50話 品種改良が欲しい
無人販売所の設定を済ませた俺は、農業ギルドで入手した原木と高級肥料をオルトに手渡した。高級肥料は緑桃と胡桃に使ってもらうつもりだ。全部使うつもりはないけどね。
原木用に、まずはクルス茸とシイリ茸を手渡す。そして、2種類の茸の原木を設置し終わったオルトに。穴を掘って茸を栽培したいと相談してみた。オルトはドンと胸を叩いて大きく頷く。
「ムム!」
いやー頼もしいね。オルトはクワと土魔術を使ってザクザクと穴を掘り始める。
「ムッムムッム」
「頑張れよー」
「ム!」
その間に、俺は地下道で手に入れた戦利品の確認だな。納屋のテーブルを使おう。
赤テング茸、クルス茸、シイリ茸の3つは始まりの町で普通に買える素材だ。赤テング茸なんて最初の頃は全然売ってなかったんだけどね、最近は結構出回っている。
名称:クルス茸
レア度:1 品質:★1
効果:使用者の空腹を3%回復させる。
名称:シイリ茸
レア度:1 品質:★1
効果:使用者の空腹を3%回復させる。
クルス茸。シイリ茸は生だと大した効果はないが、料理すると空腹度を大幅に回復させてくれるんだとか。
「ちょっと焼いてみるか」
フライパンでサッと火を通してみる。
名称:焼きクルス茸
レア度:1 品質:★1
効果:使用者の空腹を8%回復させる。
名称:焼きシイリ茸
レア度:1 品質:★1
効果:使用者の空腹を8%回復させる。
火を通しただけで5%も効果が上昇したぞ。味は、クルス茸がしめじ、シイリ茸は椎茸だ。スープに入れたら美味しそうだね。
焼き茸を齧りながら、他の素材を取り出してテーブルに並べていく。ロックアントの素材類もいくつか手に入った。最も多いのが甲殻、次いで顎、1つだけ手に入ったレアドロップが蟻酸だ。
俺には使い道がないと思っていたら、木工と組み合わせたりも出来るらしい。また、始まりの町周辺では最も防具に適したモンスター素材なため、それなりの値段で売ることも出来るようだ。
とりあえずサクラの木工に使ってもらって、余ったら売っちゃおう。
「サクラ、使えそうか?」
「――♪」
行けそうだな。サクラが興味深げな表情で、ロックアントの顎を色々な角度から調べている。
そして本命が、全く初見のアイテムである赤テング茸・白変種と、ヒカリゴケである。ヒカリゴケはいつの間にかインベントリに入っていたのだ。多分、リックが採集してきてくれたんだろう。
名称:ヒカリゴケ
レア度:1 品質:★3
効果:なし。観賞用。
どんな凄いものかと思ったら、雑草であった。効果もない。まあ光は結構強いし、ランプ代わりにでも使えるかな?
「あとは……苔玉とか? これで苔玉作ったら綺麗そうだ」
「――♪」
「サクラもそう思うか?」
サクラがウンウンと大きく頷いている。もしかして美的感覚も人間に近いのだろうか。まあ、これも増やせるなら増やしたいな。穴が掘れたら、白変種と一緒にこれもオルトに渡そう。
そして1時間後、畑仕事をしているとオルトが呼びに来た。穴が完成したらしい。
行ってみると、想像以上に深い穴が掘られていた。日の光が入らないよう、長さもかなりのものだ。まるで防空壕みたいだな。さすがゲーム。1時間でこれだけの穴を掘れるとは。
原木は簡単に設置できた。さらに、ヒカリゴケを育成することも問題ないようだ。株分けしたヒカリゴケの種を穴の天井に埋め込んでいる。
ただ、良い事だけではなかった。まず、穴を掘るためには畑を3×3で9マス使っている。だが、穴の内部の大きさは3マス分程しかない。しかも、穴の上の部分に作物を植えることが出来なかった。9マスを消費して3マス分しか使えないとか、効率が悪すぎる。さすがにこれ以上穴を掘るのは止めておこう。
その後、俺たちは手分けして農作業を終わらせ、採取に向かう事にした。サクラ用の木材に、クッキー用の木の実ももっと沢山欲しいのだ。
今日は南の森に行ってみるつもりだ。西の森よりも難易度が高いらしいが、その分経験値も稼げるはずだ。新しい素材も手に入るかもしれない。
「じゃあ、初の南の森だ。行くぞ」
「ム!」
「――!」
「キュキュ!」
「クーマー!」
オルトとサクラがムンと拳を握りしめ、動物組もピョンピョン飛び跳ねてやる気満々である。頼もしいね。
俺たちはその勢いのまま南の森へと突入した。入り口は西の森とそう変わらないな。ただ、いきなりワイルドドッグが出現した。さすが難易度高めだ。そして、数回の戦闘をこなし、雑草や木の実、木材をいくつかゲットしたその時だった。
ピッポーン。
お、運営からのお知らせだ。まあ、正午に来るってことは、いつものお知らせメールだろう。
スキルの修正や、システムの不具合の修正など、毎日何らかのお知らせは来る。今まで俺に関係のある修正やアップデートはほとんどなかったので、このお知らせをちゃんと読んだことはなかったが。ただ、今日はちゃんと読んでおいた方が良さそうだ。
『品種改良スキルの変更と修正につきまして』
品種改良というのは、農業スキルをレベル10まで上げると覚えられる、派生スキルである。作物と作物を掛け合わせて新種の作物を作ったりできるんだとか。
これまでは派生するスキルだったのだが、農業に付随するアーツという扱いに変更されるらしい。さらに、スキルの仕様自体に多少の変更が加えられるようだ。
今までの品種改良スキルの使い方はこうだ。
1・掛け合わせたい作物やアイテムを隣り合わせに埋める。
2・そこに品種改良スキルを使用する
3・そのまま数日待つ。
4・成功すると新たな作物の新芽が生え、失敗すると埋めてあったアイテムが消失してしまう。
という仕様であった。それが今回からはその場で成否が分かるようになるらしい。成功時は新品種の種が生み出され、失敗時はゴミが生み出される。ただその新品種の育成難度が上がっているようだな。
これはかなり使い易くなったな。この修正はメリットが非常に大きい。特に大きなメリットとしては、わざわざ品種改良スキルのレベルを上げなくとも、農業スキルのレベルが品種改良にそのまま反映されるという事だ。そして、品種改良を使いまくれば、農業スキルの熟練度も稼げる。スキルのレベリングがしやすくなりそうだね。
そして成否がすぐにわかるので、品種改良の組み合わせを試しやすくなった。きっと色んなファーマーが様々な組み合わせを試すだろう。俺も負けてられないな!
まだ覚えてないけど。でも、いい加減レベルが上がるはずだ。そしたら色々試そう。
まあ、今は南の森の探索が優先だが。入り口付近であれば、苦戦もせずに連戦が出来るようになった。リックとクママのレベルがもう少し上がったら、奥まで行けると思う。
一番の収穫は、大量の木の実と、茸が入手できたことだな。主にリックのおかげで。気づいたら20以上は採集してきてくれている。
俺も負けてられん。目につく伐採ポイントを斧で叩き続けた。ほぼ雑木だが、時折胡桃を採取できる。ビギニクルミ、青どんぐりが生っているビギニブナの木材が手に入るが、品質は最低だ。これは伐採用の斧を新調した方が良いかね。スキルのレベルは上がっても、斧が初心者用じゃ伐採できる木材の品質がいつまでたっても上がらないし。
そんなことを考えていたら、パキーンという何かが砕けるような音が聞こえた。なんだ?
周囲をキョロキョロ見回していたら、オルトがクンクンと俺のローブを引っ張ってくる。
「どうしたオルト?」
「ムム」
オルトが何やら俺の手元を指差している。
「え? まじか」
そちらを見たら、オルトが何を言いたいのかよく分かった。伐採用の斧にヒビが入り、刃が砕けていたのだ。鑑定すると耐久値が0になってしまっている。
ちょっと調子に乗りすぎてたな。耐久値とか気にしてなかった。今まで戦闘を全然してこなかったせいで装備の耐久値がピンチになったこともないし、耐久値を気にするクセとかも全然なかったのだ。
これをくれたソーヤ君には悪いが、壊れたのが斧で良かった。今後は装備の耐久値も小まめにチェックすることにしよう。
伐採オノも壊れちゃったし、今日は町に戻るか。新しい斧も探したいしな。
今週は少々忙しいので、次回、次々回の投稿は、20、23日となります。
楽しみにしていてくださる方には申し訳ありません。




