468話 樹呪術の効果
イベントポイントの交換終了後。
飾ったアンモライトや琥珀を眺めながら一息つきたいところなんだが、俺たちにはまだ仕事が残っていた。
「畑に行くか」
「ヒム!」
「ペペン!」
疲れていても、畑の世話を疎かにはできん。それに、オルトたちは一足先に畑に戻って、仕事をしてくれているのだ。
俺だけさぼる訳にはいかなかった。
「畑仕事をパッと終わらせて、皆でホーム改装パーティでも開こうか?」
「ヒムム!」
「ペーン!」
ヒムカとペルカは大賛成とばかりに、両手を上げて飛び跳ねる。
「よーし! それじゃあ畑に急ぐぞー!」
「ヒームー!」
「ペペーン!」
そう勢い込んで畑にやってきたんだが、うちの子たちの優秀さを侮っていたぜ。まあ、ホームの改装に、思ったよりも時間をかけてしまった俺の責任でもあるんだが。
「もうほぼ終わってるな」
「ムー!」
「――♪」
最後の畑を世話している最中のオルトたちが、こちらに気付いて手を振ってくる。手伝うまでもなさそうだ。
「どうするか……」
「キキュー!」
「お、リックはもう仕事終わったのか?」
「キュ!」
「あ、そうだ!」
リックを見て思い出した!
試さなきゃいけないことがあったじゃないか! リックの樹呪術だ!
樹呪術:樹木に関することに特化した呪術。
正直、木実弾が強化された以外に、効果が実感できていない。だが、他にも使い道があるはずなのだ。
「リック。樹呪術を畑に使ってみたいんだけど、できるか?」
「キュー!」
リックが元気良く挙手する。本当に畑に使用することが可能であるらしい。
「じゃあ、とりあえずこの畑で試してみようか」
「キュ」
どんな効果があるか分からないし、失敗しても被害の少ない畑で試したい。そこで選んだのが、ハーブ類を育てる雑草畑だ。
一応、端っこの方では薬草や微炎草も育てているので、普通の植物への効果も確認できる。
そして、全滅したとしても明日には元通りなのだ。
「それで、どんなことができるんだ?」
「キュー」
俺の質問に対し、リックがドヤ顔で指を4本立てる。
「4種類あるって事?」
「キュ!」
4種類とは、意外に色々とできるんだな。
「キューキュキュキュー!」
「お? なんか出たな」
リックの前に、魔法陣のようなものが浮かび上がった。大きい五芒星の中に、小さい五芒星が描かれている。二重五芒星とでも言えばいいのだろうか? いかにも呪術っぽい感じだ。
同時にステータスウィンドウが立ち上がり、そこには『生育の呪』と表示されている。
効果としては、畑一面の全ての植物の成長速度上昇と、変異率の上昇が期待できるそうだ。
全ての植物ってことは、雑草なども生えやすくなりそうだが、しっかりと世話をしていれば問題ないだろう。
「えーっと、呪術に捧げるアイテムを決定してください?」
どうやら、呪術には供物が必要になるらしい。インベントリを開くと、ほとんどのアイテムが灰色表示で選べない中、幾つかが選択可能になっていた。
薬草や果物なんかの作物類に、肥料などの土類。後は水類に、植物系モンスターの素材が選べる。
「ま、お試しだしな、色々やってみよう」
とりあえず品質の低い薬草を1つ選択してみた。すると、ウィンドウには効果レベル1と表示される。つまり、最低レベルの効果しか発揮されないって訳か?
追加でアイテムを選択できるようなので、様々な供物を選んでみた。
選択できるアイテムは最大で10個まで。2つの五芒星の頂点に1つずつってことだろう。
効果レベルの上限は不明。効果レベルの上昇は、レア度や品質の高さで変わるらしい。
俺の持ってる中でもトップクラスの素材を10種類選んでみると、効果レベルは4となったので、10が最高じゃないかと睨んでいる。
「ま、今回は様子見で、最低限でやってみるとしよう。薬草1つで発動だ」
「キュー!」
まるで、大魔術を発動する魔法使いのように、両手を掲げて叫ぶリック。
直後、目の前の畑全体が緑色に光り輝き、ド派手に光の柱を噴き上げた。
「呪術のエフェクト派手だわー」
「キュー」
「畑は……よく分からんね」
鑑定してみても、何も変化はない。どうやら、即座に効果が出るものではないようだ。まあ、肥料などと同じようなイメージなんだろう。
「さて、お次の呪術を頼む」
「キュ!」
リックのMPは10ほどしか減っていない。効果Lvなどでも変化するっぽいね。
「次は『安定の呪』?」
こっちは中々面白い効果だ。作物の品質の振れ幅を狭め、変異率を下げる効果があるらしい。今ある畑で、安定して同じ品質の作物を収穫できるようにする効果であるようだ。
突発的に良い作物を得られるメリットを捨てる代わりに、品質低下や育成失敗のデメリットを最小限にできるって感じだろう。
うちの畑の場合はあまり関係ないかな? 多分、畑に手間をかけていられないプレイヤー向けの呪術なのだろう。
「使ってはみるけど。リック、頼む」
「キュ!」
エフェクトは生育と全く同じだった、目新しいところはない。そして、見た目の変化もなかった。
ただ、生育も安定も、畑を鑑定すれば効果を確認できるので、どこに何の呪術を使ったのか分からなくなることはないだろう。
両方の呪術をかけておけば、高品質の作物が安定して作れるかもしれない。
「で、お次は?」
「キュ」
「なんだこれ? 『緑肥』?」
この呪術に関しては、発動に供物が必要なかった。範囲内の植物全てが消滅する代わりに、その場所の土をランクアップさせる効果であるらしい。
生育を、その場所の植物を使うことで発動させるような感じだろう。雑草生え放題の荒れ地なんかには使えるのだろうが、これもうちではあまり使わんかな?
「ま、これもとりあえず発動してみよう。リック、頼む」
「キュー!」
「おー、綺麗になったな」
植えていたハーブや薬草だけではなく、周囲の雑草なども全てが消えていた。畑を綺麗にすると同時に、肥料をまいたような状態に変える訳か。
畑を手っ取り早くリセットしたい時には使えそうだ。
「よしよし。じゃあ、次は4つ目の効果の確認だな」
「キュ!」
「え? リック? どこ行くんだ!」
「キュー!」
何故かリックが駆けて行ってしまった。もしかして、この畑じゃ使えないのか?
俺は慌ててその後を追うのであった。
「ちょ、待てよ!」
「キュー!」