490話 オルトとノームの長
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
グランドファイターを倒したことで手に入った、クワの素というアイテム。
タゴサックたちも知らないという。
その場で掲示板を軽く調べてみたが、クワの素についての情報はゲットできなかった。
俺しか入手できていないのか、発見者が秘匿しているのか。ともかく、大量に出回っているアイテムではなさそうだ。
アイテムデータのスクショも撮ったし、オルトに使ってみようかな?
「クワの素っていうくらいだし、クワに何かの変化があるのかね?」
「ム?」
「クワの素を選択して――」
決定を押す。
「ムー? ムムー!」
すぐに効果が表れた。とは言え、オルトが一瞬光って終わりだったけど。
クワは――何か変化あるか? いや、微妙にクワの刃の輝きが増したかもしれない。
それに、オルトのステータスを確認すると、装備品が土精霊のクワ+に変わっていた。これが強化されたということなんだろう。
正直地味ではあるが、多少強化されたらしい。これは、ゲットした人間が秘匿してたわけじゃなくて、大した情報じゃないと思って広めてないって可能性の方が高いかも?
「まあ、とりあえず試練突破の証をゲットして戻ろうぜ」
「だな」
タゴサックとつがるんが、部屋の先へと歩き出す。ボスを倒したことで出現した広い通路を抜け、到着した先は狭い部屋だ。
そこには、大きな宝箱が置かれていた。つがるんが開けると、中から光があふれ出し、部屋を包み込んだ。
予想していた俺たちは即座に目を瞑ったので問題なかったが、慣れないイカルとエスクが悲鳴を上げている。
「うわう!」
「ムー!」
「ムムー!」
あれ? ノームの悲鳴が二回?
目を開けると、イカルたちと一緒にオルトも目を両手で押さえて悶えていた。こいつ、普通に光を見たな。
まあ、あっちは放っておけばすぐに治るだろう。それよりも、報酬が気になる。
確認してみると、インベントリに『土霊の試練突破の証』というアイテムが入っていた。
これは、装備すると土属性耐性(大)の効果があるアクセサリーであるらしい。これがあると土霊の試練の周回効率が上昇するそうで、鍛冶師や採掘で稼ぐプレイヤーには人気があるそうだ。
ただ、譲渡、売却は不可能なので、他人に譲ることはできないけどね。
俺たちがインベントリを確認し終えると、宝箱が宙に溶けるように姿を消した。そして、その場所に大きな魔法陣が出現する。
帰還用の転移ポータルだ。
「目的も達成したし、戻ろうか」
「そうですね!」
アカリとチャームたちを先頭にポータルをくぐっていく。
「私たちも行きましょう!」
「ム!」
「ああ、そうだな」
俺も、楽しそうなイカルとエスクに続いて、ポータルに足を踏み入れた。特に選択肢などは出現せず、自動で転送が行われる。
出現場所は、土霊の試練の最初の部屋だ。すると、その部屋に人影があった。
プレイヤーではない。ここのダンジョンは、パーティごとに分かれるからね。
「やあ、試練突破おめでとう」
そこにいたのはノームの長であった。あれ? 何かイベント発生した?
タゴサックたちに視線を送るが、彼女らにもノームの長がいる理由は分からないらしい。全員が首を横に振っている。
ここのダンジョンを攻略したパーティだったら、絶対に起きるイベントというわけではないらしい。
明らかに俺を見ている。
つまり、俺に用があるってこと? 何かのフラグを踏んだか?
俺が悩んでいると、オルトがノームの長に駆け寄っていってしまった。足元にまとわりついて、何やら訴えかけている。
「ムムー! ムー!」
「うんうん。元気だね」
「ムム!」
まるで、仲のいい兄と弟のような姿だった。ノームの長も喜んでいるのか、オルトの頭を撫でてくれている。
「ちゃんと可愛がってもらっているね。いい主に出会えたようだ」
「ムー!」
オルトがこちらを振り返り、指をさしながらムームーと叫ぶ。悪口を言っている感じでもないから、きっと褒めてくれているのだろう。たぶん。
「そうかそうか。主が大好きか」
「ムムー!」
ピョンピョン飛び跳ねて笑うオルトと、それを見てにっこりと笑うノームの長。悪くない雰囲気だ。
「えーっと、どうしてここに?」
「君たちが試練をちゃんと達成したようだからね。祝福しに来たのさ」
「あ、ありがとうございます……?」
再びタゴサックたちを見る。首をブンブンと横に振って「知らない」のジェスチャーだ。イカルがエスクに「行かなくていいの?」と聞いているが、エスクは遠慮するような感じで、その場から動かない。
オルトのイベントであるということなんだろう。
それにしても、どうして俺たちなんだ?
オルトに関係がありそうだっていうのは分かるが、過去の攻略者の中でオルトだけが特別ってことはないと思うんだよな。
ユニーク個体だって他にいるし、ノームリーダーだっているだろう。従魔の心だって、珍しくはないはずだ。
まあ、考察は後でいいか。とりあえず、このイベントを上手く成功させよう。
そう思っていたんだが、その後は特に大きな展開もなかった。
「オルト、これからも可愛がってもらうんだよ? 主とともに歩めば、きっと大きく成長できるからね」
「ム!」
「オルトの主よ。この子をよろしく頼む。これからも可愛がってあげていれば、君の役に立つだろうからね」
「は、はい」
「いい返事だ。それじゃあ、オルトとその主に幸多からんことを!」
え? それだけっていう感じだった。ノームの長が去って行ったあと、ステータスやインベントリを確認したが、特に変化もない。
「何だったんだ?」
「ムムー!」
あとでアリッサさんに相談しに行ってみよう。
次回の更新は1/9の予定です。