451話 眼鏡軍師エリンギ
申し訳ありません。
予約投稿日をミスしておりました。
『ぐごおおおぉぉぉ!』
アンモライトの発した閃光を浴びた悪魔が、大きく悲鳴を上げた。苦悶の表情で――かどうかは骸骨だからわからんが、苦しんでいることは確かだろう。
ただ、その呻き具合とは裏腹に、HPはほとんど減っていなかった。アンモライトが弱点じゃなかったのか?
ただ、残念に思ったのは俺だけだったらしい。
エリンギが軽く目を見開いている。
「さすがボス特攻アイテム。効果は抜群ですね」
「いや、あれでか?」
「レイドボスのHPが、目に見えて減ったんですよ? かなり凄いです」
「あー、そういう見方もあるのか」
考えてみりゃ、相手は凄まじいライフを持ったレイドボスだった。そのHPバーが、1ミリ程度とはいえ明らかに削れている。上級プレイヤーの必殺技並みのダメージはあったということだろう。
つまり、アンモライトをビフロンスにぶつけるだけで、超ダメージが発生しているということだ。
「それだけじゃありません。一瞬、黒いスケルトンの動きが止まりました。悪魔がアンモライトで苦しんでいる間、スケルトンが硬直するようです」
さ、さすが眼鏡軍師エリンギ。冷静に全体を見てるぜ。
「他のプレイヤーたちも使い方に気付いたようですね」
「でも、ぶつけに行くのって結構大変だよな。テイマーとかサモナーなら、俺みたいなこともできるだろうが……」
黒スケルトンの壁に阻まれてしまい、アンモライトを投げつけることが可能な距離に近づけないのだ。
俺たちにアンモライトを渡してもらって、飛行系モンスで空爆をし続けるか?
少し悩んでいると、俺たちの少し前で大きな閃光が生まれた。
「うわっ! 眩しっ!」
俺は咄嗟に目を瞑って難を逃れたが、方々からは悲鳴が聞こえている。
何があった?
「ご、ごめんなさいだニャー!」
赤星が何かやらかしたらしい。
眼を開いて確認すると、閃光の発生場所に近かったプレイヤーやモンスたちが、目を押さえて悲鳴を上げている。アメリアのノームたちなんか、全員同じリアクションだ。
「うおあぁぁ!」
「ムムー!」
「目が! 私の目がぁ!」
まあ、ネタを放り込むくらいの余裕があるなら、大丈夫そうかな?
そう思ったが、よく見たら顔の周囲に闇がかかっている。あれは暗闇状態の証だ。数秒から十数秒、視界が真っ暗になってしまうという状態である。
音やスキルでの探知は可能だが、戦闘はかなり難しかった。このままでは、前衛のモンスたちの多くがピンチだ。
慌てて救援に行こうかと思ったら、何故か黒スケルトンどもの姿がない。
さっきまでは確かに、10体ほどの黒スケルトンがテイマー軍団の前衛と戦っていたはずなんだが……。
「いやー、すまんだニャー。アンモライトをうちの子に運ばせようとしたら、スケルトンに攻撃されてすっぽ抜けてしまったんだニャ」
「つまり、アンモライトが、黒スケルトンにも有効だったということでしょうか?」
「ああ! そういうことか!」
赤星が誤って、黒スケルトンにアンモライトをぶつけてしまったということらしかった。
「これで突破口が開けたな」
「そうですね。でも、アンモライトをかなり使うことになりそうです」
「みんな、あまり数を持ってないのか?」
「私は4つです」
あれ? 意外と少ない?
いや、俺は初日からこの島で色々と掘ってたけど、動画でアンモライトの重要性を知った人たちは数日しか時間がなかったしな。そんなものかもしれない。
因みに、俺は34個持っている。地味に採掘を続けてきたお陰だ。
今まであまり意識したことはなかったが、オルトの持っている幸運スキルや、俺の招福スキルの効果が出たのかもしれない。
「じゃあ、俺がアンモライトでスケルトンを攻撃して減らすから、一気に岩山に近づこう」
「アンモライトがかなり必要になると思いますが……」
「5、6個程度あればいけるだろ?」
黒スケルトンが多いとはいえ、全体に分散しているわけだし。
「5、6個程度……さすがですね」
「え? いや、俺は古代の島で釣りと採掘ばかりやってたから」
とにかく、悪魔に近づいて攻撃を加えないと話にならないのだ。アンモライトは大きいのを観賞用にいくつか残しておけばいいし、30個は使うつもりでいこう。
頭の中で、微妙に模様が違うアンモライトの内どれを残そうか考えていると、珍しく大きなエリンギの声が聞こえた。
「ちょっと待ってください!」
「どう――って、後ろからもきたのかよ!」
振り向くと、周囲の樹海からスケルトンが湧き出してくるところであった。
ただ、色が違う。悪魔の召喚した黒スケルトンではなく、普通の白い骸骨たちだったのだ。
周囲のテイマーたちが慌てて対応しようとするが、俺は攻撃を咄嗟に止める。
「ちょ、ちょっとまった! あいつら、海賊の格好してる! 敵じゃないんじゃないか?」
海賊船長が、悪魔と敵対しているのだ。だったら、海賊スケルトンたちも、悪魔の敵なのでは?
俺と同じように、沈没船イベントを発生させていたプレイヤーたちも、俺の推測に頷いてくれる。
しばらく放置して様子見していると、マーカーを識別できる距離まで近づいた。そのマーカーは黄色。NPCの証だった。
「敵の敵は味方って感じじゃなさそうだけど、放置しておけば勝手に戦ってくれるんじゃないか?」
「かもしれませんね。みんな! 攻撃されるまで、白スケルトンに手を出すな!」
「「「了解!」」」
さすが眼鏡軍師エリンギ。周囲のプレイヤーたちが反発する様子もなく、大人しく従っている。
ていうか、いつの間にかテイマー以外のプレイヤーも増えてきたな。まあ、ソロの場合、テイマーと連携した方が戦いやすいのかもしれない。
それから数分後。
白スケルトンたちは俺たちプレイヤーを素通りし、黒スケルトンに襲い掛かっていった。その直後、スケルトンたちのマーカーが味方に変わる。
「これは有り難いですね。味方扱いならフレンドリーファイアがありませんから、誤爆を気にせずに範囲攻撃を放てます」
「これは、チャンスってことだよな?」
「はい。一気に攻めましょう」
うむ、眼鏡軍師エリンギがそういうなら間違いないのだ。