424話 亡霊岬
「ヴアァァ!」
「おひっぃい! ゾンビィィ!」
「クマー!」
「た、助かったよクママ」
「クマ!」
北の漁村に戻った俺たちは、岬へとやってきていた。船でではない。いや、一度は船で沈没船付近まで近づいてみたんだが、何も発見できなかったのだ。
ペルカとルフレに潜ってもらっても、影も形もない。そこで、何かヒントがないかと思い、岬の先まで歩いてみることにしたのだ。
この岬は漁村では亡霊岬と呼ばれている。その名前の由来が――。
「カッタカター!」
「またか!」
「クックマー!」
この、奇襲してくるアンデッドモンスターたちにあった。左右の崖から這いあがってきたり、時には地面から飛び出してきたりする。幽霊系モンスターもいきなり現れ、毎回奇襲を狙ってくるのだ。
弱いから瞬殺なんだが、とにかく心臓に悪かった。
運営、確実に脅かす目的に全振りしてやがる。肝試し代わりってことなのか?
「昼間だからまだましだけど……。夜だったら怖すぎだろう」
「クマ!」
「クママが守ってくれるってことか? ありがとうな」
「クマー」
「ヤー!」
「ファウも守ってくれるんだな? 頼む頼む」
「ヤ!」
俺の髪を引っ張ってアピールしてくるファウをツンツン突くと、楽しそうに笑っている。
そうやって時おり悲鳴を上げながらも先へ進むと、あっと言う間に岬の突端だ。
全方位に海が広がる、圧倒的な解放感。上も下も蒼い。
「うーん、気持ちいいなぁ!」
「――♪」
サクラも風に煽られる髪を軽く押さえながら、水平線を眺めている。いやー、絵になるね。
「にしても、何も起きんな」
「ヤー?」
「キュー?」
「ここに来たらイベントが起きると思ってたんだが……。皆も何かないか探してくれ」
「クックマ!」
「フム!」
そうして、全員で岬の探索を始めたんだが。突端部分は幅5メートル程度しかなく、すぐに終了してしまう。
ひっそりと墓石が埋まっていたりもしないし、幽霊が現れたりもしないのだ。
「うーん……? 崖に何かあったり? それとも、下に下りなきゃダメか?」
崖から下を覗いてみると、岬の下には一応磯っぽい岩場がある。下りることはできそうだ。
「キュー?」
「いや、上に何もないなら崖とかかと思ってさ。リックとファウ、少し見てきてくれないか?」
「ヤー!」
「キュー!」
ファウはともかく、崖を高速で駆け下りるリックはちょっと肝が冷えるな。リスだから大丈夫だと分かっていても、落ちちゃわないかヒヤヒヤするのだ。
それから5分ほど経過しただろうか。やはり何も発見できない。
俺が探索を諦めて、岬からの景色を堪能し始めた直後だった。
「ヤヤー!」
ファウが文字通り俺に向かって飛び込んできた。そして、ローブをグイグイと引っ張る。何かを発見したらしい。
ファウに引っ張られるがままに、首だけを出して下を覗き込んでみる。だが、何も見えない。ファウがもっとよく見ろとばかりにさらに引っ張るんだが……。
「まてまて! これ以上引っ張ったら落ちちゃうから!」
「ヤヤー!」
「もっと下? あ、あのリックがいる場所か?」
「ヤ!」
よく見ると、崖の途中でリックが手を振っているのが見えた。蔦などの植物が生え、ちょっとだけ棚のようになっている場所だ。
「リックー! そこに何がある?」
「キッキュー!」
「おお? まじか」
俺の呼びかけを聞いたリックが、蔦を捲って見せてくれる。なんと、蔦の下には大きな穴が空いていた。
船からだと、蔦と岩が邪魔をして見えないのだろう。まさかあんな場所に洞窟があるとは思ってもみなかった。
「よし、下りるぞ。サクラ、頼む」
「――♪」
サクラの蔦を手近な岩に結んで命綱にして、俺は岬の崖を下りていった。
近づいてみると、洞窟がかなり巨大であることが分かる。入り口は3メートルくらい。中はさらに広いだろう。
「うーん、下の方に続いてるのか……? とりあえず、リック先頭を頼めるか?」
「キュ!」
久しぶりの敬礼をビシッときめ、リックが穴の中へと入っていく。
「リック、あまり急がないでいいぞ。慎重に慎重に」
「キュ」
「螺旋状になってるんだな」
洞窟の表面は湿ってヌルヌルとしており、かなり歩きづらい。まるで、スケートリンクかってくらいに滑るのだ。リックはよくあんなダッシュできるな。
モンスターが出ないことが救いだろう。もしここで戦闘になったら、俺はその場から動かないで魔術を放つくらいしかやれないのだ。
まあ、採掘や採取もできんけどね。
「結構下りてきたと思うんだが……」
「キキュ!」
「どうしたリック!」
「キュー!」
やや先行していたリックの、甲高い声が聞こえた。慌てて後を追う。いや、滑って走れないから、壁に手を当てて支えつつ、へっぴり腰で小走りだけど。
ついにモンスターが出現したのかと思ったが、そうではなかった。
「行き止まり――じゃなくて、ここから先は水中かよ」
「キュー」
リックが指差す先は、水たまりになっている。そこを覗き込むと、先に繋がっているようだった。洞窟の先が、水没しているのだ。
「先が分からないの、超怖いな」
空気の球があるから息はどうにかなるが……。
「とりあえず、ルフレとペルカに偵察してもらおう。2人とも、この先に何があるのか、確かめてきてくれ」
「フム!」
「ペペン!」