441話 樹霊リス
「やったなリック! 進化できるようになってるぞ!」
「キュー!」
レベル40に達したリックが、進化可能となっていた。やはりリスは進化が早いな! うちでは2段階目の進化1番乗りだ。
「何を選ぼうかなー」
「キュ?」
リックが俺の肩に乗っかり、ウィンドウを一緒に覗き込む。
アミミンさんのページによると、木目リスの進化先は3つのはずだ。
「レッサーカーバンクル、庭師リス、樹海リス、樹霊リス? あれ? 4つあるぞ」
最初の3つは予想通りである。
レッサーカーバンクルは、リスの正当進化ルートだ。体のサイズは少しだけ大きくなり、毛並みは茶色。そして、額に宝石が出現する。
この宝石の色は進化前の種族によって変わるらしい。木目リスだと、緑色の宝石が生み出され、樹魔術などを使えるようになるのだ。
庭師リスは、育樹などを持った生産もこなすリスである。うちにとって悪くない進化だろう。畑がより充実するのだ。
それに、庭師リスになると、二足歩行でオーバーオールを着込んだ半獣半人タイプに変化するらしい。ドリモの仲間って感じだな。絶対に可愛いに決まっている。
そして、俺の本命である樹海リスは、森林特化型だ。戦闘力が相当上昇し、メインアタッカー並みの攻撃力を発揮することもあるらしい。
体はやや大きくなり、毛色はこげ茶色に変わる。しかも、モフモフ度が相当アップするという。それだけでも選ぶ価値はある。というか、掲示板で絶賛されていたその毛並みを、ぜひ味わいたい!
ただ、4つ目の樹霊リス。これが中々面白い能力をしている。
「精神魔術と樹呪術が新スキルか。にしても、じゅじゅじゅちゅ――ごほん。樹呪術って超言い辛いな!」
精神魔術を掲示板で検索してみると、かなりのレア魔術であるらしい。プレイヤーでも習得できている者は多くないようだ。解放条件が分かっておらず、今も検証中とされていた。
精神魔術の主な術は3種類あり、1つが敵を恐怖や怯懦状態にする精神異常系の術。相手のヘイトをあえて高めたりする術もあるそうだ。
そして、それらとは真逆の、仲間を精神異常状態から守るための術。仲間の精神耐性を上昇させたり、精神異常を回復させることが可能であるらしい。
最後に、言葉が通じない相手とのコミュニケーション用の術。念話や読心系の術が存在しているっぽかった。まあ、これは特定のNPC相手にしか使えないそうだが。
「精神魔術、面白そうだな」
リックは遊撃のポジションだし、使い道は色々とある。それに、状態異常の回復手段が増えるのもありがたい。
「で、もう1つの樹呪術なんだけど、掲示板にも全く情報がないな」
ウィンドウで樹呪術を確認してみるが、詳しい情報は分からない。
樹呪術:樹木に関することに特化した呪術。
一応、呪術というものはある。長ったらしい儀式などを行い、普通の魔術よりも威力の高い術や、長期継続効果のある術を使うためのスキルだ。
フィールドというよりは、ホームや畑で使用し、効果を高めることなどができるという。
「樹木に関する呪術って、何だ? 成長を促進させるとか? まあ、それならそれで使えるけど……」
どうしようかね。でも、情報がないってことは、それだけレアであるということだ。せっかく手に入れられるチャンスなんだから、これを選んでおくべきかな?
「リック、元々は樹海リスにするつもりだったけど、樹霊リスでいいか?」
「キュ!」
文句ないらしい。サムズアップで返してくれた。なら、ここはレア種族で行ってみますか。
「それじゃあ。リックを樹霊リスに進化だ!」
「キキュー!」
リックが強い光に包まれ、そしてその姿を変える。何度も見ているんだが、やはり進化は毎回ワクワクするな。
一体どんな姿に変わるのか――。
「キュー!」
「毛色が変化したな! でも、形的にはそう大きな変化はないか」
毛の色は、前と同じ灰色に戻った。いや、銀色っていう方がいいかもしれない。白銀と灰色の中間位の、落ち着いた銀色だ。背中の菱形模様も灰色リス時代と同じである。
ただ、額にはつるりとした緑色の宝石が張り付いていた。菱形の、エメラルドのような色の美しい宝石だ。
「体のサイズも木目リスの時とそう変わらんな」
「キュ」
「外見の変化はこんなもんか? いや、モフモフ度が上がった?」
「キュー?」
「や、やっぱりだ! なんだこりゃ!」
今までもフワフワでモフモフだったのに、この毛並はそれを超えている!
「モッファモファのフォッカフォカだ! いや、そんな適当な擬音では表せんくらいにモフモフだ! これはもうモフモフではない! モフモフ様だぁぁ!」
しばらくリックの新たなるモフモフ毛皮を堪能していたら、いつの間にか3人娘が俺の前に立っていた。
おっと、その顔を見たことでようやく冷静になれたぜ。だって、明らかに困った人を見る目なんだもの。
出張先で上司が酒を飲み過ぎて、仲居さんに絡み出した時の同僚にそっくりな目だ。あの時に「ああはなるまい」と誓ったはずなのに、俺はモフモフに執着するあまり、アレと同類になりかけていたらしい。
「……すまん」
「だ、大丈夫ですよ! 私も動物さんと遊んでいる時には同じ感じになりますから!」
「そ、そうそう。私も気持ちは分かっちゃうよ?」
「以下同文」
気を使わないで! 女子高生(推定)に気を使われたら、余計にダメージが! 俺のダメっぷりが際立っちゃう!
「は、はは。そろそろ移動しようか?」
「ちょ、白銀さん! これで終わりじゃないよ! ここの沼地で、薬草とかがたくさん採れるんだってさ!」
「あ、ああ、そう言えば」
すっかり忘れていた。
この後の悪魔戦に向けて、ポーションなどはあればあるほどいい。ここでできる限り薬草を採取しておきたいのだ。
「じゃあ、みんな。戦いの後だけど、もう一仕事だ。頑張ろう」
「――!」
「キキュー!」
「フマ!」
レビューを2本いただきました。
バランスを褒められるのはとても嬉しいです。
未知の世界だからこそ、リアルさとバランスは多少なりとも必要だと思っている部分なので。
今後とも、気長に更新をお待ちください。
ご自分でも何周したか分からないほど読んでいただいているなんて……!
しかも、WEB版、書籍版、コミカライズと、シリーズを全て読んでいただけているんですね。
今後とも、出遅れテイマーをよろしくお願いいたします。




