420話 ゾンビ副船長
アイネを待つ間、皆で村の周囲を軽く歩いてみたが、モンスターもいなければ、アイテムの採取もできない。
完全にイベント進行中かな?
やはり、岩礁で出会った、幽霊船員関係だろうか? 幽霊とスケルトン。一応、どっちもアンデッドだし。ああ、あとは海賊繋がり?
岩礁で幽霊と出会うことが、白い霧の発生のトリガーになっている可能性は高そうだ。
そうこうしている内に、アイネが戻ってきた。
「フママ!」
「どうだった?」
「フマ……」
どうやらめぼしい物は発見できなかったらしい。少なくとも、動く存在は認識できなかったようだ。
これでは、住民が寝ているだけなのか、ゴーストタウン的な物なのかもわからない。
「仕方ない。踏み込むしかないか」
「ム!」
「モグ!」
俺達は隊列を組んで、ゆっくりと村へと近づいた。入り口の門は開いているが、門番などはいない。
これだけなら住民が寝静まっているだけとも思えるが、街灯の類いも一切ないのはおかしい気がする。それに、NPCショップもない。
他の漁村では、村の中にランプなどが吊るされていたし、NPCショップはゲーム的ご都合主義により深夜でも利用できた。
「家に不法侵入するわけにもいかんし……」
「ム!」
「どうした?」
「ムッムー!」
オルトが何かを発見したらしい。さすが暗闇でも見えるノーム。こういう時は頼りになるのだ。
オルトに導かれるように数十メートルほど進むと、そこは村の中央広場であるようだ。そして、異様な物が俺達の目に入ってくる。
「うわ、どう見てもボスじゃねーか」
そこにいたのは、巨大なゾンビだった。2メートルを超える身長に、皮膚が腐り落ちたことでより主張する筋肉。ちょっと取れそうな右目。メチャクチャ不気味だ。
手には、反りの大きい剣を握っている。シミターとかシャムシールと呼ばれるタイプの武器だろう。
「ここまできて引き返すことなんかできんし。覚悟を決めるしかないか」
「ペン!」
「フム!」
「よし、いくぞ!」
俺達が広場に踏み込むと、即座にゾンビに反応があった。赤いマーカーが出て、戦闘開始である。
「名前はゾンビの副船長……」
船長じゃないのか。つまり、ここでイベントは終わらない? まあ、倒せばわかるだろう。
「俺達に倒せたらだけどなぁ! ドリモ、クママは左右から攻撃を! オルトは俺たち後衛を守ってくれ!」
ペルカは俺と一緒に後ろからチクチク攻撃。ルフレ、アイネは補助である。
「ゴガアアァァァァ!」
「こ、怖っ! だが、ティラノさん程じゃない! みんな、頑張るぞ!」
「クックマ!」
「モグー!」
そうだ、巨大な恐竜たちと互角にやりあった俺たちからすれば、ちょっとデカイだけのゾンビなんざ――。
「ゴアアアアアアアアアア!」
「う……」
いや、やっぱ怖いな! 恐竜とはベクトルが違う怖さだよ!
だが、俺たちは勇敢に戦った。オルトが巨大なシミターをクワで受け止め、クママ、ドリモが左右から攻撃を行い、ペルカが隙を見て一撃離脱を加える。ルフレの回復と、アイネの支援も完璧だ。
俺? 俺は心の中でみんなを応援してたよ? ゾンビの咆哮スキルのせいで最初に麻痺しちゃったからね!
ただ、俺が参加せずとも楽勝なくらい、ゾンビは弱かった。完全に見掛け倒しだ。
一番肝が冷えたのは、ゾンビのライフが半分削れて、周囲の家々からスケルトンが大量に湧き始めた時かな?
だが、それを無視して攻撃を続けたうちのモンスたちにより、驚くほど速くゾンビは倒されていた。所要時間3分くらいかな?
「で、これか」
「ありがとう……。俺たちを縛っていた後悔が晴れたよ……」
半透明の幽霊が現れて、静かに語り始めた。多分、副船長の生前の姿なんだろう。
身長も縮んだうえに顔も普通に戻ったから、本当にあのゾンビと同一人物かは分からんけどね。
周囲は、いつの間にか村が完全に消滅している。代わりに、朽ち果てた墓石らしきものが立ち並ぶ、西洋風の墓地に変わっていた。
「船長たちは、怪我をして動けない俺たちを船から降ろして、クラゲの野郎に向かっていったんだ……。でも、船は帰ってこなかった。岬の先で、沈んだらしい……。なあ、俺達に勝ったあんたらに、頼みがあるんだ……。今も海の底で苦しむ船長たちを、楽にしてやってくれないか? 頼む。もし断っても、俺達を救ってくれた恩人なんだ。そのお礼はするよ」
ここで、クエストを受けるかどうかの選択肢が出た。
依頼を受けると、沈没船の場所を教えてもらえ、断ると行けなくなるってこと? その代わりに何か報酬がもらえるっぽいが。
ここで拒否するとかありえるか? まあ、このボスで死にかけるようなレベルの場合は、それもありか。
「受けます」
「おお……。ありがとう。では、これを持って行くといい……」
そして、幽霊が消え、俺のインベントリにいくつかのアイテムが追加された。1つが、古びた地図。沈没船の場所に×印がつけられているな。
それと、空気の球というアイテムだ。使うと、パーティメンバーを空気が包み、短時間水中での行動が可能になるというアイテムだった。これで沈没船に向かえってことだろう。
「お、どうやらセーフティエリアになったみたいだな」
深夜の墓地で寝るのは微妙だが、もう制限時間だからな。転移陣もないし、仕方ないだろう。
「沈没船とか北の漁村は明日だな。みんな、おやすみー」
「ムムー」
レビューありがとうございます。
褒めていただくだけで、風邪がちょっと良くなりましたwww
ほっこりのんびりな本作を、小説、漫画ともどもよろしくお願いいたします。