426話 ホラー×ミステリー×アドベンチャー
俺たちは沈没船の船腹に空いた穴から、中へと侵入していた。
なんと内部には空気がある。
「これなら戦い易そうだ」
「クマ!」
「頼むぞクママ。どうせここも――」
「ヴアアアァァァ!」
「ひぃぃ!」
「クックマ!」
だと思ったよ! 天井から急にゾンビが顔を出しやがったのだ。
逆さまだったせいで、こっちを攻撃する余裕もなく、クママに倒された。
ここもやはり肝試し続行中なのだろう。
「い、いくぞ。みんな」
「――!」
「クマ!」
「あ、先頭はクママで。サクラは俺を守ってね?」
「――!」
うちの子たちのサムズアップはメチャクチャ頼もしいね!
こうして沈没船探索が始まったんだが、ここがもう酷かった。
「ヴアアアァァ!」
「ぎゃー!」
「ヴァヴァー!」
「ひぃー!」
亡霊岬以上に、脅かすことに全力なのだ。
ダッシュするゾンビが角を曲がって登場したり、床下から足首を掴まれたり。
悲鳴を上げない訳にはいかんだろ?
むしろ、壁をぶち破って現れたくらいじゃ、もう驚かなくなってきた。
だがね、本当の恐怖はその後にやってきたのである。
「うぇ……。なんじゃこりゃ」
イベントに関連してるっぽい、「裏切り者めぇ!」と呻き続けるゴーストが落とした鍵。それを使って開けた扉の先は、まさに惨劇が起こった現場という感じであった。
ベッドに突き刺さった巨大な斧と、部屋中に飛び散った枕の中身の羽毛と、血痕。そして、部屋の中央に倒れた、男性の骨。
多分、アンデッドとかのフィルターを掛けていれば、もっと大人し目に見えるんだろう。
思わずフィルターを掛けちゃおうかと思ったけど、それだと負けた気がしてしまった。誰にって? 運営にだよ!
結局、俺は恐怖を堪えながら、その部屋の中を探索したのだった。
「キュー?」
「ヤー?」
「お、お前ら、よくそんな無造作に布団捲れるな!」
「――?」
「クマ?」
「君らも、骸骨をそんながっつり持ち上げちゃって……」
モンスたちにはスプラッターの概念がないんだろうか? 普通の家探しである。
そりゃあ、俺だってちょっとワクワクする気持ちはあるんだよ?
沈没船の中をモンスたちと歩いているだけで、少年が主人公の冒険映画の中に入り込んだかのような、不思議な高揚感がある。
ワクワクからのホラー。そして謎解きに宝探し。もう気持ちがグッチャグチャである。
どうやらこの船では、スプラッタホラーと謎解きサスペンスに、冒険アドベンチャーが組み合わさっているらしい。
「――!」
「お、これはもしかして日記か? でかしたサクラ!」
船室で見つけた日記を読むと、裏切り者による凶行の末、仲間たちが殺された的なことが書かれている。クラゲに沈められるなら、最後にハッチャケて死んでやろうというアホが一人いたらしい。
しかも、そいつは船長に殺された後も、ゴーストとなって船の仲間たちを襲い続けたとある。
「えーっと、あの裏切り者を倒す手段を見つけた。これで船に平和が戻る?」
そう書かれた次のページをめくると――。
「うげっ。古典的な……」
ページが真っ赤に染まり、読むことができない。明らかに日記書いてる途中でやられてるじゃん。
その後は、弱いくせにガンガン脅かしにくるゾンビ、スケルトン、ゴーストを蹴散らしながら、船内を駆けずり回った。
途中からは慣れてきて、全然驚かなくなってしまったのだ。リアルのオバケ屋敷ではもう驚けそうもない。
「後は、この十字架を持って船長室に行けばいいのかね?」
唯一の女性船員だったという船医さんの部屋で、箱に入った銀でできたロザリオを手に入れた。
一応、これがキーアイテムであるらしい。他の部屋がボロボロなのに、船医の部屋だけは綺麗だったことからも、このロザリオが効果があるのは確かだろう。
そうして、船長の部屋で裏切り者のゴーストと戦ったが、こいつが意外に強かった。物理に強く、念動などで見えない攻撃をしてくるのだ。
まあ、ある程度ダメージを与えたら、ロザリオから出現した船医さんの霊が放った浄化の光で消滅したけどね。幽霊が浄化の光を放つなよ……。
そこから、船長さんの幽霊にお礼を言われ、報酬をもらう流れまでは一直線だった。
なんか、恋人だったっぽい美人船医さんの幽霊と抱き合い、そのまま昇天していったのだ。
「最後は恋愛的な話で終わったか……」
マジでハリウッド映画っぽい作りのイベントだったな。イベント終了後は自動で転送され、亡霊岬まで戻ってきた。
「太陽の光が気持ちいいねぇ」
「――♪」
グーッと伸びをして体をほぐしてから、沈没船のクリア報酬を確認する。
「報酬が5000イベトに、琥珀か。あとは海賊旗?」
海賊旗とだけ表記されているそのアイテムを取り出してみると、本当に旗だった。白地に黒い髑髏の描かれた、シーツくらいのサイズの大きな旗である。
岩礁の幽霊が言っていた旗ってこれか? 巨大クラゲがこの旗を追ってくるとか言ってたはずだ。
だとすると、これで海流のところにいる巨大クラゲを誘導できるってことなんだろうな。
「俺たちには必要ないが……」
誰かに売れるだろうか?
「とりあえず少し休もうか……。メッチャ疲れたし」
岬の突端は霧も出ていないし、モンスターも出ない安全地帯だからな。
「フムー」
「ペペーン!」
「お前ら、元気だな。もしかして沈没船が楽しかったのか?」
「フム!」
「ペン!」
俺にはスプラッタホラーでも、モンスたちには楽しいアトラクションだったらしい。