494話 火霊工房
「万能工房・二型のお披露目だ!」
「ヒムー!」
「じゃあ、鍛冶工房に変形させればいいか?」
「ヒム!」
「ダメ? じゃあ、どれだ?」
鉱石を使うなら鍛冶工房かと思っていたんだが、ヒムカのリクエストは違うらしい。首を横に振っている。
「どれがいいんだ?」
「ヒムー」
リクエストがあるなら、自分で選んでもらおう。
ヒムカは、俺と一緒に操作パネルをのぞき込みながら、下の方にある火霊工房というものを選んでいる。
初耳だな? 火霊って、サラマンダーのことだよな? 首を捻りながら見守っていると、工房が姿を変えていく。
最初は鍛冶工房だと思ったんだが、炉の数が多い。どうやら、鍛冶やガラスなど、サラマンダーのスキルに関係ある工房が一緒になった複合施設らしい。
こんなタイプの工房があったのか。よく見てみると、風霊工房、水霊工房もある。
風霊工房は皮革や服飾、機織りの総合工房。水霊は料理と発酵が合体した施設であるっぽかった。
土霊工房がないのは、必要ないからだろう。ノームに必要なのは、畑だからな。
「じゃあ、ヒムカは好きなように生産にいそしんでくれ。俺は彫金のレベル上げをするからさ」
「ヒム!」
ヒムカは、早速炉に鉱石を入れてインゴット化をし始める。最近手に入れた鉱石も結構あるし、大量のインゴットを生産できるだろう。
俺はブロンズインゴットを取り出して、彫金の練習だ。
「……うーん。インゴットがなくなったな」
インゴットをスキルで変形させつつ削る作業に、思いの他没頭してしまった。
気づいたら、2時間も生産活動に勤しんでいたのだ。
グーッと背筋を伸ばす。アバターの体が凝るわけはないんだが、どうしても癖でストレッチをやってしまう。
「ほとんど失敗。成功品も使い物にはなんないな」
テーブルに置いてある、ネックレスを手に取ってみる。半分以上のインゴットが、失敗してゴミに変化してしまった中、数少ない成功品なんだが……。
名称:ブロンズネックレス
レア度:1 品質:★1 耐久:100
効果:防御力+0
重量:1
外見は少し歪なブロンズネックレス。だが、特殊な効果は一切なしの、ただ装備枠をつぶすだけのアイテムだ。それが10個ほどある。
そして、防御力が+1という、★2の低品質品が3つ。ゲームを始めたばかりの頃、ルインに貰った奴と同じだな。
「で、かろうじて★3なのが1つね」
防御力+2の装備なんて使いどころないし、これもインゴット行きである。鍛冶スキルには、金属製品をインゴットに戻すアーツがあるのだ。
量は少し減ってしまうが、鍛治や彫金スキルのレベリングには必須のアーツだった。いちいちインゴットを用意していたら、メチャクチャ手間と金がかかってしまうからな。
「彫金のレベルも6まで上がったし、今日はこのくらいにしておくか。ヒムカの方はどうだ?」
「ヒム!」
「おおー、これって銀食器? それとガラス製品か」
ヒムカが作った銀の皿に、銀のナイフとフォーク。それと、薄いガラスで作られたグラスが並べられている。珪砂の品質が良いお陰で、グラスの質も高い。
どちらも想像以上のできだ。リアルで販売されている製品と変わりない姿であった。装飾がない地味なものだが、普段使いにはこちらの方がいいだろう。
「で、こっちは細工を施したものか。すげー、これなら絶対に売れるぞ!」
「ヒム!」
持ち手に鳥の翼のような装飾が施された銀製のカトラリーは、どう見ても高級品だ。縁に渦巻のような幾何学模様が施された銀のお皿も、絶対に欲しがる人がいるだろう。
「よし! せっかくヒムカが作ってくれたんだし、早速これで料理を食べてみるか!」
「ヒム!」
「腕によりをかけて、この銀食器に合う料理を作るからな!」
ああ、使うのは勿論、シンプルな方だよ?
「ヒム?」
「いや、こんな高級そうな皿、使うのが勿体ないし……」
そもそも、これに見合う料理を作る自信がない。ただの焼き魚や、焼き串を載せる訳にもいかないだろう。フランス料理のフルコースでもなけりゃ、食器に料理が負けるのだ。
「こっちのシンプルな皿なら、なんとかなるだろう」
ということで、万能工房をキッチンにチェンジすると、料理を開始する。
古代魚の切り身があるから、これをムニエルにしよう。バターや塩コショウで味付けをしつつ、ハーブでアクセントをつけていく。
皿の盛付けにも一工夫だ。まあ、上にミントをあしらって、少しでも銀食器に合うようにオシャレ感を演出するだけだが。
「うん。悪くないんじゃないか?」
何せ、ミントを飾っているからな。オシャレハーブといえばミント。ミントといえばオシャレ。このハーブがチョコンと飾られている料理が、オシャレではないなんてことあり得ないのだ。
「こっちの深皿には、ポタージュがいいか」
黒ジャガイモから作った、黒いポタージュだ。なぜだろう? 銀の皿に黒いスープはあまりオシャレではない気がするが……。
よし、ここにもミントを載せておこう。これで問題なくオシャレになったはずだ。そういうことにしておこう。
「あとは肉料理かな」
恐竜肉のステーキとか美味しそうだ。勿論、焼いたものをそのままドーンと載せるようなことはしないぞ? 肉を極小サイズに切り分けて、それを数切れだけ載せる。
このサイズで一皿5000円を超えるのは詐欺じゃないかっていうレベルの小ささだ。これで腹が膨れるっていうんだから、お金持ち様はみんな小食なんだろうな。
俺はもう二度と行かないけどね!
ふん、こいつにもミントを載せてやる。
「ヒム?」
「……まあ、食えれば同じさ」
「ヒムー」
そんな呆れた目で見ないでくれ! 俺に銀食器が早かったことはよーく分かったから!
それにしても、ヒムカの銀食器は売れると思ったけど、意外とダメなのかもしれん。だって、使いどころがないもんな。
本当にガチの料理プレイヤーじゃないと、俺の二の舞になるだろう。そう考えると、銀は武器やアクセサリーに加工した方がいいかもしれないな。
少々忙しく、次回の更新は1/26とさせてください。




