425話 水没鍾乳洞
ルフレとペルカに、水没した洞窟の先行偵察をお願いしている間、俺たちはその場で休憩していた。
この場所は少し開けた状態なので、腰を下ろすくらいはできるのだ。
「キュ」
「ヤー」
「クマー」
「よくここでぐっすり寝れるな……」
リックとファウは、俺の膝の上で団子になってお昼寝である。
クママは俺の隣にポテッと座り、俺の肩に頭を乗せていた。電車の居眠り親父。もしくは映画館のカップル状態だ。
サクラは逆側に女の子座りをして、木工の作業をしている。
「――」
その真剣な眼差しは、まるで高名な仏師のようだ。サクラのこんな表情は中々珍しい。
まあ、彫っているのは持ち手の頭がうちのモンスたちになっている、木製のスプーンだけど。サクラ印に新商品が追加されそうだね。
そうして10分ほど待っていると、やや興奮気味の水中コンビが戻ってきた。
「フッムムー!」
「ペペーン!」
水から上がった2人が、テンション高めに俺の下に走ってくる。
「ちょ、ビッショビショの状態で抱き付くの禁止!」
「フムー!」
「ペペーン!」
「ち、近くでブルブルすんな!」
俺の目の前で体を揺すって、水を飛ばすの禁止! というか、俺と一緒にいた他の子たちも被害を受けている。
「ヤヤー!」
「フムー……」
「キッキュー!」
「ペーン……」
「――」
ちびっ子コンビに叱られているルフレたちを、サクラがやんわりと庇っていた。まあ、これだけ怒られれば反省もするだろう。
というかリックよ。お前、人のこと怒れんからな?
「それで、何かあったのか?」
「フムッ!」
「ペペン!」
俺の言葉を聞いた2人が、勢いよく俺に迫ってきた。
「おーおー、そのハイテンション。何か凄い物でも見つけたっぽいな。ルフレ、ペルカ。この先はどうなってた?」
「フム? フムムー!」
「ペペン!」
2人は興奮した様子で、先について教えてくれた。
幾つか枝分かれした洞窟を抜けると、そこに沈没船が存在しているらしい。やはりここが正解のルートだったか。
「じゃあ、道案内は頼む」
「フム!」
「ペン!」
俺たちは2人を先頭に、水没通路へと突入した。
空気の球を発動させると、全員の顔に空気の球が纏わりつく。
無色透明の大きな、金魚鉢を頭からかぶっているようなイメージ? ともかく、顔の周りだけ水が弾かれ、呼吸も会話も可能だった。
「ほほー、こりゃあ綺麗だ」
「――♪」
そこは、水中に沈んだ鍾乳洞だ。
水の透明度が高く、泳いでいるとまるで宙を飛んでいるような感覚さえあった。顔周りが空気で覆われているせいで、なおさらそう感じるのだろう。
また、光にも困らない。光源がどこにあるのか分からない不思議な青白い光が、周囲を照らしていたのだ。
どうやら俺たちが水を掻くと、それに反応して水が微かに光っているようだ。よく観察してみると、小さな生物が水中を漂っているのが分かった。
鑑定すると、図鑑に登録される。
「夜光虫か」
リアルの夜光虫はもっと小さく、一匹一匹の放つ光も弱かったと思うが、そこはゲームだからね。
とりあえず採取ケースをその場で出してみると、夜光虫入りの水が採取できた。小さい金魚鉢にでも入れたら、夜に綺麗かもしれん。
そんな夜光虫のおかげで、周囲の景色はバッチリと確認することができた。
天井だけではなく、地面からも青白い鍾乳石が無数に突き出し、まるで巨大な生物の口の中のようでもある。
だが、怖さはなく、鍾乳石と夜光虫の組み合わせはただただ不思議で幻想的だった。
ルフレたちのおかげで迷うこともなく、普通に水中散歩を楽しんでしまったぜ。
「お、先から光が漏れているけど、もしかして出口か?」
「フム!」
「うわっ! 無理に引っ張るなって!」
「ペーペン!」
「――♪」
洞窟の突き当たりというわけではなく、抜けた先に何かがあるらしい。急かすルフレたちに手を引かれ、俺たちは凄い勢いで鍾乳洞を進む。
高速で流れる水中鍾乳洞は、それはそれで美しい。だが、その先にあったのは、さらに息をのむド迫力の光景だった。
「ペペーン!」
「フムー!」
「こ、こりゃあ凄い」
カリブの海賊とか、そんな作品に登場するような木製の巨大な帆船が、暗い海底に横たわっていたのだ。
周囲は完全な暗闇ではない。ほんの僅かに日の光が届いているのだろう。
そこは、薄暮の世界であった。
船の周囲には珊瑚が大量に張り付き、沈んでからの年月の長さを語っている。
「間違いない。沈没船発見だ!」




