49話 無人販売所
俺は白変種の栽培を試すための原木を入手するため、農業ギルドへ向かった。そこで原木を3つと、再入荷していた高級肥料を購入する。
ついでに依頼を確認しておこうかな。そう思ってリストを見てみたら、幾つか達成可能な依頼があった。
まずは茸を3種類納品する依頼だ。これは取ってきたばかりの茸がそれぞれ複数個あるし、1つずつなら納品しても良いだろう。
それに加え、変異種を見せるという特殊クエストもあった。獣魔ギルドにもあった、ユニークモンスをバーバラさんに見せるという依頼の農業ギルドバージョンだな。
とりあえず白変種の赤テング茸を見せておいた。自分の畑で変異した作物を見せるという依頼もあったんだが、微炎草は株分してしまった後だ。
失敗したな。次に変異種が収穫できたら見せに来るとしよう。
ただ、依頼を2つこなしたことで、ギルドランクをアップさせる条件を満たしたらしい。
「ギルドランクを上げるランクアップクエストを受けるか?」
次はランク5だからな。ランクを上げるにはクエストをこなさなきゃならんか。従魔ギルドだとLv10のモンスターを3種類連れて行くというクエストになるはずだ。見た感じ、どのギルドも結構難しいんだよね。
農業ギルドはどうなんだろう。
特殊クエスト
内容:自分の畑で収穫した★3以上の作物を4種類納品する
報酬:ギルドランクランク5へのランクアップ
期限:なし
あれ? めっちゃ簡単だった。というか、今達成できてしまうんだけど。でも普通に育ててたら結構難しいのか? 俺はオルトのおかげで普通に★5の作物が収穫できてしまう。いまいち難易度が分からないな。
という事で俺はその場でクエストを達成し、見事ギルドランクが5に上がったのだった。やっぱり獣魔ギルドよりも農業ギルドの方が早くランクアップしちゃうんだよな。
「ランクが上がったら何か買える物とか増えるんですか?」
「勿論だ。今までよりもランクの高い農具も買えるし、苗や種の種類も増えるぜ?」
見せてもらったら、薬草や麻痺草などのフィールド採取品の種が増えていた。それに、今までは品質が★1だった食用草などが、★3で買えるようになっている。
さらに、1週間で買う事の出来る高級肥料が5つに増えたか。
「あとは、無人販売所を設置できるようになったぜ」
「無人販売所ですか?」
「おう」
詳しく話を聞いてみたら、自分の畑で採れた収穫物や、それらを使った加工品を売ることが出来るシステムらしい。
露店などと違うのは、登録した商品しか売れないという事だろう。ギルドランク5で使用できる無人販売所の場合は、5つまで商品を設定できるらしい。
入れ替えは出来るが、露店のように自分の好きな物をいくらでも売れるという訳ではないのだ。それに、畑に関連ある物だけなので、武具やモンスター素材などを売ることもできない。
ただ、畑で採集した薬草で作ったポーションや、畑で育てた樹木から獲った木材を使った木工品であれば販売可能である。
「これって、使用にお金はかかるんですか?」
「いや、手数料なんかは特にかからん。販売所を畑の前に設置するだけだからな」
それはお得だね。それに面白そうだ。
という事で、俺は無人販売所を申し込むことにした。いや、あっさりしたものだ。納屋なんかと同じように、もう畑の前に設置してくれているらしい。
早速畑に戻ってみると、第一畑の前、道に面した場所に屋台のような販売所が置かれていた。リアルでもよく見る野菜の販売所にそっくりだ。
「へぇ。これで――おお、触れば色々設定をいじれるわけか」
販売物の選択や、値段を設定できる。さて、何を売ろうか?
一番余ってるのは携帯食や、野菜類なんだが。これが普通のプレイヤーに売れるとも思えない。
売れそうなのはやっぱり薬系か? まあ、アリッサさんに売ってる薬類をここで売るのも良いが……。
用意できそうなのは★5の下級ポーション、毒薬、麻痺薬、出血薬、痛撃薬かな。需要はあると思うが、どうだろう?
そうだ、誰かに意見を聞いてみようかな? フレンドリストを見てみたらアシハナがログイン中だった。とりあえず相談してみるか。
アシハナにフレンドコールをかける。
「は~い? どしたのユートさん? 養蜂箱はもうちょっと待ってほしいんだけど」
「いや、養蜂箱の話じゃなくて、ちょっと相談があってさ」
無人販売所の事を話す。すると、思ったよりもキチンとしたアドバイスが返って来た。
「薬は難しいかも?」
「何でだ?」
「★5でしょ? 始まりの町でそのレベルを買う人はあまりいないんじゃないかな? 今始まりの町にいるのは生産職か、遅れて始めた初心者ばかりだし」
「なるほど」
「第3の町に行けば幾らでも売れると思うけどね~」
「じゃあ、野菜とかの方がましか?」
「というか、ハーブティーの茶葉を売ってよ!」
「いや、売れるか?」
「私が欲しい! 昨日貰った奴は全部飲んじゃったし」
「ええ? 5つは渡しただろ?」
「だって美味しいんだもん。作業しながら飲むのにちょうどいいしさ~。合わせてクッキーも売ってくれたら最高!」
ハーブティーか。売るのは構わんけど、儲けが全然期待できないんだよな。
ハーブティーの茶葉は200Gくらいでしか売れないし。というのも、無人販売所の設定金額はアイテムの基本価格の5倍までと決まっているのだ。基本価格というのは、素材の価値や品質から算出された、システムが定めた価格だ。どれだけ需要があろうとも、無人販売所では5倍までしか値段を引き上げられない。
そもそもハーブは雑草扱いなので、1種につき10G~40Gくらいの価値しかない。それを乾燥させただけだからね。価値はほぼ素材代なのだ。
一応、ブレンドした物なら複数素材扱いで400~600Gくらいにはなるか? でも、効果なしの嗜好品にこの値段は高すぎる気がするな。
「いや、待てよ? アシハナたちも植物知識持ってるんだから、自分で作ったらどうだ? ソーヤ君は錬金術師だし、乾燥使えるだろ?」
「それが無理なの!」
アシハナも錬金を持っており、もう試したらしい。だが、アシハナもソーヤ君も、ハーブを乾燥させることが出来なかった。どうやってもゴミになってしまうらしい。
「何でだ?」
「多分だけど、料理スキルが必要なんじゃないかな?」
なるほど、それはあるかもな。
「だったら、料理スキルを取ればいいじゃないか」
「ハーブティーは作りたいけど、そのためにボーナスポイントを使っちゃうのはちょっとね~」
ということで、俺からハーブティーを買いたいらしい。
「分かったよ。じゃあ、とりあえずハーブティーの茶葉を登録しておくな」
「ありがとう!」
「ただ、クッキーは売る程用意できないぞ?」
「うーん、それは仕方ないね~」
「その代わりハーブティーは5種類用意しておくから」
配合を変えれば味もかなり変わるからね。シンプルな奴もあるだろうし。
登録するときに名前を変えられるので、ハーブティー1~5という名前で登録しておいた。値段は適当に100Gにしておくか。
「何番が好みだったかあとで教えてくれよ」
「うん。了解しました!」




