418話 リュウグウノツカイ
発見した岩礁を調べていたせいで、魚拓のことを完全に忘れていた。できれば今日の内に達成したかったので、俺たちは引き続き夜釣りに挑戦である。
湾に戻ると、そこで釣り糸を垂らす。だが、高得点の魚は全く釣れない。
うーむ、これはもっと詳しい情報を買うべきだったか? でも、何でもかんでも情報を仕入れたら、つまらなくなるしな……。
カッコつけてアリッサさんがお勧めするミニゲーム必勝情報を買わなかったのは俺なのだ。ここでアリッサさんのところに行って、改めて情報を買うのは恥ずかしい。やはり、自力で高得点を狙うしかない。
そうして考え続けていたら、ようやくあることに気付けた。
「今まで最高得点だった魚は、キンメダイとタラだったよな?」
確かどっちも深海魚だったはず。つまり、この湾のどこかに深くなっている場所があり、そこじゃないと釣れないんじゃないか?
きっとそうだ! 俺のツルツルの脳細胞も、たまには仕事をするじゃないか!
「ペルカ! ルフレ! 海が深くなっている場所を探してくれるか?」
「ペン!」
「フム!」
海面から上半身だけを出していた2人が、ビシッと敬礼をしてから海へと潜っていった。
30分後。
「きた! キンメダイだ!」
「モグモ!」
俺は50センチ程の大きなキンメダイを釣り上げることに成功していた。これも、ルフレたちが見事に深海の場所を探し当ててくれたおかげだ。
「いいねぇ。キンメダイ。自分たちが食べる分もここで釣っておこう!」
「モグ!」
その後は、タラも釣り上げ、俺のテンションは上がり続けた。しかも、さらに俺のテンションを上げる獲物が連続でかかる。
「うぉぉ? これ、リュウグウノツカイか? すっげー! ちょ、ドリモが釣ったのはオウムガイじゃんか! クママのはデメニギス?」
「モグー!」
「クマー!」
煌びやかな巨大深海魚リュウグウノツカイに、丸っこい殻が特徴的なオウムガイ。そして、頭がスケスケ状態で巨大な眼球が見える奇魚デメニギス。珍しい深海の生き物ばかりだ。
「リュウグウノツカイは、ケースに……入った!」
特大ケースでギリギリだった。リュウグウノツカイは泳ぐこともせず、ケースの中に漂っている。
「よし、もうだいぶ遅いし、村に戻ろう」
「フム!」
「ペペン!」
ただ、この時の俺は気付いてはいなかった。
この後に待ち受けている悲劇に……。
「魚拓にした魚、消えるんだったぁぁ!」
そうなのだ。リアルと違い、このイベントでは魚拓を取った魚が何故か消滅してしまうのである。
「俺の魚拓は、魚の全てを写し取るからな!」
なんか、ゲーム的というか、魔法的な設定があるせいであるらしい。
「でも、もう釣りは飽きたし……」
非常に残念ではあるが、リュウグウノツカイを再度釣る気力は残っていなかった。最終日までにやる気が出たら、チャレンジしてみよう。図鑑には登録できたしね。
「いいんだ、俺にはシーラカンスさんがいるからな」
「ほれ、こいつが魚拓の礼だ。ほほう? お前さん、化石とオウムガイを持ってるな? 古代にロマンを感じるタイプか? だったら、よい事を教えてやる」
真魚拓作製セットというアイテムを俺に渡してくれた魚拓爺さんが、そのまま語り始めた。やはりここのミニゲームにも情報が隠されていたようだ。
トリガーは化石とオウムガイだろう。そういえば、オウムガイは生きた化石とか呼ばれてるんだったな。
「実はな、この島から北東に行った場所に、古の生物が生き残った島があるのさ。そこに行けば、色々な古代生物に出会えるだろう」
うん、もう知ってた。
「そこの島では、幻の古代深海魚、シーラカンスが釣れるって話だ。俺も、ぜひシーラカンスの魚拓を取ってみたいもんだぜ!」
魚拓爺さんがそう言った直後だった。シーラカンスを渡すかどうかの選択肢が現れる。
RPGなどでたまにある、キーアイテムをすでにゲットした状態であったらしい。お使いクエストに必要なアイテムを最初から持ってるとか、あるあるだよね。
俺は迷わずYesを選ぶ。もう何匹か捕まえてあるし、構わないのだ。
「旅人よ! 感謝するぞ! これはほんのお礼だ!」
10000イベトか……。まあ、悪くはないだろう。
「だがな、あの島で最大の魚は、こいつではないらしいんだ」
「え? そうなんですか?」
実は、図鑑で気になっていたことがあった。魚のページなんだが、シーラカンスが最後ではなかったのだ。その後ろにもう1枠、埋まらない場所があったのである。
並び的には、アンモナイトやシーラカンスが掲載されており、古代の島の魚介類が図鑑のラストを埋めることは間違いない。しかし、空きがある。
つまり、その魚を発見しなければ、図鑑を埋めることはできないってことだったのだろう。しかし、次の情報が俺を絶望の底に叩き落とす。
「うむ。滝の下にある巨大な湖。その中には、シーラカンスをさらに超える巨体を持った、古代魚が生息しているという噂がある!」
いや、無理無理! だって、あの湖にはボスであるモササウルスが生息しているのだ。近づいただけでガブリンチョである。隙を見て釣るとかも不可能だろう。
俺がそのことを告げると、魚拓爺さんが新たな情報を教えてくれた。
「北の漁村に、その魚を釣り上げたという伝説の漁師がおる。尋ねれば、何かヒントが得られるかもしれんぞ」
伝説の漁師。これまた男心をくすぐる単語だ。ただ、ちょっと怖い。絶対に偏屈で怖いおじいちゃんに決まってるのだ。
「でも、図鑑のためだもんな」
勇気を出して、偏屈爺さん(仮)に会いにいこう!
沈没船のことも調べなきゃいけないし、忙しくなってきた!