476話 静電気山攻略
静電気山は、想像以上に難所の連続だった。
やはり、第8エリアともなると一筋縄ではいかない。後半に行くにつれてフィールドは険しくなり、出現する敵も強くなっていく。
第7エリアはもっとスイスイと進めていたんだけどね。1つエリアが変わるだけで全然難易度が違っていた。
そう、俺はイベント後の4日間、リリスのレベル上げも兼ねて新エリアを開拓しまくっていた。そりゃあもう、自分でも驚く進みっぷりである。
イベントでモンスたちのレベルが上がっていたし、思った以上にフィールド突破が進んでいた。
今は、東西南北にある第7エリアの町まで到達できているのだ。
東の第7エリアにあるのは、鉱山の町。ドワーフがたくさん住んでいる、谷間に築かれた石と鉄の町である。
周辺の岩山には、ガーゴイルなどが出現するが、鉱石をゲットするには最適の環境と言えるだろう。
この先の第8エリアは2つに分かれており、片方が火炎樹の山。全身から炎を噴き上げる不思議な木が生える山である。火炎系のモンスターが大量に出現するらしい。
もう片方が、俺たちが今いる静電気山。磁力や電撃による罠が多く、金属製の武器だと苦労するそうだ。静電気を防ぐ薬もあるが、それを全員に使っているとかなりお高くなってしまう。
それゆえ、軽装の戦士などが重宝されているフィールドだった。
西にある第7エリアの町は、オアシスの町。周辺は砂漠である。
その先は、岩石が行く手を塞ぐ岩石砂漠と、蟻地獄のような罠が大量に存在する流砂の回廊に分かれている。
流砂の回廊は、タゴサックに教えてもらった海苔の採取できるフィールドだ。その内行ってみたい。
北は森林の町。その名の通り、森林に埋もれるように存在する、エルフの町だ。高品質な弓などが売っていることで有名である。
第8エリアは、アンデッドの徘徊する闇の森と、擬態植物に注意が必要な捕食の森であるらしい。ここは、正直どっちも行きたくないね。
南は水路の町。まるでベネチアのような、ゴンドラで町中を行き来する水上都市である。最も新しく解放されたことで、観光と探索に訪れるプレイヤーの数が多いらしい。
先は、泥炭地帯と巨大川というフィールドに分かれているそうだ。
ここまでくると、どこも攻略が大変そうだな。俺たちがいる静電気山も、事前の予想よりも数段厳しかった。
それでも、少しずつ山を進み続け、もう直ぐでボスエリアというところまでやってくる。
一番ヤバかったのは、ロッククライミング中に鳥型のモンスターに襲われた時だろう。フィールドギミックの閃光のせいで敵が見えず、危うく落下しそうになったのだ。
いやー、マジで大変だった。
「もうちょっとで頂上だ! みんな、頑張るぞ!」
「クマー!」
「待ってろよボス! 攻略情報がある限り、俺たちは負けない!」
「クーマー!」
なんて言いながら、意気揚々と頂上へと足を踏み入れたんだが――。
「ゴッゴゴゴゴォォォォォォ!」
「ギャー!」
「ムー!」
学習しないよね! 俺って!
想定以上のボスの強さに、作戦は完全に破綻していた。誰だ! 攻略情報があれば負けないとか言ったやつ!
静電気を帯びたボスの攻撃が、微妙にオルトのクワに影響を与えるらしい。そのせいで、いつもほどの活躍ができないのだ。
それに、聞いていた遠距離攻撃の投石が、想像よりも速かった。事前に速いとは聞いていたけど、慣れれば避けられるとも言われたんだけどね。
「俺には無理だったー!」
3発に1発は、ダメージを受けてしまうのである。なんだあの、超高速で迫ってくる岩は! もっと、動きの鈍い俺みたいなやつのことも考えて、攻略法を練ってくれなきゃ!
「クママ! 頼むー!」
「クマー!」
それでも何とか全滅せずにいるのは、やはりクママのおかげであった。ポイズンゴーレムがまき散らす毒は効かず、攻撃もガッシリと受け止めてくれる。ノーダメージとはいかないが、これも想定の内だ。
食溜めスキルの効果によって、クママのHPがあっという間に回復していく。
「よーし! その調子だ!」
「クックマ!」
巨大な岩石のゴーレムに対し、小柄に見えるクママが奮戦を続ける。スキルの相性があるとはいえ、素晴らしい動きだ。
時にはゴーレムの攻撃をヒラリと躱しつつ、その爪でボスのHPを削っていく。
「ゴゴ!」
「クマ!」
その間に、俺たちの遠距離攻撃がゴーレムを削っていった。戦っている内に分かったが、食溜めスキルは体力回復以外にもう1つ効果があるらしい。
それが、敵のヘイトを集める効果だ。自身を回復することで、ヒーラー並みのヘイトを獲得するらしい。
壁役にとっては、非常に有用だろう。後衛の場合は死ぬけど。
「ゴッゴッゴー!」
「げっ! もうか!」
ボスが両腕を天に向かって突き出し、咆哮を上げる。これは、ポイズンゴーレムの特殊行動だ。
一定ダメージを食らうか、自身の攻撃を受け止められた回数によって発動するらしい。
毒と麻痺を伴う電撃を、フィールド全体に放つという非常に厭らしい攻撃である。
俺の予想ではもう少し後のはずだったんだが、クママが頑張り過ぎたらしい。
「キャンセルが間に合わん!」
「ヤー!」
「デビー!」
本来は、ファウとリリスに爆撃を行ってもらい、特殊行動をキャンセルさせる計画だったんだがな……。
パーティ全員が、一気にダメージを食らってしまったが、死に戻りはいない。召喚の宝珠でメンバーを入れ替えつつ、俺たちはゴーレムと我慢強く戦った。
そして、戦闘開始から25分後。
「クックマー!」
「ゴゴ……ゴォ……!」
「やった! 俺たちの勝利だ!」
クママの放った一撃が止めとなり、俺たちは勝利をもぎ取っていた。やっぱり、第8エリアのボスともなるとメチャクチャ強かったな。
「でも、これだけ強かったんだ……報酬も良いに違いない」
ドロップを確認してみる。すると、狙っていた鉱石類が大量にゲットできていた。いやー、苦戦しながら頑張ったかいがあったぜ。
「クママ、今回のMVPはお前だ! よくやってくれた!」
「クマー!」
俺が頭を撫でると、他のモンスたちがクママを囲んでパチパチと拍手をする。皆も同意見ということなんだろう。
「クマクマ」
「あとでご褒美を――」
「キキュー!」
「フマー!」
MVPであることは認めても、ご褒美独り占めは許さんってことかな? リックとアイネが俺の頭にしがみ付いて、アピールし始めた。
「分かった分かった! みんなにもちゃんとご褒美あるから! 悪い子にはご褒美やらんぞ!」
「キュ?」
「フマ?」
こいつら……。急にあざといポーズしやがって。スクショしなくちゃいけないじゃないか!
「ったく」
「キュ?」
「フマ?」
「ヒム?」
「フム?」
ヒムカにルフレまで! 可愛いけどさ!
「ああ、ドリモ。可愛いポーズせんでもご褒美はやるからな」
「モグー」
そんな胸を撫で下ろさんでも……。
出遅れテイマーの書籍第6巻が本日発売です!
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ゲームで24時間過ごしても、現実では6時間しか過ぎていません。
ゲーム内では相当時間が経過したように思えますが、現実ではまだ10日も経過していないので、まだまだユートのお休みは残っています。
ご安心ください。