446話 プレシオ狩り
イベントプレシオを狩るため、俺とアメリアは古代の島の海岸へとやってきていた。
ここまではアメリアに頼りっぱなしだったからな。ようやく役に立つ時が来たのだ。
「それじゃあ、岸におびき寄せるぞ!」
「了解! いつでも準備万端だよ!」
「ペルカ、ルフレ、頼んだ!」
「フムー!」
「ペペーン!」
その手に骨付き肉を持った水中コンビが、勢いよく海に飛び込んでいった。
これが、フィルマに教えてもらったプレシオ狩りの方法である。
奴は魚には一切反応せず、肉にだけ反応するらしい。しかも、一度こちらをターゲットにすると、しつこく追ってくるそうだ。
その習性を利用することで、プレシオを岸近くまで誘導することが可能だった。作戦が上手くいけば、俺たちは陸にいる状態で戦闘が可能なのだ。
しばらく待っていると、海面に大きな影が浮かび上がるのが見えた。その影の一部が海面から突き出し、瘤っぽく見えている。
その影は海面に波紋を残しながら、浜辺へと猛スピードで近寄ってくるのが分かった。
あと少しで影が海岸へと到達する直前、2つの影が先に砂浜へと上がってくる。
「フムムー!」
「ペッペペーン!」
見事に囮役を成し遂げたルフレとペルカだ。何故か笑顔でこちらに駆け寄ってくる。影との追いかけっこが楽しかったのか?
2人に遅れること10秒。黒い体色の巨大な生物が、浅瀬に姿を現した。水深1.5メートルほどの場所に乗り上げ、長い首をもたげてこちらを睨んでいる。
古代の島発見時に見かけた首長竜で間違いなかった。
クジラやトドのような巨大な体に、蛇のような首と尻尾。皮膚はツルツルに思えるが、よく見ると細かい鱗が並んでいるのが分かった。
「グギャア!」
この水深が、身動きが取れなくなるギリギリなのだろう。それ以上は近づいてくることはなく、首を必死に伸ばしてこちらを攻撃しようとしていた。
とは言え、浜辺にいる俺たちには届かない。
安全圏から遠距離攻撃を放てば楽に倒せそうなものだが、それをするとすぐに逃げてしまうらしかった。
つまり、攻撃するには接近せねばならない。だが、浅瀬とは言え俺たちからすれば十分に深かった。そこでプレシオと戦うのは不利だ。
まあ、そこもしっかり対策を仕入れているけどね!
「上手く誘導できた! 次はこいつだ!」
俺が取り出したのは、リキュー謹製の爆弾である。水属性で、水中で爆発すると大きな波を発生させる効果があった。
「アイネ、頼むぞ!」
「フマ!」
小っちゃい手で可愛い敬礼をしたアイネが、爆弾を抱えて飛び出していく。アイネが高度を上げる間、俺たちはプレシオを引き付けて逃げられないようにする役目だ。
「おらおら! こっちだ首長野郎!」
「ムッムー!」
「フムー!」
「ペーン!」
オルトたちと一緒に、プレシオの首が届くギリギリに陣取り、挑発を繰り返す。
オルトのベロベロバーや、ルフレのアッカンベー、ペルカのお尻ペンペンが通じているかどうかは分からんが、馬鹿にされていることは分かるのだろう。
プレシオは歯を剥き出しにして唸り声を上げている。
「ヤー!」
「グギャー!」
特にプレシオを苛つかせているのはファウだ。目の前を飛び回る小さな妖精に、かなり意識を奪われているようだった。さすが避けタンク。
そうこうしている内に、アイネがプレシオの背後に回り込んでいた。
「フマ!」
アイネが爆弾を起動し、即座に海中へと投げ入れる。直後、爆音とともに5メートルほどの水柱が上がり、大きな波が発生していた。
「グギャッ!」
爆発の余波でダメージを負ったプレシオが、悲鳴とともに波に押し流される。これこそが俺たちの狙いだ。
プレシオの巨体が波に乗り、浜辺へと打ち上げられる。
「グギャァ!」
慌てて海へと戻ろうとするプレシオだったが、ここからはずっと俺たちのターンなのだ!
「アメリア! やるぞ!」
「うん! みんな、いくよー!」
「「「ムー!」」」
地上に上がってしまったプレシオは移動もままならず、水中とは比べ物にならないほどに動きが緩慢であった。
まあ、それでも長い首を振り回す攻撃は、それなりに脅威だったが。
しかし、海に戻ることもできず、タコ殴りにされて果てたのであった。
「勝利! ブイ!」
「結局最後はアメリアに持ってかれたな」
「ごめん。うちのウサぴょんが張りきっちゃって」
「いや、助かったよ」
プレシオの顔面に蹴りを入れてやっつけるウサギさんとか、面白いものが見れたからな。
実際、アメリアのノームたちの防壁がなければ、もっとダメージを食らっていただろう。
「プレシオの皮とかは、いい防具になりそうだねぇ」
「あー、それは俺も思った」
重量が軽いし、水をはじく性質があるっぽい。これはいい素材だろう。ローブに使えそうだ。
「どうする? 要領も分かったし、もう少し狩ってく?」
「いや、爆弾がもうないんだよ」
肝心要の水属性爆弾は1つしか持っていなかった。これではプレシオを浜辺に打ち上げることはできない。
「あー、それならうちのノームたちでどうにかできると思うよ。要は、海に逃がさなければいいんでしょ?」
「そうなんだけど、どうやって?」
「浅瀬まで来たら、水魔術で岸まで寄せて、ノームの土魔術で囲んで逃げられなくすればいけそうじゃない?」
「ああ、なるほど」
多少手間はかかるが、その方法なら爆弾なしでもいけそうだ。
「それじゃあ、もう少しプレシオ素材を集めてみるか」
「うん! プレシオを絶滅させる勢いで狩っちゃうよ! ジェノサイドだっ!」
「ペペーン!」
「ヤヤー!」
ああ、ペルカとファウがアメリアと同じように拳を突き上げ、何故かやる気だ! うちの子たちに悪い言葉を教えるんじゃない!