417話 岩礁発見
ラッコさんと戯れていたらサメに襲われました。そのせいで、メチャクチャな場所まできてしまったらしい。
陸地がかなり遠かった。
「ペルカ、ルフレ。悪いけどもうひと踏ん張りしてくれ。とりあえず漁村前の湾まで戻ろう」
俺がそう指示を出した直後のことだ。
「フママ! フマー!」
「ど、どうしたアイネ?」
アイネが急降下してくると、俺の肩をガクガクと揺すぶり始めた。そして、何やら陸地とは反対側を指し示す。
「な、何か発見したのか?」
「フマ!」
「えーっと……?」
アイネが指さす方を見つめてみるが何も見えない。
「フママ!」
「うーん」
「フーマー!」
「あ、ちょ、引っ張るなって!」
もっと上から見れば分かると言いたいのだろう。アイネが俺のローブの襟を掴んで、上に引っ張ろうとする。
「さすがにアイネには――って、まじか!」
「フーママー!」
「も、持ち上がってるぅ!」
なんと、アイネが俺を僅かに持ち上げることに成功していた。さらにゆっくりと高度が上昇していく。
考えてみたら、アイネも進化してそれなりに腕力がある。そして、ゲーム内での俺の重さは、装備を合わせても精々60キロ程度だろう。ハーフリングで背も小さいしね。
僅かな時間であれば、持ち上げることも可能であるらしかった。
ローブがすっぽ抜けないように、脇を締めて前をギュッと掴む。これで、少しの間は何とかなるだろう。首の詰まったタイプのローブじゃなくてよかった。
そのまま10メートルほどの高さに持ち上げられる。
「あ! 見えた! 小っちゃい島みたいなのがあるな!」
「フ……マ……」
「ちょ、嘘!」
俺が遠くに小島を発見した瞬間、アイネの力が尽きたらしい。しかも、そのまま一気に落下していた。ギリギリまで粘ってくれたことで、ゆっくりと下ろす程の力も残らなかったのだろう。
「モグモ!」
「ぐえっ!」
「フマ!」
なんとかドリモが受け止めてくれたが、メッチャ怖かった! ゲームだから痛みはなかったんだけど、驚きと恐怖でヒュンとなったのだ。
「フーマー」
「大丈夫だから」
謝るアイネの頭を撫でてやりつつ、ルフレたちに島の方向を目指すように指示した。疲れていて嫌がるかなーと思ったが、ルフレもペルカも「やった! もっと船を引っ張れる!」とばかりに大喜びだ。
そのまま、釣りをしつつしばらく海を進んでいくと、さっき発見した小島へと到着した。まあ、小島というか、岩礁って感じだ。直径は10メートルないだろう。
「こんな場所の情報はなかったよな?」
未発見? もしくは発見した人が情報を独占してるのかもな。このイベント中は他のプレイヤーは全員ライバルなわけだし。
「とりあえず上陸してみよう」
「ムム!」
「モグモ!」
オルトたちを先頭に、警戒しつつ岩礁に乗り込む。何かお宝があるといいな。最悪なのはここでボス戦が発生した場合だろう。
足場がメチャクチャ狭く、非常に戦い辛いと思われた。
「……なんも起きないな」
「フムー」
「ムム?」
みんなで岩礁を調べてみるが、特に何も発見できない。オルトたちの掘削でも、ルフレたちの海中探査でも、成果はほとんどなかった。
一応、サザエが獲れたので、無駄ではなかったんだけどね。
釣りをしたりもしてみた。何かレアな魚が釣れないかと思ったのだ。だが、釣れる魚はサバなどの普通の魚ばかりである。
「もう少しで日も落ちるが……。いや、夜釣りにも挑戦してみるか」
時間帯で釣れる魚が変化するギミックは、あってもおかしくはなさそうだ。
そのまま皆で釣り糸を垂れること二時間。
夕日に染まる大海原を見て感動したり、暗い海にちょっと怯えたりしながら釣りを続けたんだが……。
「珍しい魚は釣れないな」
ペルカの漁火を使ってもらったり、ルフレに海中の様子を確認したりしてもらったが、昼間と大きな変化はなかった。
「仕方ない。切り上げるか」
俺がそう呟きつつ、腰を上げたその時だ。
「モグモー!」
「ド、ドリモ?」
珍しい、ドリモの悲鳴が響き渡った。慌てて振り向くと、ドリモがなんか光っている。いや、違う。ドリモの立っていた場所に、光が立ち昇っているのだ。
大慌てで飛び退くドリモ。すると、ドリモに被っていた光の正体が明らかになった。
「アンデッド? いや、イベントマーカーだ。じゃあ、NPCか?」
そこにあったのは――いや、いたのは、半透明の男性であった。まるでミイラのように痩せこけた男性の幽霊だ。
「……ああ、あの忌々しいクラゲめ……。あいつ、俺たちの船の旗を覚えやがったんだ……。どこまでも追ってくる……。逃げられない……。海流から逃れ、渦をかわし、岬を超えれば俺たちの村まではもう少しだったのに……。旗を畳めばよかったのか……? だめだ、あれは俺たちの誇り……。でも、奴はどこまでも旗を追いかけてくる……。俺は小舟で逃げ出した。仲間を裏切ったんだ……。岬で沈んだ船はどうなっているだろうか……」
一方的に呟き続けていた幽霊は、最後に涙を流しながらスーッと消えて行ってしまった。居た場所を調べても、特に何もない。今の台詞を聞かせる為のイベントだったらしい。
しかし、すっげー長いモノローグだったな。ログを確認する機能がなかったら、確実に重要な情報を逃していたぞ?
俺はログを確認しつつ、今の言葉の意味を考える。
「クラゲね。船を沈めるようなクラゲ? それって、海流のところにいたデカイ触手の持ち主じゃないか?」
で、そいつに狙われた船が、逃げて逃げて、結局岬の先で沈められたというわけか。つまり、沈没船の位置を教えているんだろう。
「紺碧の海に沈む沈没船! やばい、冒険とお宝の香りしかしない!」
まあ、危険の匂いもプンプンしてるけどね。
レビューをいただきました。ありがとうございます。
色々と例えていただいて、ちょっと笑ってしまいました。
今後とも、ハードとは無縁の本作をよろしくお願いいたします。