460話 運営とホランドとヒューイ
運営の場合
「ふううぅ。なんとか上手く収まったか?」
「そうですねぇ。それなりの激闘で、第二陣のプレイヤーも参加できてましたし。調整は成功なんじゃないですかね?」
「よかった。急遽悪魔を追加したから、どうなるか不安だったが……」
「本来は、恐竜のアンデッドと黒スケルトンだけの予定でしたもんね。それだけだったら、マジで瞬殺だったかもしれないです」
「新状態異常のお披露目も早くなっちまったが、そっちも問題はなかったか?」
「はい。動作不良などはなかったようです。NPCとの交流度によって異常確率が減少するように調整しましたが、そっちも上手く作動してました」
「あとは、スケルトン船長の周囲にいるプレイヤーにも異常無効が付与されるようにしてたはずだが……。ああ、そっちも問題なかったみたいだな」
「はい」
「演出関連はどうだ? 悪魔の追加に合わせて、スケルトンの出現演出や細かい挙動もかなり変えたが」
「そっちも大筋は問題はなかったっぽいっす。悪魔の情報を喋るNPCが急に無表情になったり、悪魔のヘイト上昇が多少回復役に偏ったり、調整が行き届かなかった部分は少しありましたが……。大きな問題には繋がらなかったんで、結果オーライってことで」
「結局、白銀さんがいいとこ持ってったがな」
「今回は仕方ないですよ。アンモライトの数もとんでもなかったですし」
「今回も色々と引っ掻き回されたというか、こっちの見通しが甘かったことを思い知らされた。次のイベントは、こんな行き当たりばったりの調整が入らないようにしたいもんだな」
「……今回ほどのバタバタはともかく、完全にこちらの思惑通りというのは……? 無理じゃないですかね?」
「なんでだ?」
「だって、白銀さんがいるんですよ?」
「そこはほれ、事前に対策を立てておくとか、プレイヤーの行動でボスの強さとかに変動がない仕様にしておくとか、色々あるだろ?」
「……それでも、上手くいく未来が想像できないんですよね」
「……やっぱそう思う?」
「白銀さんですから」
「いや! 何かやり方があるはずだ! 諦めんなって!」
「まあ、それはおいおい考えるとして、とりあえずやらなきゃいけないことがありますよね?」
「はぁぁ……。ビフロンスは今回使っちまったから、次のイベント用の悪魔。新しく作らないとな……」
「頑張ってください」
「お前もやるんだよ! あー! 飲まなきゃやってられん!」
「ただ飲みたいだけじゃないですか。それに、いいこともあったでしょう? 蘇生薬のお披露目のタイミングとしては、最高だったんじゃないですか?」
「確かに、完璧なCMだったな。これで、存在が一気に広まってくれた。レシピが広まるのも時間の問題だろう」
「このままだと、即死が強すぎるってプレイヤーから文句が出てたかもしれませんしね……。本当にいいタイミングで使ってくれました。白銀さんグッジョブ!」
「発見者がしばらく秘匿すると思ってたら、あのお披露目だ。公式動画でも取り上げれば、周知は完璧になるはず」
「蘇生薬の周知とお披露目用に考えてた幾つかのサブイベとキャンペーン、やらなくてよくなったんじゃないですか? もう、十分広まってますから。主任、また徹夜だーって泣いてたじゃないですか」
「泣いとらんわ! ただまあ、確かに。いや、待てよ? ということは……久々に家に帰れる?」
「今気づいたんですか?」
「しばらく帰れてなかったから、帰宅という言葉が頭から抜け落ちていたんだよ!」
「そっすか。でも、良かったじゃないですか」
「おう! ありがとう白銀さん! ひゃっはー!」
「まあ、帰れない理由の筆頭が、その白銀さんなんですけど……」
ホランドとヒューイの場合
「負けたな……」
「負けたというか、眼中に入ってない感じだったね」
「正直周りに流されて必殺技使おうとしてたけどさ……」
「あれ、君がトドメを刺してたら、トップ陣以外からの非難が凄かったと思うよ?」
「白銀さんのリスに助けられたか」
「蘇生薬の件も併せて、頭が上がらないよ。たぶん、あれがなかったら、君は上位20%危うかったかもよ?」
「だよな……。なあ、俺を蘇生した理由。本当だと思うか?」
「いくらなんでも、必殺技を見たかったからっていうのは……。貴重な蘇生薬をそんな理由で使うわけないと思う」
「俺も同意見だ」
「僕、思わず白銀さんに聞いちゃったんだ。蘇生薬をどこで手にいれたのかって」
「ほう?」
「そうしたら、偶然手に入れただけで、よく分からないって。嘘ついているようには見えなかったな」
「……それが本当だとしたら、超貴重品じゃないか」
「うん。もう一度手に入るかどうかわからないし。そうまでして、君を蘇生した理由……」
「花を持たせようとしてくれた?」
「かもね。トップ陣だなんて言われても、今回のイベントじゃ僕ら全くいいところなかったし」
「それを憐れんで……か?」
「うん。直接話した感じ、普通にいい人っぽかったし」
「……負けたな」
「負けたね。というか、最初から勝負になってなかったってことかな? 今回のイベントで確信したけど、運営も白銀さんみたいなプレイをお望みってことだろうね」
「いや、あれは無理じゃないか?」
「言い方が悪かった。僕らみたいな、戦闘しかしないようなプレイスタイルじゃなくて、色々とサブイベントを探すような遊び方ってことね」
「そういうことか。まあ、町を1つずつ回って、NPCに話を聞きまくるようなプレイの方が正解なんだろうな……」
「他のゲームだと当たり前の、前線に張り付いてひたすら効率よくレベリングし続けるみたいなプレイは、今後通用しなくなるかもね」
「だが、今さら白銀さんみたいなプレイはできないぞ? したくもないし」
「分かってるよ。それに、僕は今みたいなプレイが好きなんだ。ボスを一番に攻略して、誰よりも早く、誰よりも先へ。誰も行ってない場所に、自分たちが一番に足を踏み入れる」
「俺だってそうだ。モンスターと戦って、レベルが上がるのを見るのが好きだ。NPCと会話する暇があるんなら、レベリングがしたい。そういう意味じゃ、恐竜は良かった。もっと戦ってたかったんだがなぁ」
「だからさ、このプレイスタイルで本当のトップになってやろうじゃないか。目指せ、次のイベントでの一番だ」
「おう。でも、他のクランの奴らなんかは、プレイスタイルを変えるって言ったやつもいるし、前線のプレイヤーが少し減っちまうかもな」
「別にいいんじゃない? それもまた、自由さ。白銀さんの真似をするって言ってた奴らは、ただ単にチヤホヤされたい奴らが多かったし、上手くいくとは思えないけどさ」
「まあ、とりあえずは――」
「とりあえずは?」
「白銀さんにお礼しに行く。レイドボス戦終わりはほとんど話せなかったからな」
「……」
「どうした? 怖い顔して」
「見守り隊っていうのがいるから、気を付けて。超怖いから。そりゃ、マナー違反をした僕が悪いんだけどさ……」
「あ、ああ、気を付けるよ」
「本当に気をつけて!」
「お、おう」
8月後半に夏休みをいただくつもりです。よろしくお願いいたします。




