450話 アンモライトを放て
未だにプレイヤーたちが個別に戦っているせいで、黒スケルトンの軍勢に効果的な対処ができていない。
それでも大きな被害は出ていないのは、黒スケルトンの攻撃力が大したことないからだろう。剣で切られても、大したダメージは入らない。第2陣に合わせているからだと思われた。
ただ、そのせいで危機感が薄くなってしまい、プレイヤーたちが一致団結しようという空気にならないのかもしれなかった。
俺は周囲のテイマーたちと一緒に、防衛戦を続けている。最初はアメリア、オイレンシュピーゲル、赤星ニャー、エリンギだけだったのだが、いつの間にか数が増えていた。
ウルスラなどのソロテイマーたちが、周辺から集まってきたのだ。
前衛が厚くなったのはいいことだが、このままだとじり貧であることは変わりない。どうしようかね?
「なあ、エリンギ。このままだとまずくないか?」
別に、エリンギに尋ねたのは深い理由があってのことではない。なんかいつも冷静そうだし、眼鏡かけてるし、頭が良さそうに見えたというだけだ。
しかし、想像以上にちゃんとした答えが返ってきた。
「今、トップクランの代表たちが話し合いをしている場所に偵察に行っていた者が戻ってきました」
「偵察? いつの間に」
「勝手なことをして済みません」
「え? いやいや、勝手とか別に……」
そもそも、俺がリーダーなわけじゃないし。あ、もしかして最初に号令をかけた時に、エリンギたちからも俺がリーダー認定されたまま?
いや、まさかな。単純に、戦力を減らしてまで偵察を出したってことを、みんなに謝罪してるだけだろう。
「そ、それよりも、話し合いはどうなってたんだ?」
「トップクランが自分たちの利を主張し合っていて、平行線のまま無駄に時間だけが過ぎるような形になってしまっているらしいです。酷い時には怒鳴り合いまであったとか」
「まじか。このゲーム、もっと和気藹々とした雰囲気だと思ってたんだが……」
ガチ勢やトップ層になると、やっぱり手柄とか名声を得るために、シビアな考え方になるのかね?
「今回のイベントは、いいところを全部持っていかれたので……。意固地になっている部分もある――」
「カタカタカタ!」
「うぉぉ? こいつ! 急に現れ……!」
「ムムー!」
「た、助かった……」
どうもイベントが進んだらしい。黒スケルトンがより広範囲で召喚されるようになっていた。
目の前に急に現れたから、マジでビビった。
これ、結構マズいんじゃないか?
「あ。済まんエリンギ。何か言ってたよな?」
「いや、大したことじゃないですから。それよりも、この後はどうします? 自分たちでも積極的に動く方がいいと思いますが」
「うーん……。そうだなぁ。この黒いスケルトンて、無限湧きだと思う?」
上限がないのだとしたら、こうして守っていても不利になっていくだけだ。
多少無理をしても、攻めに転じなくてはならない。
「そうですね……。ここまでで減った様子はないですし、無限に湧いて出るものだと考えた方がいいかもしれません」
「そっか……」
「それに、我々には切り札もありますし」
「切り札?」
「アンモライトですよ。白銀さんが広めたんじゃないですか」
そ、そんな呆れた目で見ないでくれ! ちょっと忘れてただけなんだ!
いや、エリンギの表情は変わってないけどね。被害妄想? でも、その無表情な顔から呆れた雰囲気が醸し出されている気がするのだ。
「しかし、使い方がいまいち分からないんだが、ぶつけりゃいいのかね?」
「その可能性が一番高いでしょう」
アンモライトを取り出してみるが、特段変化はない。イベント限定で特殊なエフェクトがあるとかもないし、アイテムとして使用することができるようになってたりもしない。
「始まってもう10分は経過してると思うけど、まだアンモライトを試した奴はいないのか?」
「高額なアイテムですから、一か八かで使うのに躊躇してるんだと思いますよ。この距離ですと、なかなか届きませんから。効くかどうかも分からないうえに、当たる確率も低いとなると、チャレンジはしづらいですよ」
「なるほど……。でも誰かがやらないといけないしな。よし! リック! アイネ!」
「キュ!」
「フマ!」
俺が呼ぶとリック達が即座に俺の前に整列した。レイドボス戦の緊迫した雰囲気を理解しているのか、その顔は真剣だ。
「君たち2人に任務を言い渡す! このアンモライトを、あの悪魔にぶつけてきてもらいたい。できるか?」
「キキュ!」
「フマッ!」
良い敬礼だ。決死の覚悟を感じる。
「任務は重要だ。しかし、お前たちの安全もまた重要だ。絶対に生きて帰るんだぞ。いいな?」
「キュー!」
「フママ!」
「うむ。いい返事だ」
「……」
なんでだろう。エリンギに今まで以上に生暖かい目で見られている気がする。
「白銀さん」
「なんだ?」
「いや、何でもないです。ゲーム楽しんでますよね」
「ははは。それだけは誰にも負けない自信がある!」
しょうがないじゃないか。あんなノリノリの敬礼されたら、こっちもノリノリになっちゃうんだから。司令官になり切ってしまうのだ。
「でも、真面目な話、これで突破口が開けるといいんだけど」
「そうですね」
俺たちが見守る中、リックとアイネが悪魔に向かって突撃していった。
リックは、素早い動きで黒スケルトンの間をすり抜けていく。自分の頭よりも大きなアンモライトを抱えているというのに、その動きは軽快そのものだ。
時にはスケルトンの攻撃をヒラリと躱し、時にはスケルトンを足場代わりにして、悪魔のいる岩山に迫っていく。
アイネはもっと簡単だ。黒スケルトンの中にはアーチャーが混じってはいるが、アイネの回避力であれば多少の矢は問題にならない。
グングンと悪魔に迫っていった。
「キキュー!」
「フママー!」
数十秒後。岩山の麓に辿り着いたリックが、アンモライトを投擲する。同時に、アイネが悪魔の上空からアンモライトを投下した。
2つのアンモライトは、ほぼ同時に悪魔に着弾する。
そして、悪魔の表面で、凄まじい閃光が炸裂した。




