497話 カプリ
「やあ、君たちもこの町にいたんだ?」
再会したトーラウスがこちらに近寄ってきた。もしかして、チェーンクエストの続きか?
植物学をゲットしたことで終わりだと思っていたら、まだ続くらしい。
「そっちこそ、ここで何を?」
「実はこの町に、僕の息子が畑を持っていてね。その様子を見に来たんだよ」
「息子なんていたのか」
「やんちゃ盛りの男の子さ。そうだ、君は農業が得意だよね? 良ければ息子の相談に乗ってやってくれないかい? 畑のことで悩んでいるみたいで」
農業の相談ね。そういう感じのクエストなのかな? どう考えても、農業ギルドのランクか、農耕・上級の取得がトリガーだろうしな。
「俺なんかでよければ」
「ありがとう!」
「いつ行けばいい? 今から見に行ってもいいけど」
「本当かい? じゃあ、案内するよ」
そう言えば、レッドタウンの畑にはまだ行っていなかった。最近はホームに畑を増やしていたので、外に買う必要がなかったのだ。
日本家屋は普通のホームよりも敷地が広いし、拡張可能な回数も多い。そのおかげで、お金さえ払えればまだ畑を増やすことも可能だ。
今回のランクアップで所持可能な畑の上限が増えたが、その分もホームに増やせるだろう。
始まりの町の畑を買い足したっていいしね。育つ作物の品質上限は低いが、それもギルドでグレードアップすることで上昇させられるのだ。
初めの頃は★5の作物までしか育たなかったが、今は★10まで育つのである。いや、薬草とかハーブ類以外で、★10が育ったことはないけどね。
やはり、★10ともなると、オルトがいてくれても非常に難しいのである。
トーラウスに連れられて向かった先には、野良仕事に精を出す一人の少年がいた。
年は12歳くらいかね? しゃがみ込んで雑草を抜いている。
「カプリ、頑張っているな」
「父ちゃん!」
カプリ君か。トーラウスの息子っていう話だから、もっと大人しめの子を想像していたが、見るからに元気少年だ。
麦わら帽子を被り、顔にはそばかす。日に焼けた肌はまさに小麦色である。以前のイベント村で知り合いになった、魚獲り少年リッケによく似ているだろう。
古き良き田舎の悪戯少年って感じだった。
「来てくれたの?」
カプリ少年が笑顔で駆け寄ってくる。そして、トーラウスの横にいる俺たちに気づいたらしい。首を傾げてこっちを見ているな。
「誰?」
「こら! まずはご挨拶だろう!」
「あ、やべ! カプリです! 11歳です! よろしくお願いします!」
「俺はユート。こっちは俺の従魔たちだ」
俺が名前を呼ぶと、うちの子たちは思い思いに手を振って、自己アピールをしていく。彼にもモンスの可愛さは伝わったらしい。
目をキラキラさせて、見つめていた。
「すげー! 兄ちゃん、テイマーなの?」
「ああ」
「それだけじゃないぞ。ユートさんは腕のいい農家さんでもあるんだ。カプリの相談に乗ってくれるっていうから、ここまでお連れしたんだよ」
「へー! そうなのかー! 俺、いくつか困っていることがあってさ! 話聞いてもらってもいい?」
「おう。俺に分かることだったらいいんだけどな」
とりあえず畑の一角を借りて、カプリの話を聞いてみることにした。サクラ印の丸テーブルと椅子を取り出し、俺、カプリ、トーラウスが腰かける。
モンスたちはその辺で遊んでてね。ああ、畑に悪戯はしちゃだめだからな?
トーラウスのお陰で作れるようになったフレッシュハーブティーを飲みながら、カプリの相談を聞いていく。
「作物の品質が全然上がらなくてさ~。色々な資料を集めてみたんだ。それで、肥料が足りてないんじゃないかってところまでは分かったんだ」
この歳で資料を読み込むとか、さすがトーラウスの息子。勉強嫌いな元気少年に見えて、研究者気質なのかもしれない。
改めてカプリの畑を観察してみると、俺の知らない作物ばかりだ。というか、凄くね?
「こ、この作物、どこで手に入れたんだ?」
「曾爺ちゃんに分けてもらったんだ!」
話を聞いてみると、彼らの一族は全員が植物関係の職業に就いているらしい。
思い返すと、カプリが農家でトーラウスが植物学者。スコップが花屋で、ライバが香辛料とハーブの店。ピスコが木材屋である。
さらに、ピスコたちの父が農園経営。その妻が樹木医で、花見で挨拶したことがあるリオンとバルゴや、それ以外の親族も植物に関係する仕事をしているらしい。
「な、なあ。あれの種子とか苗って、分けてもらえたりしないか?」
「うーん、曾爺ちゃんが作った奴だから俺が勝手にあげるわけには……。それに、曾爺ちゃんはすげー怖いんだ。普通に頼んでも、無理だと思うよ?」
「そうか……」
これって、チェーンクエストをこなしていけば、いずれそのおじいさんにたどり着くってことかね?
さすがの俺も、この一族の名前が12星座に関係しているということには気づいている。現在、スコーピオン、ライブラ、ピスケス、トーラス、カプリコーン、レオ、バルゴの7人が登場しているのだ。
つまり、このチェーンクエストに関係するNPCが最大で12人登場するってことだろう。お爺さんともなると、最後に登場するのだろうか?
俺がチェーンクエストのことを考えていたら、カプリが何かを指さした。
「兄ちゃん、あそこの畑の苗なら分けてあげてもいいぞ?」
「あそこって……え? まじか?」
カプリが指さす先は、果樹の植えてある畑であった。鑑定してみると、林檎、蜜柑、桃色林檎、濃紺蜜柑の4種類が植えられている。
林檎と蜜柑は、雑木扱いだ。
「俺の頼みを聞いてくれたら、タダで分けてあげるよ!」
なるほど! これはやる気が出てきた!
「どんなことでもドーンとこいだ!」
「おー」
俺の啖呵を聞いて、カプリが拍手をしてくれる。うむ、何でも言ってくれ! でも、戦闘関係は勘弁な?
332話にて、水耕、育樹が農耕のスキルレベル30で取得可能と誤って書いてしまっていましたが、正しくは50レベルでした。修正しました。
レビューをいただきました。ありがとうございます。
何度も読み返したくなるというお言葉、とても嬉しいです。
そして、休載時には一筆書くと褒めていただいた直後に、告知を忘れてしまって申し訳ありません!
次は気を付けますので、なにとぞお許しを<(_ _)>
今後とも、中毒性のある当作品をよろしくお願いいたします。




