 普通に育てても、いいのか?」
「うーん、俺も詳しくは知らないけど、呪術を使わなくても樹精になることはあるらしいぞ? 詳しくはサジータ兄ちゃんに聞いてくれ!」
NPCのテイマーはサジータというらしい。色々と話を聞けるのが楽しみになってきたぞ。
「で、これが報酬だ」
「おおー」
「トリ!」
チェーンクエストが進んだことは嬉しいが、こっちも同じくらい嬉しい。濃紺蜜柑と普通の蜜柑、桃色林檎と林檎。計4種類の苗木である。林檎と蜜柑、ゲットだぜ!
早速畑に戻ってオルトに植えてもらおう。いや、その前に早耳猫かな?
チェーンクエスト関連の情報を売って、オークション資金を稼がないと。いやー、調子に乗って万能工房に1000万もつぎ込んじゃったから、手持ちが心許ないんだよね。
今は少しでもお金が欲しいのである。
「父ちゃんが、いずれお礼をするって言ってるから、それも楽しみにしててくれよな」
「ああ、分かったよ。それじゃ、また」
「トリリー」
「うん。またなー!」
元気なカプリに別れを告げ、俺は早耳猫へと向かった。
新しい店舗に足を踏み入れると、中には先客がいた。
銀髪ポニテの美少女だ。髪型は前と変わっているが、見覚えがある。今までも色々と面白い発見をしている有名プレイヤーだ。
「浜風。久しぶり」
「し、白銀さん……!」
何故か、妙に大げさに驚いている。後ろから声をかけたせいで、ビックリさせちゃったのか?
「ありがとう!」
「え?」
なぜだろう。浜風が急にお礼を言ったかと思うと、握手を求めてきた。差し出された手を反射的に握ると、ブンブンと上下に大きく振られる。よほど、感情が昂っているらしい。
なんでお礼?
「わ、私たち知り合いですもんね? ライバルですもんね? ね?」
「あ、えーと、そう、かな?」
ライバルって、なんのライバルだ? まあ、フレンドだし、知り合いであることは間違いないけど。
「アリッサさん? 浜風、どうかしたんですか?」
「はは、彼女にもいろいろあるのよ。ほら、浜風。ユートくんが困ってるわよ」
「あああ! すみません!」
「いや、別にいいんだが……」
「私、いきます! ありがとうございましたー!」
「お、おう」
浜風はペコリと頭を下げると、嵐のように去っていった。まじで何だったんだ? アリッサさんから何か情報を買おうとしていたとは思うんだけど……。
「商売の邪魔しちゃいました?」
「ううん。ただ相談に乗ってあげてただけだから、いいの。入り口も、入れるようにしていたでしょ?」
情報管理の観点から、商談中は1パーティしか入れないようにしているらしい。入店できたということは、商談中ではないということだったのだ。
「相談事って? 俺に関係あるわけじゃないでしょ? 特別親しいわけじゃないし」
「あはははは。気にしないで。もう解決したから」
「ふーん、ならいいですけど」
浜風の個人情報に関わることだったら聞くのはマナー違反だし、気にしないでおこう。それよりも、今は情報を売らないとね。
「じゃあ、情報を買ってもらえますか?」
「……ちょっと待ってね」
「え? はい」
アリッサさんが急に真顔になると、居住まいを正した。そして、俺の横に視線を落とす。
「まずは、その子の情報かしら?」
「まあ、それも含め色々です」
「い、色々よね。そうよね」
「はい、色々です」
オレアが進化するまでは、結構色々あったからね。売れる情報が膨大なのだ。
アリッサさんが、何故かインベントリから椅子を取り出した。そして、自らそれに腰かける。
あれ? 俺たちに勧めてくれるんじゃないの?
「ごめんなさい。行儀が悪いけど、この状態でいいかしら?」
「は、はい。それはいいですけど……」
「ちょっと、立ってられないかもしれないから」
「はい? 何か言いました?」
「いえ、何でもないわ。それじゃあ、聞かせてくれるかしら?」
アリッサさんが両肘をカウンターに突き、両手を顔の前で軽く組む。あれだ、人型決戦兵器を運用する組織の某司令のポーズである。
その顔は、凄まじく真剣で、重々しい。
新しいロールプレイでも始めたのだろうか?
レビューをいただきました。ありがとうございます。
生産系ゲームは楽しいですよね。
私も、牧場のゲームとか、錬金術のゲームとか大好きです。あと、クラフト系のゲームとかも。
そんなゲームをやっているようなワクワク感を感じてくださっているなんて、嬉しい限りです。
これからも、ユートたちの生産活動をぜひお楽しみください。