429話 方々への影響
運営の場合
「おい! あと10分でメンテ開始だ。ログアウトして仮眠室の奴ら全員叩き起こしてこい! 2時間しかないんだからな!」
「はい! 主任!」
「悪魔のステータス調整は1班!」
「えーっと、今のところ、初期値よりも軒並み下げてますけど……」
「HPは上げる! 他は下げる! そんな感じだ! 第2陣プレイヤーの参加も想定よりも増えそうだしな! それに、攻略アイテムもほぼ全プレイヤーに広まったと思っていい! このままだと瞬殺だぞ! ああ、アンモライトの効果を少し下げるのも忘れるな!」
「あれ、想定だとプレイヤーの所持数が100個くらいのはずだったのに……。このままだと10倍じゃ利かないでしょうね」
「で、システム系の処理は2班! 特に、動作確認を慎重にな!」
「元々、4倍速下イベントで使う予定のコンテンツでしたからねぇ。投入前に気付けて良かったです」
「ああ。NPCがちょっと固まるくらいなら許せるが、ボスが戦闘中にフリーズなんてことになったら最悪だからな」
「あー、でもこれ、そのうち全部を修正する必要があるってことですよね?」
「例の法案か?」
「なんか、偉い学者さんが、精神と肉体の年齢の乖離がどうとかで、うんたらかんたらって奴ですよ」
「何も分かってねーじゃねーか!」
「VRの時間加速が制限されそうだって分かってれば、十分でしょ?」
「現状では明確なデータは出てないが、20年後には肉体が30歳なのに精神が40歳超えなんて人間が現れる可能性はある。ゲームだけじゃなくて、俺たちみたいにVRの高加速を利用して仕事をしている人間もいるし、塾なんかも似たことを計画してるところもあるんだ」
「あー、だから肉体と精神の年齢の乖離って話になるわけですか」
「実際、悪影響が出ることが判明した時には、何百万人もの人間が手遅れってことになりかねんからな。マウス実験だと、異常行動が見られるって話だ」
「え? それってヤバくないっすか?」
「だから、法案が可決されるんだろうが。もし高加速が禁止になったら、確かに全システムの調整が必要になるだろうよ」
「うげー、やっぱそうなんすね」
「しかも、高加速下での仕事ができなくなるってことはだ……」
「はい」
「今よりももっとデスマーチになるってことだ! 残業三昧! カミさんがまた実家に帰るって言い出すぅぅ! 娘の冷たい目がっ!」
「……頑張ってください……」
「おう!」
「2人とも! なに無駄話をしているんですか?」
「ふ、副主任! お疲れさまっす!」
「指示出しは終わったのですか?」
「お、おう」
「そうですか。では、主任にはこちらへの対応を早急にお願いします」
「これは?」
「想定よりもモサとスピノを突破するプレイヤーが増える可能性が出てきましたので、悪魔のステータスをさらに修正する必要があるかどうかの検討です」
「え? なんで?」
「白銀さんの配信ですよ。あの中で、モサの攻略の鍵になる琥珀餌の情報が完全に流出しましたし、スピノの攻略のカギになる海の魚が好物という情報も出てしまいました」
「え? まじ? 俺、悪魔の部分を見て大慌てで他の奴らを呼びに行ったから、そこまで見てなかったわ」
「ともかく、このままではマズいです」
「……まじかぁ」
「それと、図鑑コンプリート報酬も多少の変更が必要かと」
「これも、結構出そうなのか?」
「一番難しい魚のコンプリートが、琥珀餌さえあればそう難しい事ではなくなりますし」
「そっか~。そうだよな~。なんで……。なんでメンテ直前にあんな大爆弾がぁぁ!」
「よかったですね?」
「え? なにが?」
「あのプレイヤーのやらかしたログを見て、お酒を飲むのがお好きなのでしょう? きっと、悪酔いするほど飲めますよ?」
「……そ、そんな目で睨むなって! 俺のせいじゃないだろう!」
「あのプレイヤーは主任担当ですから。主任のせいです」
「ええー?」
早耳猫の場合
「サブマス。準備できましたけど――」
「うにゃぁ!」
「ど、どうしたんですか!」
「ううう! ちょっとホッとしてる自分が悔しいぃぃ……」
「でも、助かったのは確かですし。あの情報、全部持ってきてくれてたら……」
「支払い、ギリギリだったかもね」
「ギリっていうか、無理だったんじゃ……」
「ギリ払えたわ」
「負けず嫌い……」
「ともかく! 私たちもこうしちゃいられないわ! 古代の島へ急がないと!」
「沈没船はどうします?」
「あっちはカルロたちに任せるわ。私はハイウッドと一緒に、スピノと琥珀餌の検証に行く」
「スピノは結構パターンが分かって来てますからねぇ。海の魚で気を引けるなら、かなり楽に倒せるようになるかもしれませんね」
「海の魚は用意できてる?」
「はい。メンテ終了直後から、かき集めました。白銀さんに払わなくてすんだから、イベトは潤沢にありますし」
「琥珀餌の方は、イベントを起こしてなくても作れることが分かったから、問題ないわ」
「作った端から売れてます。トンボ狩り班から増員要請が……」
「了解。メイプルたちを送るわ。スピノよりも、モサを優先しようかしら? モサはまだ突破者がいないけど、琥珀餌があれば何か変化があるかもしれないわ」
「まあ、イベントモサが琥珀餌を嫌うと言うのであれば、任意の場所への追い込みは可能かもしれませんね」
「そういうこと。あと、配信でユート君が言ってたアンモライトの確保もしないと。そっちはルインにお任せかしらね?」
「ともかく、あと2日ちょいしかないのに、大忙しですねー。さすが白銀さんです」
「イベトは無事だったけど、結局大忙しよっ!」
三人娘の場合
「うわっ」
「どうしたのクルミ?」
「配信数が激伸び。しかも今もどんどん上昇中。これ、もしかしたらベスト3に入れるかも」
「くくく……。ほぼ白銀さんのお陰」
「ち、違うもん! 私たちの魅力だって、ちょっとは貢献してるんだよ!」
「魅力?」
「そ、その目は何なのよ! 世の中、ちょっと変わった趣味の人もいるんですぅ!」
「じ、自分で変わった趣味って言っちゃうんだ……」
「YesロリータNoタッチ……くくく」
「ともかく! 白銀さんだけの力じゃないんだよ! 白銀さんの貢献度は95%くらい!」
「それって、ほぼ白銀さんのおかげって言ってるようなものだよ?」
「5%は私たちの力! 0と5じゃ、大分違うんだよ!」
「クルミ。空しくなるから、それくらいにしておこう?」
「うん……」
「でも、やっぱり白銀さんは凄いねぇ。これ、あとで何かお返ししなきゃいけないんじゃない?」
「う、そうだね。何がいいかな?」
「くくく……リキュースペシャルハイパーデラックス」
「却下! それ、火炎耐性がなきゃ絶対に自爆するやつじゃん!」
「じゃあ、これ。くくく、いい爆炎上げるわよ?」
「それもダメ! 素材残らない奴! っていうか、廃棄しろって言ったのに! まだ持ってる!」
「コレクションはノーカウント。くく」
「と、ともかく。何がいいか、考えておこうね」
「うん。そうだね」
「くくく……ならばこちらを――」
「それは――」
「はいはーい。リキューは爆弾しまおうねー。クルミもいちいち突っ込んでたら話進まないから」




