478話 どれがいいかな?
レッドタウンを歩いていると、欲しいものだらけで困ってしまった。まさか蕎麦が売っているとはな。
そうなのだ。この町では蕎麦が売られていた。もうね、大量に買ってしまったよ。その後、当然農業ギルドに向かい、種もゲットしておいた。
いずれ、自作の蕎麦を楽しめるようになるだろう。今から楽しみで仕方がない。ホームの畑は最大限まで大きくしたし、あそこで育てればいいだろう。
天ぷらそばとかいいねぇ。最近はレア度の低いコッコの卵ならかなり安くなってきたので、月見そばも食べ放題だ。
あとは、ガレットなども作れるだろう。純和風のこの町では売っていないようだが、俺は結構好きなのだ。
ホームオブジェクトなんかも和風の物も売っているので、うちのインテリアはここで買うといいかもしれない。
狛犬風のお稲荷様とか、高さ10メートルくらいある巨大石灯籠とか、どこに飾るんだっていうオブジェクトも売ってるけどね。
紅葉柄の透かし模様が入った障子とか、和紙で作った行燈なんかはお洒落だ。これを使えば、ホームをグレードアップできるらしい。
甚平などの和服に関しては、町中で売っていた。呉服屋だけではなく、雑貨屋などでも販売しているのだ。
まあ、俺は防御力を求めていないので、柄で選ぶ感じだけどさ。
とりあえず、大きめの呉服屋に入ってみることにした。なんと、袴や浴衣も売っている。
ただ、重すぎて俺には装備できなかった。剣士装備ってことは、侍ルートの人が身に着けるんだろう。
斬撃強化などのスキルも付いている。
「甚平、作務衣コーナーはここか。お、安いのもあるじゃないか」
防御力1とか、逆にどう作るのか気になるんだけど。初期防具よりも弱いぞ。
最近追加された試着機能を使えば、自分がそれを着た画像をウィンドウに表示することができるらしい。
「結構色んな柄があるなー。色も選べるし。どれにするか……」
「キキュ!」
「どうしたリック?」
「キュー!」
肩に乗っていたリックが、俺の髪を引っ張って何かを訴え始めた。そして、棚の一角に走っていく。
「キュ!」
「あー、それがお勧めってことね」
リックが、緑地に団栗柄の甚平を引っ張っている。まあ、リックが好きそうだが、ちょっと子供っぽ過ぎないか?
そりゃあ、俺のアバターはやや若いけど、さすがにそれは……。
「ヒム!」
「フム!」
「お、お前らもお勧めがあるってことか?」
「ヒムムー!」
「ヒムカが真っ赤な甚平か」
背中にはオレンジ色のファイアパターンがデカデカと刺繍され、ヤンチャ臭がすごい。コンビニの前でたむろってるヤンキーさんが、こんな甚平着てなかったかな?
「フムム!」
「ル、ルフレのも個性的だな……」
真っ青な作務衣なんだけど、肩の生地が淡いシースルーだ。これ、女性向けじゃない? ユニセックス? そうっすか。
「やばいな。この流れ、前もあったぞ――」
「フマー!」
「やっぱり!」
アイネが持ってきたのは、両袖の丈が違ううえに、胸元の合わせが妙に開いたデザインの甚平である。
「左は手が隠れるくらい長いのに。右は二の腕くらいまでしかないんだけど……」
「フママ!」
ちょいと中二病っぽくない? もしくは、和風がテーマのビジュアルバンドの衣裳風?
普段着にするには大分着づらそうだ。しかし、アイネはキラキラした目で、俺の試着画像を見つめている。
「ア、アイネはこういう攻めたデザインが好きなのか?」
「フマ!」
もし被服作製系のスキルを手に入れても、アイネに作ってもらうのはヤバいかもしれん。ま、まあ、性能さえ良ければいいんだけどさ……。
「クックマ!」
「……真っ黄色で、しかも背中にハチミツ入りの壷のプリント……」
これまた子供っぽいね。クママめ、俺に似合うとかじゃなくて、完全に自分の趣味で選んでやがるな。
「モグ」
「ドリモがいてくれてよかったよ」
前も、こうやってモンスたちがお勧めを選び始めてしまった時は、ドリモが無難なのを選んでくれたのだ。
今回もドリモは、青灰色の地味目な作務衣を選んでくれていた。
文句なしにこれに決定だ。
ただ、却下するにしても「お前らの選んだ奴はちょっとダサいから」なんて言ったら絶対に拗ねるからな。ちょっと気を遣わんと。
「さて。皆がそれぞれおすすめを選んでくれたわけだが……選ばれるのは――」
「キュ」
「ヒム」
「フム」
「フマ」
「クマ」
そ、そんな、自分のが選ばれるかもしれないって期待するような純粋な目で見られると、罪悪感が凄いんだけど。もう決まってるんだよ。君らのが選ばれることはないんだ。
「え、選ばれるのは……」
「キュー」「ヒムー」「フムー」「フマー」「クマー」
「……ぜ、全部です!」
発表できるかーい! 俺にはそんな酷なことは無理だ!
リックたちが飛び上がりながら、全身で喜びを表現してくれる。ハイタッチまでしてくれるのを見ると、選んでよかったと思えた。
「ド、ドリモの気遣いを無駄にしてすまんな?」
「モグモ……」
ドリモが「ヤレヤレだぜ」って言いたげな感じで、肩をすくめながら首を振っている。
「し、仕方ないじゃんか」
「モグ」
すれ違いざまに俺の腰をパンパンって叩いてくれるドリモさん、まじカッケー! 毎回毎回ハードボイルド! 俺を惚れさせて何をさせるつもりなの!
「モグ……」
「そ、そんな呆れた目で見るなって。落ち着いたから」
とりあえず、甚平と作務衣は全部買ってこよう。どうせ着るのはホームでだけだし、多少デザインが個性的でも問題ないさ。
「よし、次はプレイヤーズショップのある区画に行くか!」