415話 ミニゲームと魚拓
海獣の森に近い海岸にやってきたんだが、海面を見る限り特殊な場所とは思えない。
ただ、岸から十数メートルほどの場所に、何か茶色っぽい物がユラユラと揺れているのが見えた。あれがジャイアントケルプかな?
さらに遠くの海面を注視してみる。
「あー、あの辺、なんか浮いてんな」
岸からかなり離れた場所に、同じような謎の物体が顔をのぞかせていた。海面付近を無数の何かが漂っているようだ。
ただ、ラッコは全く見えない。しばらく粘ってみたんだが、影も形もなかった。
「近寄ってみたいけど、海に入るのは怖いよな」
ルフレとペルカなら泳いでいけるだろうが、できればみんなで近くまで行きたい。
「船を借りてくるか」
「フム!」
「ペペン!」
ルフレたちが嬉しそうに手を上げて、賛同の意を示してくれる。そう言えば船を引っ張るのが好きだったな。
「じゃ、とりあえず貸船屋さんにいくか」
そうして漁村に戻ってきた俺だったんだが、船を借りる前にある場所に寄っておくことにした。
それは、船着き場の横にある小屋だ。実は、ここはこの村のミニゲーム開催場所らしいのだ。
西の農村のヒマワリ迷路に比べるとかなり小さいが、あってるよな?
「すいませーん」
「うむ、よくぞ来た!」
「ああ、間違いなくここだわ」
小屋の中には、1人の日に焼けた老人がいた。白タンクトップにねじり鉢巻きという、いかにも海の男って感じの格好をした威勢のいい男性である。
前情報で聞いていた通りの姿だった。
「ここで、魚拓を集めていると聞いたんですが」
「魚拓っつーか、魚を買い取ってそれで魚拓を作ってるんだよ! 俺は魚拓集めが趣味でな! 特殊な方法で魚拓を作って、それをコレクションしてるんだ!」
早い話、ここでのミニゲームは魚釣りとそれを使っての魚拓作製だった。
魚のサイズと種類でポイントが決まり、それに応じて特典がもらえるらしい。参加賞は魚の餌。今まで確認されている中で最も良かった特典が、魚拓作製セットだそうだ。
「えーっと、この湾の魚じゃないとダメなんですよね?」
「その通りだ! あと、自分らで釣った魚じゃなきゃ認めんぞ!」
魚拓なんだからどんな魚でもいいと思うんだが、老人には色々と拘りがあるらしい。釣って1日以内でなくてはいけないそうだ。
自分たちで釣った魚でなくてもいいそうだが、自力で釣る方がポイントが高いらしい。老人が言う「自分ら」というのは、プレイヤーたちという意味なのだろう。
「じゃあ、船を借りて釣ってみるか」
「楽しみにしてるぞ! ほら、これをやる! 参加賞の前払いだ!」
「ありがとうございます」
魚の餌を10個もらえた。これで釣れってことだろう。
「あ、そうだ」
小屋を出る前に、もう1つ確認しておかねばならないことがあったのだ。
ずっと気になっていたのである。この老人、ヒマワリの迷路にいた化石屋の店主にそっくりだった。
向こうは肌も焼けておらず、魔術師風のローブにモノクルという出で立ちだったが、顔の造作がとてもよく似ている。
「あの、化石屋っていうお店を知ってます?」
「おう! あいつは俺の弟よ! もしかして知り合いか?」
「そうなんですよ。ヒマワリの迷路でお会いしまして」
「そうかそうか! まあ、今後ともよろしくしてやってくれ!」
他に情報を引き出せないかと少し粘って見たが、有益な情報は特に得られなかった。ただ、化石屋の店主の関係者だというのであれば、ここでも特殊な情報やアイテムが期待できる。
これはぜひ大物を釣り上げなくては。普通に考えれば、ある一定以上のポイントを叩きだせば情報をくれるんだろうしな。
「ただ、最初は海獣の森へと行くぞ」
湾を出てから西側に広がっている海獣の森で、いくつかの生物を図鑑に登録してから釣りをするのが効率がいいと思うんだよね。
ということで、漁村で船を借りて大海へと漕ぎ出す。
「フムムムムムムム!」
「ペペペペペペペペ!」
いや、ルフレたちが引っ張ってくれているから、漕いではいないけど。
だが、すぐにルフレたちの勢いが衰え、進む速度がガクンと落ちてしまった。
「ジャイアントケルプが邪魔してんのか」
「フムー」
「ペペン」
茶色い反物のような物体が、海面に無数に漂っている。
海中を覗き込んでみると、巨大なコンブが海底から無数に生えていた。海底までは20メートルほどはあると思うが、ジャイアントケルプの長さは優にそれ以上ある。30メートル近いんじゃなかろうか?
海獣の森の名前の通り、そこはジャイアントケルプの森だった。
「えーっと、ラッコは――」
「フマ! フママー!」
「お、発見したか?」
「フマー!」
俺がキョロキョロとしていると、アイネが興奮した様子で飛び出していった。そして、一気に急降下すると、海面にバシャンと飛び込む。
いや、水飛沫が上がったから勘違いしたけど、海面すれすれで再び急上昇したようだ。
「フーマー!」
「うおぉ! ラ、ラッコさんじゃねーか!」
「フマ!」
「キュー」
なんとアイネがバックハグするように、ラッコさんを抱きかかえていた。