48話 地下探検
祭壇を後にした俺たちは、ギルドへと通じるという地下道を探索してみることにした。
先頭は種族特性として夜目が利くドワーフのルイン。そして商人兼斥候職でもあるというアリッサさんだ。
真ん中に、俺と生産職のメイプル。殿はうちのサクラだった。リックは好きにさせている。
2度目の角を曲がった時、アリッサさんがボソリと呟いた。
「βの時とはちょっと作りが違うわね」
「βテストの時は、どんな作りだったんですか?」
「一本道だったはずよ」
アリッサさんが言うには、βテストの時は一本道なうえ、モンスターも出現せず、採取物なども無かったらしい。しかし、既に2回は角を曲がっている。さらにβとの違いがあった。
「キュー」
「リック、何か見つけたか」
そう、リックが素材を採集してきてくれているのだ。
赤テング茸と食用素材のクルス茸にシイリ茸といった、始まりの町の周辺で採取できる素材ばかりだし、それほど量は多くないが。
それともう1点、βとは違う事があった。
「待て、モンスターだ」
先頭のルインが皆を止める。暗視を持つルインには、俺たちには見通すことのできない暗がりの向こうが見えているんだろう。
彼の告げた通り、地下通路の先から複数の影が現れた。闇に蠢くモンスターたちを観察していると、直ぐにその全貌が目に入ってくる。
「ロックアントか」
俺はまだ出会ったことが無かったが、南の森や東の平原に出没するというモンスターだ。
攻撃力は大したことないらしいが、防御力はそれなりに高く、集られると厄介な相手である。実際、ワイルドドッグの次に初心者の命を奪っているらしい。始まりの町周辺に出現する敵では強い方だろう。
とはいえ、魔法防御は低いので魔術を使えればそれほど苦労しないんだとか。
初めて俺が活躍する場面かもしれん!
そう思ってたんだけどね……。
「ぬうりゃぁぁ!」
「ロック・ボールー!」
「ウィンド・ボール!」
早耳猫3人衆があっという間に片づけてしまいました。メイプル、アリッサが魔術を使えるのは良い。戦士であっても1種類は使える方が良いというのが定説らしいし、彼女たちが魔術を覚えているのは当然だろう。
だが、ルインの攻撃力は何だ! 硬いはずのロックアントを――しかも打撃耐性を持っているはずなのに――メイスの一撃で倒しやがった。
驚いていたら、ルインが俺の疑問を理解したんだろう。武器を見せて教えてくれた。
「これは俺の最高傑作、大火のメイスだ。火属性を持っている」
なるほど、属性ダメージがあるからロックアントに対してもある程度通るってことか。
名称:大火のメイス+
レア度:3 品質:★8 耐久:233
効果:攻撃力+41、火属性付与・小、敏捷-4
重量:22
銅製のメイスの中心に、赤い石が埋め込まれている。完全に脳筋装備だった。俺には持ち上げる事さえ不可能だな。ドワーフらしいと言えばドワーフらしい武器だろう。
その後、俺は活躍のチャンスを待つと、直ぐにそのチャンスは巡ってきた。
後ろから迫ってくるロックアントにはルインの攻撃は届かないからな。
それにしても、この地下通路はロックアントしか出現しないようだ。時折天井から忍び寄ってくるので結構侮れない。まあ、リックの警戒スキルのおかげで奇襲はされないけどね。
そうやって進んでいたら、リックが面白い物を採ってきたな。
「キュキュ!」
「白い茸? 初めて見たな」
鑑定してみると、赤テング茸だった。ただ、白変種となっている。
名称:赤テング茸
レア度:1 品質:★1
効果:服用者に微確率で毒、麻痺効果。
名称:赤テング茸・白変種
レア度:2 品質:★3
効果:服用者に微確率で毒、麻痺効果。変異率上昇。
「あら、それって白変種?」
「アリッサさんはご存知でしたか?」
「ええ、洞窟なんかでたまに見つかるのよ。ホワイトアスパラとかと同じで、太陽光が当たらない場所に生えると言われているわね。まあ、詳しいことは分かってないんだけど」
「なるほど。この変異率って何ですかね? 水臨樹の花弁にもこの効果が付いてましたけど」
「ああ、それは――」
調合や栽培の時、時折本来できる物とは全く違う、特殊なアイテムに変わる可能性があるらしい。それを変異と呼ぶんだとか。
上位の物に変わる場合もあれば、目的の物とは違ってしまう場合もあるので、良い事ばかりではないらしい。
この白い赤テング茸を調合に使うと、変異する確率が高いってことね。
ただ、レア度が低い内は変異率が低いため、あまり期待するなとも言われた。変異を狙うには、変異率を上げるアイテムや道具、スキルに素材を使って、レア度の高いアイテムを何回も調合してようやっと発現するらしい。確かに、俺だってここまでで1回も変異したことないし。
いや、待てよ? さっき採取した微炎草。あれってもしかして薬草が変異したのか?
俺はそのことをアリッサさんに聞いてみた。やはりあの微炎草は薬草が変異した物らしい。白変種の様な特別な種類に変わったのではなく、レア度が1つ高い同種に変異する、通常変異という現象らしい。
「うーん。あまり有難味はないですね」
「まあ、微炎草じゃねぇ」
むしろ光胡桃の方が反応が良いくらいだった。これを畑で収穫可能になったプレイヤーはまだ聞いたことが無いらしい。
因みにリアルで胡桃を収穫しようとしたら、殻の周りを覆う果肉を腐らせたりして取り除く必要があり、かなり面倒だ。
ただ、このゲームでは殻の状態の胡桃が木に生る。まあ、さすがに果肉を地面に植えて腐らせるとか手間がかかり過ぎだし、そこは大人の事情なんだろう。
そういう大人の事情は他にもある。というか、モンスターを倒しただけで、解体とかもせずにインベントリに毛皮や肉が入っている時点で、十分大人の事情だろう。
「白変種を狙って育てることはできないんですか? 太陽光を遮って育てれば白くなったり?」
メイプルさんに尋ねてみたが、分からないという事だった。試す人間はいるようだが、成功したという話は聞かない。
それでも栽培に挑戦する者はいるとのことで、メイプルさんに彼らが試している栽培方法を教えてもらった。まあ、やることは難しくない。穴を掘って太陽光を遮断し、そこで育てるだけだ。
「帰ったらオルトに頼んでみるか」
「もし栽培方法を見つけたら、情報を売ってくださいー」
「いや、プロのファーマーが四苦八苦してるんでしょ? 無理だと思うけど」
「いえいえ、期待してますのでー」
「まあ、見つけたら教えますよ」
そう約束したら、1つ良い情報を貰えた。茸類を栽培するとき、水が非常に重要なんだとか。水の質を上げるだけで、栽培量が増えるらしい。浄化水を使って栽培すると、必ず2つは収穫できるとのことだった。
それは盲点だったな。帰ったら早速オルトに浄化水を渡すとしよう。
あと、インベントリの設定の変更っていうのを教えてもらった。俺がリックが採集してきたアイテムを一々受け取ってしまっているのを見て、もどかしくなったみたいだな。
なんと、インベントリの設定で従魔を紐づけしておくと、パーティを組む従魔が入手した素材が、自動でインベントリに仕舞われる様に設定出来るらしいのだ。しかも、入手して4時間以内のアイテムはインベントリ内で新規マークが付くので、混ざることもない。便利だぜ。
そうやってメイプルさんやアリッサさんと会話をしていたら、あっという間に終点についた。ルインは寡黙なのでほとんど相槌だけだ。
「デカイ扉ですね」
「ええ、この先が冒険者ギルドの地下に出るはずよ」
「まあ、今は開かんがな」
ルインさんが何をやっても、扉は開けられなかった。俺の鍵も、こっちの扉は開けられない。冒険者ギルド側からしか開かない作りなんだろう。結局引き返すしかなかった。
「じゃあ、今日のところはこれで終了ですかね?」
「そうだな」
「お疲れ様でしたー」
「ちょっと、待って。これを持っていって」
アリッサさんたちは未だに鍵のことを気にしているようで、ロックアントの素材を押し付けられてしまった。また、いるいらないの押し問答をするのは面倒なので、何も言わずに受け取ったけど。
ただ、それを抜きにしても収穫が多かったな。白変種の情報に、ロックアントの素材。さらには熟練度や経験値も手に入ったし。かなり満足な結果なのだ。
「畑に戻る前に農業ギルドで原木を買って帰ろうかな」
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