459話 ホランドとヒューイ
『大悪魔ビフロンスの撃破に成功しました。おめでとうございます』
ようやく終わったか。色々と目まぐるしいボス戦だった。まあ、レイドボス戦は毎回こんな感じだけどさ。
『ユートさんは、大悪魔ビフロンスとの戦闘にて貢献度が上位20%以内に入っていたので、特別報酬が付与されます』
「やった!」
まあ、アンモライトを使いまくったし、さすがに上位20%には入っているよね。
多分、リックのラストアタックはあまり関係ないだろう。このゲーム、プレイヤー同士がいがみ合うような要素がかなり排除されている。精々が、今回のような貢献度が上位のプレイヤーに、特別な報酬が貰えたりするくらいだ。
ラストアタック報酬なんか設定したら、それ目当てにギスギスするだろうし、それだけ狙って手を抜く奴も出るだろう。
最悪なのは、皆がラスト用に奥の手を残したがって途中で大苦戦。ラストにみんなで大技ブッパでオーバーキル。そして、プレイヤー同士で連携する者もいなくなるって展開だ。
運営もそれを嫌がっているらしく、ファーストアタックやラストアタックについて言及したことは一度もなかった。俺が知る限りは、だが。
それでも、プレイヤー間ではチヤホヤされるので、狙っているプレイヤーは多いらしいけどね。
「レベルもアップしてるな」
レベルアップの通知が連続で鳴っているのだ。俺だけではなく、モンスたちもレベルアップしたらしい。
「さてさて、どんな――」
「あの、白銀さん?」
「うん?」
リザルトの確認をしようとしていたら、後ろから声を掛けられた。
「ああ、ホランドさん」
「どうも」
振り返ると、そこにはホランドが立っていた。相手がトッププレイヤーであるとかそういうこと関係なく、何故か敬語になってしまう。
多分だけど、社会人だと思うんだよね。廃人プレイヤーというなら、俺みたいに有給や夏休みを使っているのかもしれない。
コクテンの時も最初はそうだったが、相手に社会人オーラを感じ取ると、ちょっとだけ敬語スイッチが入ってしまうのだ。
ホランドは、妙に怖い顔をしている。もしかして、怒ってる?
「えっと……すみませんでした?」
思わず謝ってしまった。
どう考えても、リックが悪魔に止めを刺しちゃったこと、怒ってるよね? トップ陣なら、ラストアタックを取りたいだろうし。
でも、あれは仕方なかったんや! まさか、必殺技で倒せないとは思ってもみなかったし! アンモライト残ってたしさー。
「何で謝るんですか?」
「いや、うちのリスがラストアタックいただいちゃったんで……」
「キュ? キュー!」
「これ見よがしに胸を張るんじゃない! 空気読め!」
「キュ?」
「とりあえず頭下げておけ。な?」
「キュー」
俺の頭部に片手を当てて、ガックリと項垂れるポーズをするリック。
「反省のポーズすな! 前もやってただろ! それ好きだな!」
「あー、その、怒ってるわけじゃないんで、謝ってもらわなくても大丈夫です」
「え? そうですか?」
なんだー、それならそうと、早く言ってよね! ドキドキしちゃったじゃないか!
「はい。それよりも、どうしても聞きたいことがありまして。何故、俺を蘇生してくれたんですか?」
「え? ああ、それは必殺技が見たかったからですよ? メチャクチャ格好良さそうだったし」
「……え? それだけですか?」
「そうですけど」
「いやいや! それだけで貴重な――」
《バトルフィールドが解除されます。戦闘開始前の場所へと転移しますので、ご注意ください》
ホランドの言葉を、ワールドアナウンスが遮った。視界が暗転し、ホランドの姿が消える。
あー、話の途中で転移してしまった。そこは、レイドボス戦の前に立っていた、池の畔である。
「あの、白銀さんですよね?」
「はい?」
また声かけられちゃったよ。忙しいな。
「えーっと、どちらさん?」
「僕はヒューイと言います。さっき、蘇生薬を使ってましたよね? あれ、どこで手に入れたんですか? もしかして、白銀さんが作ったんですか?」
凄い勢いで詰め寄られた。メッチャ早口で、矢継ぎ早に質問を繰り出してくる。
「あー」
そう言えば、蘇生薬って貴重なんだった。そもそも、ソーヤ君から貰った蘇生薬の事を思い出すまで、俺も未発見だと思ってたしね。
前線のプレイヤーたちも知らなかったみたいだし、下手したらソーヤ君が初めて作製に成功した可能性さえある。そりゃあ、知りたいと思う人はいるよな。
「俺も偶然手に入れただけで、あれ1つしか持ってないんだよ。入手する方法も知らないし。だから、俺から話せることはないんだ。すまん」
「そ、そうですか……なら――」
「はーい、そこまでー」
「え?」
な、なんだ? 急に凄い数のプレイヤーが近寄ってきたんだけど。もしかして蘇生薬の事を聞き出そうと?
逃げようかどうか迷ったが、彼らの目的は俺ではなかった。数人が俺とヒューイの間を遮るように立つと、他の奴らが彼を囲むように壁を作ったのだ。
「すいません。後はこっちでやっておくんで、白銀さんはどうぞ行ってください」
「貴重な情報をこんな場所で聞き出そうとするとか、マナー違反しちゃいかんですよね!」
ヒューイの友人たちかな? どうも、俺が困っていると思って止めに入ってくれたらしい。まあ、実際少し困ったから、ちょうどいいや。
「じゃあ、俺は行ってもいいですか?」
「どうぞどうぞ。ヒムカきゅんを労ってあげてください」
「お疲れ様でしたー。リックちゃん、バイバイ!」
「サクラたん、またねー」
ここはお言葉に甘えてしまおう。俺は彼らに手を振り返す従魔とともに、池のそばから離脱した。
「あ、ユートさん!」
またですか! 今度は誰だ? そう思ったら、今度は知り合いだった。むしろ、ここで会えてよかった。
「おお、ソーヤ君!」
「大活躍でしたね! さすがです」
「アンモライトだけはたくさんあったからね。でも、アレ使っちゃって、ゴメン。皆の前で使ったせいで、騒ぎになっちゃうかも……」
俺だけではなく、場合によってはソーヤ君の身の周りまで騒がしくなるかもしれないのだ。正直、迂闊だった。
しかし、ソーヤ君は笑っている。
「いいんですよ。そもそも、ちょっと予想してましたし……。独占しておきたいなら、ユートさんに渡したりしてませんから」
「そうか?」
「はい。レシピはもう早耳猫に売る約束をしているんで、すぐに広まると思いますしね。大丈夫です」
それなら、確かに広まるのは早いだろう。迷惑をかけたらマズいと思ってたけど、大丈夫そうだな。良かった良かった。




