473話 白銀邸で祝勝会
「カンパーイ!」
「あはははは! タヌキちゃん超かわいいー!」
「水精ちゃんが注いでくれた水……! インベントリに永久保存だー!」
なぜこうなった……。さっきも同じこと思った気がするけど……。
プレデターボスであるジャイアント・シルバー・クラブを倒した後、なぜか俺のホームに移動する流れになってしまったのだ。
俺が不用意に「祝勝会」と口にしてしまったせいだろうか?
テンションが上がりまくった他のプレイヤーたちが、「まじっすか?」「祝勝会だって!」「白銀さんのホームで祝勝会だー!」みたいな感じで盛り上がってしまったのだ。
超強敵戦でほぼ寄生させてもらった手前、断り切れなかった。
それに、新しいホームを自慢したいという気持ちもちょっとあったのである。
その結果が、目の前の惨状だった。いや、俺に被害が出ているわけじゃないし、みんな楽しそうだからいいんだけどさ。
うちの子にお酌されている女性プレイヤーたちのだらしない顔とか、ハメ外し過ぎの男性プレイヤーとか、今も生配信されているはずなんだが……。大丈夫なんだろうか?
「ユート君。騒がしくなっちゃってごめんなさい。料理まで用意してもらっちゃって……。生配信まで許可してくれてよかったの?」
「生配信は元々の約束でしたし、後で食材とか代金を貰えるって話でしたから、構いませんよ。蟹料理美味いし」
プレデターのドロップは、蟹肉や蟹ミソといった、食材が多かった。俺はみんなの食材を受け取り、料理して振る舞ったのだ。
蟹雑炊と蟹鍋を作ったのだが、メッチャ美味しかったね。料理スキルのレベルも上がったし、自分の食材は消費せずに食べられたし、いいことばかりだった。
「そう言ってもらえるとありがたいわ」
それに、蟹以外の新食材も色々差し入れしてもらっちゃったのだ。
タゴサックからはイチゴ。つがるんからはリンゴだ。実はイベント終了後に、各地のNPCショップで新しい食材やアイテムが売り出されたのである。アップデートで追加されたのだろう。
つがるんなんて、フレンド全員に喜びのメールを出していたな。俺も始まりの町でリンゴを買い込んで、ジュースとかジャムを作ってみたのだ。
ただ、まだNPC売りの果実として登場しただけなので、苗木化はできないんだよね。つがるんもそこは残念がっていた。
「俺なんかよりもアリッサさんの方が大変でしょ?」
場所と食事を提供しただけであとは基本放置の俺と違って、苦労しているのはアリッサさんだろう。場所代やら補填やら、喧嘩の仲裁やらに走り回っていた。
今も疲れ切った顔である。
「疲労の原因はそれだけじゃないけどね……」
確かに、悪魔召喚直後くらいにはもうこんな顔だったかもしれない。イベントの疲れも残っているんだろう。
「あと、ハナミアラシの怒りの代金も、ちゃんと支払うから」
「あー、あれは俺も勢いで使っちゃっただけなんで」
宴会で盛り上がって、一発芸的にハナミアラシの怒りを使用してしまったのだ。他の人の一発芸が凄かったからさ~。ついね。
登場したハナミアラシに、プレイヤーたちは大盛り上がりだった。
蟹のバフが残っていたし、参加者も強い人ばかり。楽勝かと思っていたが、結構苦戦してしまった。
ハナミアラシは、参加者のレベルなどで強さが変動するタイプのボスであったらしい。まあ、勝ったけどね。
「ハナミアラシのドロップはどうだった?」
「目新しい物はなかったですね。ただ……」
「ただ?」
「これ見てもらえます?」
「巨大銀蟹の鋏刃、巨大銀蟹の泡袋、巨大銀蟹のミソ、巨大銀蟹の肉×10。それと――泡沫の紋章?」
「なんですかね、これ」
アリッサさんに見せたのは、プレデター戦の戦利品だ。その中に、泡沫の紋章という見たことのないアイテムが入っていた。
悪魔戦では空振りに終わったレアドロップチケットを使用したことで手に入ったのだと思う。
「え? 紋章出たの?」
「はい」
「凄いよ!」
この紋章というアイテムは、強力なモンスターが極まれに落とす超貴重品であるという。
今のところ3種類だけしか見つかっていないうえ、第10エリアのフィールドレイドボスが極まれに落とすだけであるそうだ。
「レアドロップチケットを使ったからなぁ。あのボスに使っておいてよかった」
そう思ったんだが、レアドロップチケットを使ったとしても確実ではないらしい。ボスの中にはレアドロップ枠が数種類あるタイプもおり、チケットはその中のどれかが確実に1つ落ちるという効果なのだ。
「じゃあ、俺は運が良かったんですね」
「うん。さすがユート君。凄いね」
「それで、こいつってどんな効果が?」
「それ、凄いんだよ」
「それはさっきも聞きました」
アリッサさんの語彙力が死ぬほどに凄いことはよく分かった。
「あはは。まあ、何にでも使えるね」
「なんにでも?」
「うん」
それはさすがに言い過ぎじゃないかと思ったら、説明を聞くとマジでなんにでも使えるようだった。
まず、素材として万能だ。鍛冶や調合だけではなく、料理や木工などのほぼ全ての生産行為で中間素材として使用でき、様々な効果をアイテムに与えてくれる。
釣りの餌や、畑の肥料、絵を描く際の絵の具に混ぜ込んだりも可能であるらしい。
まあ、実際にやったわけではなく、可能かどうか選択してみただけらしいので、明確な効果は分かっていないそうだが。
「テイマー関係だと?」
「うちのカルロに検証させたけど、モンスに使用するとスキル習得。孵卵器の作成時に使うと性能上昇。今のところはそれくらいしか分かっていないわね」
「なるほど……」
強化アイテムの類だと思っておけばいいか? ただ、メチャクチャ貴重品であるらしい。
「もし売る気があるならぜひうちに! たかーく買うからね!」
「ど、どれくらいですか?」
「今なら、200万は出すわ!」
「は? 200万? まじっすか?」
「マジよ」
「マジか……!」
ど、どうしよう。売って……いやいや! 貴重品なんだ、確保しておくべきか? でも、200万は……。
「ユート君なら面白い使い方見つけてくれるかもしれないし、分かったら情報だけでも売りに来てよ」
「わ、分かりました」
うん。とりあえずはとっておこう。
「ああ、あと、情報料は後で相談ってことでいいかしら?」
「情報料?」
今回は人を集めてもらうことが報酬代わりだったはずだけど……。
「新しい情報があるでしょ。色々と! 悪魔ちゃんの情報とか! 紋章の情報も!」
「ああ、そうでしたね。今日はもう直ぐログアウトしなきゃいけないですし、後日で構いませんよ」
「それならそうさせてもらうわ」
「サブマス! 向こうで喧嘩だ」
「もう、また? 原因は何?」
「ウンディーネ派とシルフ派がどっちがいいかで……」
「聖地にきてテンション上がるのは分かるけどさぁ……。じゃあ、私は行くわね」
「え、ええ。頑張ってください」
「じゃーねー」
さらにお疲れな様子のアリッサさんが喧嘩の仲裁をするために去っていくと、今度はうちの子たちが駆け寄ってきた。もしかして、大事な話が終わるのを待っていてくれたのかな?
「デビー!」
「ムムー!」
「みんな一緒か」
リリスを中心に、モンスが全員揃っている。ホームを案内していたようだ。
「仲良くなったみたいで良かった」
「デビ!」
「トリー!」
「――!」
リリスは樹木殺しなんていう物騒なスキルを持っているが、オレアやサクラと仲が悪いということはないらしい。
仲良く手を繋いでいる。よかった。
「これからよろしくな、リリス」
「デビ!」