500話 オレアの進化
「オルトたちがやりたいならいいんだが……。対象はこのオリーブトレントなのか?」
「ム!」
「突然どうした?」
「ムムー! ムム!」
「ああ、オークションに出品する作物か。もしかして、オリーブトレント関連の物を?」
「ム!」
どうやら、リックの樹呪術を使うことで、何らかの素材がゲットできるらしい。樹に悪影響はないだろうが……。
「オレアに問題はないのか?」
「トリ!」
「うーむ、オレア自身がいいなら、構わんか」
「ムムー!」
「トリー!」
ということで、樹呪術を早速使ってみることにした。
「どの呪術だ? 神聖樹の時と同じ、快癒の呪か?」
「ムム」
「違う? じゃあ、生育の呪?」
「ム!」
今回は生育の呪か。まあ、成長させると考えるなら、妥当か。
「じゃあ、行くぞ。リック、樹呪術だ!」
「キュー!」
リックが尻尾を立てて、両前足を突き出す。すると、二重の五芒星がオリーブトレントを中心に浮かび上がった。
「で、捧げるアイテムの選択か。魔化肥料と魔化栄養剤を選べばいいのか?」
「ム!」
魔化肥料と魔化栄養剤。あとは四属性の肥料と栄養剤で、ちょうど10個である。
「おお、リリスの時と同じだ! 呪術が変化したぞ!」
リリスを仲間にした時は、快癒の呪が悪魔召喚に変化していた。今回は生育の呪が『進化の呪』となっている。
戦闘でのレベルアップではなく、呪術による特殊な進化を行うってことなのか? こんな方法もあったんだな。知らなかった。
「オレア、いいんだな?」
「トリ!」
オレアが両手を上げた状態でピョンピョンと飛び跳ねて、喜びを表現している。むしろ、早く早くって感じだ。
「よし、肥料と栄養剤を捧げるぞ! 進化の呪、発動だ!」
「トリー!」
「キキュ!」
「ムッムー!」
Yesをポチッと押すと、魔法陣が輝いた。
オレアの本体であるオリーブトレントが、強い光に包まれる。目を瞑って発光が収まるのを待っていると、サワサワとこずえが揺れる音が聞こえた。
そして、アナウンスが聞こえてくる。
ピッポーン!
『オリーブトレントが、特殊進化可能状態となりました。進化を行いますか?』
アナウンスと共に光が収まり、俺の目の前にはウィンドウが表示されていた。進化を選ばずに、そのままでもいけるのか。
「あれ? もしかして、進化しちゃうとオルトが欲しがってた作物が手に入らない?」
「ム? ムム」
それは平気であるらしい。
「じゃあ、進化させちゃっていいんだな?」
「ム」
「よし、それじゃあ進化を――って、すっげー量の選択肢が……」
自動ではなく、俺が選択できるらしい。ただ、その数が凄まじく多かった。
ハイ・トレント、ハイ・オリーブトレント、ファイア・トレント、アース・トレント、アクア・トレント、ウィンド・トレント、ファイア・オリーブトレント、アース――。
「トレント系がズラーッと並んでるな」
トレント系は、現在のオリーブトレントからの正統進化だろう。能力が上昇し、スキルもほぼ変わらない。
素材生産で入手できるものが少し増え、管理している農地の属性などを強化する力を得るようだ。
「エレメンタル・トレントっていうのが凄いな」
どうやら四属性全部を併せ持っているらしい。多分、属性特化型のトレントには及ばないだろうが、うちの様に色々な属性の作物を育てているなら有りだろう。
「まあ、畑を管理する力が上昇するならそれでもいいんだが……。多分、この呪術の本命はこっちだろうな」
トレントの後に、樹精が表示されていたのだ。サクラの様に、独立して動くことが可能になるらしい。
進化ルートの関係か、農地管理などもそのまま引き継いでくれるようだ。
オリーブの樹精って形になるんだろう。これは、いいんじゃないか?
名前:オレア 種族:樹精 基礎Lv18
契約者:ユート
HP:52/52 MP:80/80
腕力15 体力18 敏捷9
器用14 知力15 精神12
スキル:株分、光合成、素材生産(オリーブトレントの実×3、精霊の枝、精霊の実)、農地管理、鎌術、再生、樹魔術、忍耐
装備:樹精の鎌、樹精の衣
分身や戦闘不可スキルが消える代わりに、鎌術、再生、樹魔術、忍耐などがゲットできる。これ、武器は鎌に固定みたいなんだが、なんでだろう? ランダムなのか?
ただ、レベルのわりにステータスも高いし、今まで通り畑を任せることもできる。完全に上位互換というか、デメリットはほぼないだろう。素材生産の内容も少し変化するが、上位の物に変わるなら構わないしな。
エレメンタル・トレントなら、今まで以上の畑管理能力。樹精なら戦闘力。どちらにせよ、悪くない。
「うーん。どっちがいいかな」
「トリ?」
「……オレアはどっちがいい?」
「トリー」
俺としては、本当にどちらでもいい。後はオレアの気持ちだろう。
俺がしゃがんでウィンドウを見せると、オレアが腕を組んで唸り出す。だが、少しすると片方をビシッと指さすのであった。
「やっぱ樹精か」
「トリ!」
「よしよし、今度からはお前も一緒に冒険に行こうな!」
「トリー!」
俺が樹精を選択すると、楽し気にジャンプするオレアの体が光に包まれる。
どんな風に進化するのか、楽しみだ!
500話です!