456話 攻勢
ビフロンス戦は佳境を迎えていた。
奴のHPは残り2割ほど。真っ赤なオーラを纏い、能力が上昇している。攻撃パターンも変化し、強烈な攻撃を連続で放つようになっていた。
対するプレイヤーたちも、当初よりも大分数を減らしている。
やはり、状態異常が厄介だ。
どんなプレイヤーでもあっさりと死に戻ってしまう即死は言うに及ばず、他の状態異常も非常に恐ろしい。
魔法、スキル、アイテム。全てが使用不可能になる封印状態は、効果時間は短いものの、かかっている間は戦闘力が大幅に下がる。
タイミングが悪いと、回復や防御行動を阻害されてしまい、一気にピンチに陥るプレイヤーもいた。
呪詛状態になると回復量が減るせいで、前衛はジリジリと削られていく。
さらにこの状態異常、回復役が受けた場合は使用する回復魔法やスキルの効果が落ち込む効果まであった。プレイヤーたちにとってはある意味最も嫌な状態異常かもしれない。
また、狂乱の状態異常に侵されると、急に暴れ出して仲間に被害が出てしまう。これが最悪なのは、今まで温存していたスキルや魔法をぶっ放してくるところだ。範囲魔術使いなどが狂乱に陥った場合、被害が甚大だった。
しかも、ビフロンスが赤いオーラを纏った後からは、状態異常の煙を放つ頻度も増えたうえに、状態異常になる確率も上昇していた。
当初は効果がなかった俺たちの周辺でも、チラホラと状態異常になるプレイヤーが出てきている。
また、戦いの間に、プレイヤーたちの陣形も大幅に形を変えていた。
最初の頃はビフロンスをグルリと囲み、散発的に攻撃しているだけだったのだ。だが、今は多くのプレイヤーが一ヶ所に集まり、前衛、後衛の役割をしっかりと熟しながら戦っていた。
俺たちがいた南側と、反対の北側に集まり、ビフロンスを2つの軍で挟み込むように戦っている。
トップクランや前線組は、何故か北に多く集まっているらしい。
南側は、テイマーやソロプレイヤーが目立つそうだ。なんか、気づいたらそんな感じに分かれてしまっていた。
「向こうにも、意地があるでしょうからねぇ」
「何か言ったかエリンギ?」
「こちらは少々打撃力に欠けるので、どう動くか迷っています」
「あー、そうなのか……」
俺なんか、しばらくアンモライト投げしかやってないから、全然戦況とか分からん。エリンギに状況を説明してもらうまで、周りが慌ただしいなーとか思ってました。
ちょうど俺がいるあたりに南側のプレイヤーが集まってきたことで、動かずに済んだおかげである。
まあ、俺が慕われているなんて訳はなく、エリンギが俺と一緒にいるからだろう。指揮官を中心に集まった結果だ。
「どうしたらいいと思います?」
「うーん、そうだなぁ……」
エリンギはいいやつだから、最初の司令官と軍師ごっこをまだ続けてくれているけどね。
「このままビフロンスの注意を引き付けつつ、北側の援護をするのが良いんじゃないのか?」
そもそも決定力に欠けるなら、これ以外に選択肢はないだろう。
しかし、エリンギたちはそれでは不満であるようだ。
「しかし、このままですと美味しいところをトップ層に持っていかれてしまいますよ?」
「それは悔しいニャー」
「なんか、作戦はないのか?」
赤星やオイレンも、エリンギの隣で頷いている。
俺的にはこのままでもいいんだけど……。下手に攻めて死に戻っても嫌だし、誰が倒そうがイベント成功ならそれでいい。
ただ、みんなは違うらしい。自分たちも活躍したいようだ。
その気持ちも分かるし、レイド戦で自分一人で勝手に戦うのはいかんよな。ここはみんなと合わせて動いておこう。
その後も軽く話し合うんだが、いい案は出ない。そうこうしている内に、戦場に大きな動きが起きていた。
「船長さんが……! 白銀さん!」
クリスの悲鳴が響き渡ったのだ。慌てて振り返ると、海賊船長の体から赤い光が放たれていた。
そのまま見守っていると、海賊船長が剣を高々と突き上げる。すると、周囲で一緒に戦ってくれていた海賊スケルトンたちからも、同じような光が放たれた。
この辺は海賊スケルトンが多いので、メチャクチャ眩しい。
何事かと思っていたんだが、どうやらパワーアップイベントであったらしい。
それまでは黒スケルトンよりもやや弱いくらいだった海賊スケルトンたちが、黒スケルトンを押し返し始めたのだ。
腕力も素早さも上昇し、プレイヤーの手助けがなくとも黒スケルトンが数を減らしていく。トリケラやステゴなどの恐竜スケルトンも、今の海賊たちの敵ではなかった。
「これ、チャンスなんじゃないか?」
「確かに!」
「よっしゃぁ! 邪魔な黒スケどもは白スケたちに任せて俺たちは突撃だ!」
「赤く光って倍速状態……。運営、分かっているニャー!」
南側のプレイヤーたちが、一斉に突撃し始めた。黒スケルトンたちのヘイトが完全に海賊スケルトンたちへと移ったらしく、こちらを見向きもしない。
そのお陰で、後衛も前へと出れそうだった。
「俺たちもいくか!」
「クマ!」
「モグ!」
ずっとタンク役でフラストレーションがたまっていたのか、クママとドリモが俄然やる気である。
「キキュー!」
リックはこの機会に、黒スケルトンにちょっかいを出しているな。今は平気だけど、調子に乗ってまたヘイトがこっちに向いたらどうするんだよ。
「カタカタ!」
「ギキュー!」
ああほら! 言わんこっちゃない!
攻撃したらやっぱりこっちに向かってくるらしい。
お前、額の汗を拭って、「ふー危なかった」ってやる前に、助けてくれた海賊さんにお礼言っとけよ?
「キュー?」
「とりあえず、俺の頭の上にでも乗っとけ」
「キュー!」
少々忙しく、次回の更新は8/1とさせてください。