492話 好感度の先
アリッサさんの「うみゃー」を堪能した後、俺たちは情報の確認に移っていた。
毎度思うけど、このあとに急に冷静になれるのはすごいよね。ロールと素の使い分けが上手いんだろうな。
「土霊の試練を攻略したら、ノームの長が出現したってこと?」
「えーっと、ボス倒して宝箱開いたら、ポータルが出現するじゃないですか?」
「うん。土霊の試練の最初の部屋に転移するやつね」
「はい。それで転移した直後に、ノームの長に出会ったわけです」
詳しい状況を説明し、さらにノームの長との会話のログなども見せる。
「なるほど、そんなことが……。とりあえず、これは未発見情報ね」
「やっぱそうなんですか」
「ええ。今のところ、同じような報告はないわ」
だろうとは思っていたが、やはり未発見のイベントだったか。
これは情報が高く売れるか? みんなと分けても結構手元に残るかも? いや、発生条件とか全く分かってない情報だし、案外安いか?
俺の渡した会話ログを見ながら唸っていたアリッサさんが、再び口を開く。
「このイベントの発生条件なんだけど――」
「何がトリガーだったのか、分からないですよねぇ」
ユニークで、従魔の心をもらえるほど好感度が高いっていうだけなら、他にもいるだろう。
クワの素か? ただ、クワの素が出た理由が分からなけりゃ意味がないけど。
「いえ、多分だけど、好感度じゃないかな?」
「え? 好感度ですか?」
「うん」
「でも、ノームの従魔の心をもらってるプレイヤーなんて、他にもたくさんいるでしょう?」
第2陣の中にだって、早ければもう従魔の心をゲットしたプレイヤーもいるはずだ。それがトリガー?
「どういうことです?」
「そもそもさ、好感度って見えないじゃない? だから、従魔の心を貰ったからって、それがMaxとは限らない」
「それは確かに」
サクラを精霊様に会わせた時にも、同じようなことは考えた。現状で、最大値なのかどうか。
「ノームの長との会話ログを見た感じ、間違いないと思うんだよね」
俺もログを見返してみたが、言われてみると「可愛がってもらってる」とか「可愛がってあげてね」とか、好感度に関係ありそうなセリフが並んでいる。
「このゲームって、まだ始まったばかりじゃない?」
「まだリアルじゃ1ヶ月も経ってませんからね。序盤も序盤でしょう」
「レベルもスキルも、まだまだ先がある。そんな中でモンスの好感度だけがこんな序盤でMaxになるなんてあり得る?」
「うーむ、それはそうですね」
「だから、私たちはこう考えてるわけ。好感度の上限が1000だとすると、従魔の心は100とか200でもらえるボーナス的なものなんじゃないかって」
「じゃあ、この先400とか500で、何か貰えるかもしれないんですか?」
「可能性はあると思うよ」
それは夢が広がるね。それに、従魔たちを可愛がる甲斐もある。いや、何もなくても可愛がるけどさ。
「でも、好感度が高いっていうなら、それこそ他にもいるでしょ?」
ノームは人気がある従魔だから、多くのプレイヤーがテイムしている。しかも、俺よりも余程可愛がっている人たちだっているだろう。
ただひたすらノームを愛でるだけの動画とかもあるくらいなのだ。
だが、そう簡単な話ではないらしい。
「ノームは一番数が多い従魔だから色々と検証も進んでるんだけど、好感度を上げるには幾つかの方法があるみたいなのよ」
「好物をあげて、遊んであげるんじゃだめなんですか?」
「それも必要だけど、畑が重要っぽいわ」
「畑?」
「うん。畑の規模とか、育てている作物のレアリティに種類に品質。あとはノームが望んだ作物があるかどうか。いろいろな要素が絡んでいるみたい」
オルトも、畑に新しい作物を植えたりするときには楽しそうにしてるもんな。実際に、喜んでいるらしい。
「テイマーの中でも、ユート君レベルの畑を所持している人はほとんどいないわ」
「まあ、初期から畑やっていますし、運よく色々と手に入れてますしね」
水臨樹に神聖樹、他にもレアな作物がそれなりに揃っている。海苔とかは水耕が必要だし、栽培している人は多くないだろう。
「どう考えても、オルトちゃんの好感度はノームの中でも一番だと思うの」
「じゃあ、やっぱり好感度が影響してるんですかね?」
「しかも、ノームの長の言葉をそのまま信じるなら、好感度が上がれば特殊な進化先が解放されるかもしれない」
「え?」
「主とともに歩めば大きく成長できるとか、可愛がってあげてればいつか役に立つとか、それっぽいじゃない?」
「おー、そうですね! 言われてみれば!」
これは楽しみが増えたぞ! そのうち、本当にノームの長みたいな特殊なルートに進化できたりするかも?
それに、知りたい情報が増えた。
「ノームが畑を充実させればいいんなら、他の精霊たちはどうですか? 樹精にウンディーネ。シルフにサラマンダーの好感度を上げる方法、知りたいんですけど」
「うーん、それがまだ確定じゃないのよ。ウンディーネに関しては、水関係の施設だとは思うんだけどね」
ウンディーネはノームに続いてテイム数が多く、こちらもそれなりに検証が進んでいるらしい。
オイレンとか、いろんな検証をしてるだろうしな。きっとすごい発見とかもしているに違いない。
その原動力はエロ――いや、愛である。そういうことにしておこう。
「シルフ、サラマンダーは仕事場の充実に加え、それぞれの属性に関係あるものをホームに揃えることじゃないかとは言われているけど、確証があるわけじゃないわ」
「樹精は?」
「そっちはもうお手上げ。そもそも、絶対数が少ないし。ユート君が知らないなら、私たちも知らないわ」
「そうっすか」
現在でも、樹精は全体で10体程度しかおらず、激レアモンスとして皆の憧れとなっているらしい。
そこまで少ないとは思わなかった。二陣も入ってきたし、50や100はテイムされているものだとばかり思っていたのだ。
「というわけで、何か新情報があったら売りに来てね!」
「了解です」
その後、称号の情報なども売ったんだが、ノームの長の情報が衝撃過ぎたせいか、アリッサさんはあまり驚いてはくれなかった。
「それじゃあ、精算に移らせてもらうわ……」
結構新情報を買ったはずなんだが、それでも700万Gもいただくことになってしまった。ノームの情報は皆が求めているため、非常に高いらしい。ゲームが進んで皆の所持金が増えたことで、情報の値段も上がっているんだろう。
さすがに一括支払いは無理ということで、半額の350万が送られてくる。これでも十分大金だけどね?
昔は50万しか受け渡しできなかったが、アリッサさんの基礎レベルや商人レベルが上がったことで、譲渡できる上限が増えたらしい。
パーティメンバーで割り勘しても、約117万Gだ。
「とりあえずタゴサックたちに連絡しよう。お金をどう渡すかも話さないといけないしね」
その後、皆にフレンドメールを送ったんだが、全員からお金はいらないと言われてしまった。
だが、あのイベントは土霊の試練を攻略しなくちゃ起きなかったわけだし、俺一人じゃ達成できなかったのだ。だから、みんなにも情報料を受け取る権利はあると思うんだけどね……。
俺の情報だからと言って、固辞されてしまった。みんな欲がないな。
「うーむ、受け取ってもらえないんじゃ仕方ないか……」
にしても、これで所持金が1000万を超えてしまった。やばい、大金持ちじゃね?