453話 恐竜スケルトン
HPが僅かに減ったところで、悪魔ビフロンスが怒鳴り声をあげ始めた。ボス特有の行動変化だろう。
さて、何が始まるだろうか? 上空で叫ぶビフロンスを見ていると、その全身? まあ頭しかないが、両面髑髏全体から黒い霧が溢れ出すのが見えた。
そのまま霧が千切れるように分離し、4つの塊となって岩山の周囲へと降りてくる。
攻撃するべきかどうか。
迷っている内に、黒い霧の中から巨大な影が姿を現す。
「ギャアアオオォォ!」
異形だ。天を見上げて咆哮するのは、悪魔と同じ漆黒の骨で構成された怪物だった。
今まで戦っていた人の骨ではない。それは、恐竜の骨であった。
しかも、タダの恐竜ではなく、プレイヤーたちを散々苦しめてきた、各所のボス恐竜たちである。
デビルティラノスケルトン、デビルブラキオスケルトン、デビルスピノスケルトン、デビルモサスケルトン。そう表示された4体が、岩山を囲むように現れていた。
「うげ!」
「うわぁ!」
ほとんどのプレイヤーがその強さを想像して呻き声を上げる中、クリスだけは明らかに喜びの声を上げている。
「すごいですねぇ!」
筋金入りの骨好きだな! 俺だってちょっとはカッコイイと思うけど、今は厄介さのほうが勝っているのだ。
「と、ともかく、距離を取って態勢を整えないと!」
「そうですね! みんな、聞いたな! 一度退け!」
「「「おう!」」」
もうみんな慣れたもので、即座にエリンギの指示で動き出したな。海賊船長も一緒に付いてきている。これで守りやすくなるだろう。
俺たちの近くにいるのは、デビルティラノスケルトンである。漆黒の骨格に赤いオーラ。正直、生前よりも強そうだ。
「グルルルル……」
凄まじい威圧感に、プレイヤーは気圧されている。ゲームの中だと分かっていても、これだけ迫力があるとちょっと怖いのだ。
「グラアアアアアァァ!」
「ムムー!」
「フムー!」
だが、モンス達は違っていた。咆哮を上げる骨ティラノに向かって、対抗するように声を上げている。うちの子たちだけではなく、多くのモンスたちがそうだった。
特に、盾役のモンスたちは怯まずに前に出て行っている。「ムムー」と声を上げるノーム軍団。うーむ、頼りになるね。
モンスたちの勇ましい姿に励まされたのだろう。プレイヤーたちも落ち着きを取り戻し、動き出す。
骨ティラノは確かに強かったが、こちらも人数が揃っている。その攻撃も、前衛たちがしっかりと防いでくれるし、後衛から放たれ続ける弾幕も切れ目がない。
予想以上に余裕を持って戦うことができていた。
骨ティラノからの攻撃よりも、悪魔から放たれる光線による被害の方が大きいほどだ。
「グルルルゥゥ……」
あっという間にHPが3割ほど削られた骨ティラノが、それまでと違う動きを見せる。
やや後ろに下がり、喘ぐように天を見上げた。その姿は、怯んで後退っているように見える。
「ダメージを負ったことによるよろけ?」
「怯み状態か!」
周囲のプレイヤーたちがそんなことを話しているのが聞こえた。だが、多分違う。俺はその動きに見覚えがあったのだ。
ティラノが必殺技を放つ前の、溜めの体勢である。対イベントブラキオ戦で、あの巨大恐竜のHPを一気に削った、サマーソルト前歯の準備をしているのだろう。
俺は咄嗟にアンモライトを取り出すと、骨ティラノに向かって投げ付けていた。同時に、他のプレイヤーたちからもアンモライトが飛んで行く。彼らも、あの必殺技の恐ろしさを理解しているのだろう。
複数の閃光が、骨ティラノを包み込んだ。
「グガァァ?」
「おお! やった!」
思った通りだ! 一瞬奴の動きが止まり、必殺技のモーションがキャンセルされた!
「ダメージも結構あるか。どうしよう、ティラノにアンモライトを使っていくべきだと思うか?」
俺はたくさん持っているけど、使いまくってればすぐになくなってしまうだろう。骨ティラノに投げ付けるのは他のプレイヤーさんに任せて、俺は普通に戦う方がいいだろうか?
そう思ってエリンギに聞いてみたんだが――。
「そうですね……。やはり、メインの敵は悪魔です。必殺技などのキャンセルだけを狙い、あとは普通に戦うべきかと」
「そっか。じゃあ、それで行こう。とりあえず準備だけしておいて、ヤバくなったら使うよ」
「皆! 白銀さんから通達! ティラノ相手にアンモライトは温存! 必殺キャンセルは白銀さんがやる!」
「「「了解!」」」
「え?」
いや、そんな重責を担わされても……。他のプレイヤーが使うだろうし、被ったら勿体ないから俺はどうしようか? くらいの軽い感じのつもりだったのに!
なんか、アンモライト係みたいになってしまった! エリンギともっとちゃんと意思の疎通を図っておくべきだったか!
眼鏡軍師エリンギの影響力を考えれば、その提案はこの辺のプレイヤー全員に周知されてしまっただろう。もう「そんなつもりじゃないんだけど……」って言い出しづらい雰囲気だ。
「くっ、仕方ない。いざという時のために、アイネとリックは俺の横で待機していてくれよな?」
「フマ!」
「キキュ!」
アンモライト爆撃機アイネと、超高速移動アンモライト砲台リックがいてくれれば、いざという時に安心だ。
それに、俺だけがアンモライトを使うように調整しておけば、他のプレイヤーたちの分が温存され、この後の悪魔戦で有利になるのは確かである。頑張るとしよう。
「やってやろうじゃないか!」
「おおお! 白銀さんがやる気だニャ!」
「俺もやったるぞ!」
「オイレンは空回りする未来しか見えないから、ステイでいいニャ」
「なんでだよ!」
他のプレイヤーたちもノリノリだ。前のイベントの時もそうだったけど、こういう雰囲気はいいよね。無駄にテンション上がってくるのだ。
「よっし!」
「キキュー!」
「フママー!」
「ち、ちょっと待った! まだ行かなくていいから!」
「キュ?」
「フマ?」
「俺が合図したらいってくれ」
テンションの上がり過ぎも要注意でした。




