432話 ステゴの奥の手
ドリモの必殺の一撃によってHPが半減したユニークステゴだったが、そこからがしぶとかった。
どうやらHPが減ることで防御力が上がる仕様であるらしく、段々と与えられるダメージが減っていってしまったのだ。
さらに厄介なのが、配下召喚能力だ。少数ではあるが、定期的にパキケファロを呼ぶのである。そのせいで俺たちの陣形はガタガタだった。
というか、俺の真後ろにパキケファロを呼ぶのはズルくない? その頭突きで何度弾き飛ばされたことか!
だが、相手が強くなればなるほど、ヒムカの逆襲者によるカウンターダメージも増していく。ステゴは防御力だけではなく、攻撃力もアップしたのだ。
「ボモモォ!」
「ヒムムー!」
今も目の前で、ステゴが大きく弾かれている。よろめかせることで、連続攻撃を止めることができているのも大きい。
ヒムカのお陰で残りHP1割ほどまで追い詰めることができていた。
「もう少しだ!」
「――!」
「ムム!」
こちらも消耗しているが、向こうもすでに瀕死状態。あとちょっとである。まあ、だからこそ、敵も必死なわけだが。
「ボモオオオォォォ!」
「げ! なんだありゃ!」
ユニークステゴの背中にあるプレートが、後ろから順番に赤い光を纏っていく。ゴ〇ラが熱線を吐き出すときに、背中のヒレが光るのに似ている。
そして、その光が頭部にまで到達すると、カパッと開かれた口の中が真っ赤に光っていた。これは明らかにアレだろう。
「ビ、ビームとか反則だろっ!」
ゾ〇ドかっつーの! 恐竜と怪獣は違うんだぞ! 恐竜だったら恐竜らしく戦えよ! 恐竜としてのプライドはないのか!
「ムッムー!」
「オ、オルト!」
何とか回避しようと俺があたふたしていると、オルトがステゴに向かっていった。その手前で、腰を落とすようにどっしりと構える。
その姿はまるで、怪物に向かって槍を突き出そうとする、少年騎士のようであった。
そして、ステゴの口から極太のビームが発射され――。
「ムッムー!」
「す、すげーオルトさん!」
オルトがビームを受け止めていた。ビームに対してクワを思い切り突き出すと、クワが盾のようにビームを弾き散らしている。
「ムムー……」
「ボモオォォ……」
ジリジリとオルトが押し返されるが、なんとか踏ん張り続けている。そして数秒後。ステゴが先に限界を迎えていた。
ビームが細くなっていき、ついには消えてしまう。オルトもかなりのダメージを負っているが、それ以上に相手の反動の方が大きかった。
「ボ、モォ……」
全身から煙を上げて、動きを止めてしまったのだ。まじで中が機械とかじゃないよな?
「みんな! 総攻撃だ!」
「――!」
「モグモ!」
俺の水魔術がステゴをよろめかせ、サクラのムチがステゴをビシビシとしばく。最後はドリモのツルハシが脳天を直撃し、そのHPを削りきったのであった。
「ボモォォ……」
「勝った……。甘く見てたぜ」
最初のドリモの一撃がなかったら、結構ピンチだったかもしれん
「これで、恐竜飼育チケット2つ目か。まあ、恐竜をたくさん飼えるってことだし、儲けたと思っておこう」
手に入る素材はほぼ普通の恐竜と同じだ。機械のパーツなんかはない。一応、恐竜の角というのが、新しいかな?
「目的は達したし、さっさとここを抜けよう。釣りもしなきゃならんからな」
「フム!」
「お、おい! 引っ張るなって、そんな釣りしたいのか?」
「フムム!」
釣りと聞いて、俄然元気が出たらしい。ルフレが俺のローブをグイグイと引っ張っている。激戦の後なのに、元気だねぇ。
その後、俺たちはルフレに引き連れられるように密林を脱出し、テーブルマウンテンの麓までやってきていた。
「たくさんのプレイヤーがいるなぁ」
「フマー! フママ!」
「ど、どうしたアイネ?」
俺に肩車されていたアイネが、何やら遠くを指差して声をあげている。そっちを見つめてみると、見知った顔があった。
サラリーマンプレイヤーのコクテンたちだ。どうやらレイドを組んで、ボスに挑もうとしているらしい。周りに知らない人がたくさんで、ちょっと声を掛けづらい。成功をお祈りしておこう。
「フムム!」
ルフレも釣りが待ちきれないみたいだしな。テンション上がりまくりのルフレを宥めながら、モサのいる湖へとやってくると、そこでは多くのプレイヤーたちが釣りをしていた。
「おー、こりゃあ、凄い。いつの間にか釣りスポットになってるのか」
「フム!」
「俺たちも早速怪魚を狙うぞ」
まあ、その前に餌の準備をしないといけないけどね。
メガネウラの標本と、低品質の琥珀を使って餌を作っていく。モサを寄せつけない効果はあまり長くないから、ちょっと多めに作っておこう。
「みんなも釣ってみるか?」
「ムム!」
「フマ!」
みんな――いや、ヒムカ以外はやる気満々だな。じゃ、全員分の琥珀餌を用意しておくか。
「怪魚釣り開始だ」
「――♪」
「フムムー!」
俺たちは湖の畔に並んで腰を下ろすと、仲良く釣り糸を垂れるのであった。
前話の、島の説明を修正しました。
島が3層に分かれているという部分を5層に修正。
テーブルマウンテンの麓も共通エリアという説明を追加しました。