45話 チェーンクエストの続き
「今日はありがとう! とっても有意義な一日だったわ!」
「こちらこそ色々ありがとうな」
「養蜂箱は出来るだけ早く仕上げるから! 出来たらメールするわね」
「楽しみにしてるよ」
「うん。ばいばーい!」
アシハナには、今日手に入れた緑桃の木材や、以前入手していた灰色リスの毛皮等を渡しておいた。養蜂箱に使えるらしい。
広場でアシハナと別れた俺は、ソーヤ君と連れ立って歩いていた。向かっているのは、栞を手に入れた花屋だ。
「あそこが件の花屋さんですか?」
「ああ、見えるか?」
「はい」
やっぱり植物知識があれば花屋に入れるらしい。ソーヤ君も俺に続いて花屋に入店できた。
「こんにちはスコップさん」
「ユートじゃねーか! らっしゃい。今日は大勢で来たな!」
「へえ、凄いですね!」
ソーヤ君は色々な小物を目を輝かせながら見ている。そして、栞を見つけると駆け寄って手に取っていた。
「ライバの依頼を達成してくれたんだってな? 感謝するぜ」
「いや、大したことじゃありませんから」
スコップさんと話していると、店の奥から誰かがやってくるのが見えた。
「君が甥たちの困りごとを解決してくれたという、異界の冒険者さんかい?」
見た目はスコップたちと似てかなり厳ついんだが、話し方はかなり穏やかな感じだな。
「私はスコップの叔父で、ピスコという。よろしく」
「はぁ、よろしくおねがいします」
「初対面の君にこんなことを頼むのは礼に欠けるとは分かっているんだが、私の依頼を受けてはもらえないだろうか?」
お、新たな依頼の発生だ。でも急に何でだ。今朝挨拶しに来たときは何も起こらなかったのに。
「実は私は材木店を営んでいてね。いつもは自分で材木を切り出してくるんだが……」
そこで言葉を切ったピスコは、右腕を持ち上げて俺に見せた。よく見ると包帯がまかれているな。
「この通り怪我をしてしまってね。仕入れに行けなくて困っているんだよ」
「つまり、木を切って持ってくればいいんですか?」
「そうなんだよ」
どうやら伐採スキルがキーになってたみたいだ。クエストの内容も、伐採スキルがないと達成できないものだし。
納品クエスト
内容:木材・雑木・クヌギを10個納入する
報酬:400G、雑木・木の食器セット
期限:4日間
へえ、食器ね。うちは大所帯だから結構嬉しいぞ。
クヌギ10個は――ないな。8つしか持っていない。でも、西の森に行けばすぐに採取できるだろうし、依頼は受けちゃおう。
「受けます」
「お、受けてくれるか! ありがとう! それで、早速納品するかい?」
「えっと、どういうことです? 俺は8つしか持ってないんですけど」
「いや、君たちはクヌギを10個持ってるじゃないか?」
どういうことかと思ったら、俺とソーヤ君はパーティを組んでいたようだ。多分、チームからアシハナが抜けることで、人数が6人になったことでパーティ扱いになったんだろう。
「じゃあ、僕が2つ提供しますよ」
「いいのか?」
「はい。数は十分確保してますし」
その後俺たちは話し合い、ソーヤ君に200G、俺が200Gと食器を貰う事にした。食器さえもらえたらお金はいらなかったんだけどね。ソーヤ君的には花屋と材木店を紹介してもらっただけでも十分らしい。
「じゃあ、これを」
「ありがたい。確かにクヌギ10個、受け取ったよ!」
よし、食器が手に入ったぞ。パーティ用なんだろう。6人分の皿、コップ、ナイフ、フォークがセットになった、温か味のある木製の食器たちだ。使うのが今から楽しみだね。
だが、俺はこれがチェーンクエストだという事を忘れていた。
「それで、実は君たちに折り入って頼みがあるんだが、だめだろうか?」
なんと、再びピスコからの依頼だった。どうやら次の依頼の発生条件を満たしているらしい。
「君のおかげで仕入れは何とかなったんだけど、依頼が1つ残ってしまっていてね。木工の小物を作る依頼なんだけど、この手だと作れそうもないんだ」
なるほど次は木工スキルがキーか。という事はサクラとソーヤ君のおかげだろうな。
作成納品クエスト
内容:雑木で作った★8以上の食器を2つ納品
報酬:500G、桜の苗木
期限:10日間
報酬は苗木か。しかも桜! 雑木でも構わん。この世界でモンス達とお花見とか、夢があるじゃないか!
だが、この内容は達成可能かどうかわからないんだよな。期限は少し長いけどそれでも★8を達成するのに足りているかどうか……。
「ソーヤ君、どう思う?」
「うーん。かなり難しいと思いますね。ビギニ杉を使った食器なんかは、僕だと★4が限度ですから。雑木の方が加工が楽だったとしても、★8っていうのは……」
「そうか。アシハナはどうかな?」
「そうですね。あの人ならどうにかなるかもしれませんが……」
「じゃあ、聞いてみるか」
フレンドリストを確認すると、まだログイン中だ。おれはフレンドコールをかけてみた。これは、ゲーム内のフレンドと会話できる、電話みたいなものだ。ほどなくして、アシハナがコールに出る。
「ほいほーい。ユートさんさっきぶり! どうしたの?」
「実は今ちょっとした依頼を受けててさ」
「へえ? どんな内容なの?」
「雑木で作った★8以上の食器を2つ納品っていう依頼なんだけど――」
アシハナなら作れるか? という質問をしようとした俺の言葉を遮って、アシハナがこともなげに言った。
「え? それなら今ちょうど作ったよ?」
「うん? ★8の食器を2つだぞ?」
「今作った! とりあえずクヌギの削り感を確かめようと思ってさ。お皿を2枚。効果が無い分、品質が高めに出るみたいだね。いきなり★8が作れちゃって驚いたよー。いる?」
「ええ? そりゃあ、貰えるもんなら欲しいんだが」
「じゃあ、あげるね!」
ということで、あっという間に依頼達成できそうな感じだった。取りに行くと言ったんだが、材木店に興味があるらしく、花屋まで持ってきてくれることとなった。
「あの、依頼受けます」
「ありがたい! ぜひ頼むよ!」
その10分後。
「ありがとう! 助かったよ!」
アシハナが持ってきてくれた皿を手渡し、即行で依頼を達成できていた。
『従魔オルトのレベルが上がりました』
『従魔サクラの――』
おお、従魔全員のレベルが上がった。森での経験値と、クエストクリアの経験値か!
しかも、オルトは新スキルを覚えたぞ。レベルが10に達したからだろうな。収穫増加。これがメチャクチャ嬉しいスキルなのだ。
収穫増加:収穫量が3割増加。一定確率で倍増。
これがあれば、樹木からの収穫が少し増えるだろう。それに、倍増が発動すれば、薬草なんかの収穫量も増えるかもしれない。どの位の確率かは分からないが、そこはオルトの持つ幸運に期待したい。
アシハナには皿の代金がわりに報酬の500Gを渡し、俺は桜の苗木を貰うことにする。ソーヤ君は何もしていないという事で報酬を固辞した。この依頼達成で手に入った経験値だけで十分だと。実際レベルが上がったみたいだしね。
「がははは! 凄いなお前さんたち!」
「いやー気に入ったよ。今度、ぜひ僕の店にも遊びに来てくれ。歓迎するよ」
「そうだ、もし桜の花でも咲いたら、その下で宴でも開こうじゃないか!」
ゲームの中で育てた桜の木の下で、NPCやモンス達と宴会ね。うーん、想像するだけでワクワクする。なんとも楽しそうだ。
「ぜひ!」
俺がそう答えた直後だった。
特殊クエスト
内容:自ら育てた桜の木の下で、スコップ、ライバ、ピスコを招いて花見をする
報酬:ボーナスポイント3点
期限:なし
え? なんかクエストが発生したぞ。今のもチェーンクエストの1つだったのか。しかも受けたことになっている。頷いたからかね? まあ、それ自体は構わないんだが、さすがにこれは今すぐに達成は出来ないな。オルトとサクラに頑張ってもらおう。そして、花見なのだ!
44話にて、アシハナとソーヤが植物知識を取得する際、ユートとパーティを組んでいないという説明を追加しました。
また、アシハナが植物知識を取得する前に、ソーヤが自力で木を切り倒すという描写を追加しました。2人はパーティを組んでいるので、アシハナがスキルを取得するとソーヤにも雑木の伐採ポイントが見えてしまい、植物知識の取得条件を満たせなくなってしまうので。




