483話 邪悪樹
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畑仕事を全て済ませた俺は、モンスたちを連れてタゴサックの畑にお邪魔していた。
まあ、お隣さんだから、徒歩数十秒だけど。それに、互いの畑には頻繁に出入りして意見交換もしているので、物珍しさもない。
いや、1つ見慣れない物があった。
今まではハーブを育てていたはずの畑に、未見の苗木が植えてあったのだ。この苗の専用に変更したらしい。
幹から葉から全身が黒い、ちょっと不気味な感じの苗である。
「お、そいつに目を付けたか?」
「タゴサック、これって何の樹だ?」
「邪悪樹だよ」
「はあ? え? 邪悪樹って、あの邪悪樹か?」
「おう! 鑑定してみろよ」
言われるままに鑑定すると、本当に邪悪樹と表記されていた。
神聖樹が悪魔によって穢されることで誕生、レイドボスの邪悪樹。
うちの神聖樹も、リックの樹呪術がなければ邪悪樹化していたかもしれない。ただ、苗の状態の物は初めて見たのである。
「へっへっへ。こないだのオークションで手に入れたんだ。ようやく肥料なんかの準備が整ったから、植えたんだ」
「え? こんな出品、あったか?」
先週から始まった月曜日のオークションは、当然ながら今週も開催された。俺も、掘り出し物がないか、色々とチェックしたのだ。
当然、苗や種、生産に使えそうな素材などは全部目を通したのである。だが、邪悪樹なんて出品リストになかったはずだ。
「それがさ、俺も驚きなんだがランダムボックスから出てきたんだよ」
「まじかよ? このレベルのアイテムが出るのか」
「驚きだよな」
ランダムボックスとは、中から何が出てくるか分からない福袋みたいなアイテムだ。
そんなアイテムが、各ギルドから出品されていた。獣魔ギルドなら、テイマーやサモナーに必要、もしくは関係するアイテムや素材が出現するのである。
俺も、そのアイテムには入札していた。ただ、ランダムボックスがそれなりに値上がりしてしまい、どのギルドのボックスも落札できなかったのである。
第2回目ってことで、オークションの参加者が増えてしまったようだった。
時間経過塗料も高騰してしまい手に入らなかったし、神聖樹の苗木なども今回は諦めた。
無理して入札すれば手に入ったかもしれないけど、いくらまで値上がりするか分からなかったしね。
ただ、幾つかゲットしたものもあるぞ。妖怪の掛け軸などである。
マヨヒガでは、座敷童の掛け軸をゲットするために他の掛け軸を諦めるしかなかった。それが、全て売りに出されていたのだ。
多少値上がりはしたものの、他のアイテムに比べればかなり安く、俺でもゲットすることができていた。
まあ、座敷童の掛け軸以外は、まだどうやって使うのか分かっていないからな。そこまで人気も伸びなかったのだろう。
河童、幽鬼、サトリ、玉繭の4種類全て入手できた。
俺の場合、和室のインテリア代わりに欲しかったのだ。
相変わらずの不気味な日本画風の絵だが、和室に飾ると一気に雰囲気が出るよね。あれの前で怪談とかしてみたい。
「次のオークションで狙ってみようかな」
「俺も、もう1回くらい落札してもいいかな。ただ、次回からはさらに値上がりしちまうと思うぜ?」
「まあ、それは仕方ない」
邪悪樹の苗レベルのアイテムが当たることがあるなら、多少無理してでも欲しいと思うプレイヤーは多いだろう。俺だってそうだ。
だが、高騰すると予想される原因は、タゴサックの邪悪樹ではないらしい。そもそも彼女は、この苗を手に入れた経緯を数人の親しい友人にしか漏らしていないそうだ。
「え? そんな凄い秘密、俺に教えてくれたのか?」
「ユートなら誰かにばらしたりしないだろ?」
「あ、当たり前だ」
親しい友人枠に入れてもらえて、ちょっと嬉しかった。信頼がちょっと重いが、裏切るような真似をするつもりもないのだ。
「原因はこの苗よりも、武器だよ。ランダムアイテムボックスから、スゲー強い武器が出たらしい。攻略組が騒ぐくらいだから、かなりの性能なんだろうな」
「へー、そうなのか」
そりゃあ、多くのプレイヤーが注目するな。その武器と同格のアイテムなら、素材だろうが道具だろうが、良いアイテムに違いないのだ。
「邪悪樹がレイドボス化したら、助けてくれよな?」
「俺が役に立てるかどうかわからんが。最善は尽くすよ」
「なら勝ったも同然だな!」
「なんでだよ? ちゃんと強いプレイヤー呼んでくれよ?」
邪悪樹のレイド戦に参加したいやつは多いみたいだし、今回みたいにアリッサさんに頼めば問題ないと思うけどね。
そうしてタゴサックと邪悪樹について話をしていると、他のメンバーも揃ったらしい。
「今日はよろしく頼むぜ」
「よろしくお願いしますねー」
つがるん、アカリは顔見知りだし、気安い相手だ。
ただ、チャーム、イカルに関しては初めましてである。面と向かって挨拶したことはないはずだ。
「よろしくお願いします! 私はチャームって言います。武器はカマなので、前衛は任せてくださいね!」
チャームは、蜥蜴人の女性であった。ただ、蜥蜴っぽさは目元と腕の鱗と、尻尾くらいかな? 人に近い外見をしたタイプだ。
灰色ショートヘアーが活発な雰囲気に似合っている。ただ、触角っていうの? こめかみ辺りの毛だけ長くて、三つ編みになっていた。
蜥蜴人は魔力低めで、戦士向きのステータスの種族だったはずである。本人が言う通り、前衛が得意なのだろう。
「そして、こっちがイカルです。ほら、挨拶しなさい」
イカルは人見知りなんだろう。ずっとチャームの後ろに隠れていたが、つんのめる勢いで前に押し出されてきた。
身長は俺よりも低い、140センチくらいだろう。膝裏ぐらいまである、超ロングのストレート金髪だ。種族は人間である。
俺はこの子に見覚えがあった。第二陣がログインしてくるのを野次馬しにいった時、初期モンスでノームを連れていたのだ。
イカルがブンと勢いよくお辞儀し、挨拶してくれる。
「わ、わたひは、イカルっていいましゅ! よ、よよ、よろひくおねがいしまっす!」
なんか、メッチャ噛んだ。人見知りが仕事し過ぎだな。